あなたの身体の中で嫌いな場所はどこですか?
ああ、ごめんなさい。これ、最後の質問でした。改めて質問です。あなたの身体の中で好きな場所はどこですか?
そう聞かれて、はっきり「ここ」って言える人は、なかなかいないですよね。好きな場所がない人はもちろん、本当はあるのに言うのが恥ずかしいって人だっているでしょうから。
そうそう、言い忘れてました。私の質問に、言葉で答えを返さなくてもいいですからね。言葉にするのもしないのも、あなたに任せます。もちろん、ウソをついたっていいですよ。どうせ本当の答えは、もうあなたの頭の中に、ちゃんとあるんですから。
それでは、次の質問です。あなたが好きな人の身体の中で、好きな場所はどこですか?
ええ、好きな人は誰でも構いません。テレビに映るアイドルでも、あなたの家族でも、ちょっと気になる先輩やクラスメートでも。
前に、私の質問に答えてくれた中学生の女の子は、先生の手が好きだと言ってました。大きくて温かくて、タバコのにおいがするから、と。ええ……口にしなくてもいいって、最初にちゃんと言ったんですけどね。好きな人のことって、誰かに聞いてもらいたくなるのかな? この質問になると、みんな口が軽くなるから。
はい。それじゃ、次の質問です。あなたが嫌いな人の身体の中で、嫌いな場所はどこですか?
これは、ちょっと難しいでしょう。嫌いな人はパッと浮かんでも、嫌いな場所ってなると意外にわからないものですから。えっ、簡単? ああ、全部嫌いなら確かに簡単ですね。でも、それって裏を返せば、その人の全部が気になるってことですよ。好きな人は一部だけなのに、嫌いな人は全部が気になるなんて、きっと人間って好きな人より、嫌いな人の方が大事なんですね。そうそう、さっきの先生に恋した女の子も、嫌いな人たちについては、すごく熱心に話してくれました。
彼女が嫌ってたのは、クラスメートの女の子でした。嫌いになった原因は、大好きな先生を誘惑したからだそうです。まあ、二人が誰もいない教室で、いかがわしい事をしてる場面にバッタリ遭遇しちゃったってのが、実際のとこなんですけど。ちなみに嫌いな場所は、やっぱりその子の全部ってことでした。
それで結局、先生に恋してた女の子は、大嫌いなその子を、駅のホームから突き落として殺してしまいました。ところが、このロリコン教師、手を出してた女の子の数が一人や二人じゃなかったものだから、もうたいへん。女の子は先生といやらしい関係になった子を、片っ端から殺しました。結局、四人目に手を掛けようとしたところで捕まって、今は病院にいるみたいです。
すごいのは、ロリコン教師です。自分と関係を持った女の子が次々殺されてるのに、行いを改めようなんて素振りも見せなかったんですから。もう、ゾクゾクするくらいのクズですよねえ。女の敵ですよねえ。そのうち、悪魔がスカウトに来ますよ。こんな有望株、普通なら放っときません。
あら、ごめんなさい。余計な話をしましたね。では、いよいよ最後の――あれ? なんだか「なに言ってるんだ、こいつ」みたいな顔になってますよ。ですよねえ。大抵の人は最後の質問の前に、今までの質問の意味を知りたくなるんです。まあ、別に秘密でもなんでも無いんで教えてあげますけど。これは、あなたにとって要らないものを探すための質問です。ほら、好きでも嫌いでもないものって、ある時、ふと消えても気にならないし、そもそも無くなったことにも気付きませんよね。それって、最初っから何も無いのと同じでしょ?
学校の先生、先輩、クラスメート、会社の上司、同僚、親戚、家族、腕、脚、両目、脳、心臓――あなたが好きでも嫌いでも無い、どうでもいいものは、全部回収してリサイクルします。とってもエコでしょ?
そろそろ最後の質問、いいですか? もう、あきらめてください。これを開いて読み始めた時点で、手遅れです。それに、それが無くなったところで、あなたは何が無くなったかもわかりません。だから、大丈夫。ズバリ答えちゃってくださいね。では、聞きますよ。
あなたの身体の中で嫌いな場所はどこですか?
聞いても無駄だと思いますが、あなたは何を失いましたか? 「時間」とか言わないでくださいね。