私は当分犬好きで。
「ネズ子よ、動物の中では何が一番好みだ」
「え ? えっと、何度も言うけど・・・犬が好きだよ ? それと、私の名前はスズ子だから・・・」
私の隣の席のクールビューティー王子、猫柳君。
外国の血を窺わせるサラサラで色素の薄い髪。薄茶色の目。
誰もが振り返る容貌。運動神経も素晴らしく、頭も良い。まさにパーフェクト。
そんな完璧な王子様が、平凡を絵に描いた様な私の隣の席になったのは、ついこの間。
周りの嫉妬を買いながらも何とか、上手く遣っていた。・・・のに。
お隣さんの猫柳君、最近ちょっと変よ ? どうしたのかな ?
「ネズ子・・・私も何度言ったか分からないが、もう一度言うぞ。良く聞け。いいか
犬なんて生き物はな、臭いし、うっとうしいし、何でも取り合えず口に入れてみる卑しい奴らだ」
「でもでも私、ゴールデンレトリーバーとか、大きい子が・・・好きなの。フレンドリーな感じがするでしょ」
自分が、どこもかしこも小さいから大きい動物が好きだ。自分には無いものに惹かれると言う奴だろうか。ちなみに、ハムスターは好きじゃない。
「大きい・・・・なるほど。では、お前より大きな猫ならば好きになるのだな ? 」
私より大きな猫 ? トラ ? ヒョウ ?
「それはちょっと恐いから・・・・嫌かな・・」
「恐がるな。恐がらずに受け入れるのだ。その猫は、お前がいかに、美味そうでも決して気概は加えない。・・・・どうだ、やはり猫だな ? 」
「う・・・うぅん・・それでも、犬が好き・・かも」
――休み時間。
「ねぇ ! ちょっと、中原さん ? さっき王子と何を話していたの ? 」
トイレに行こうと廊下に出た所をクラスの女子に捕まった。
「え ? 別に何でもないよ ? 」
「何でもなくは無いでしょう ! あの猫柳君と話してたんだから ! ねぇ、言いなさいよ」
クラスの女子は必死である。ノーブル王子こと猫柳は、高貴で近寄りがたく皆は遠巻きに眺めるのが正しい付き合い方だ。
「・・・猫と犬、どっちが好きかって話だよ ? それで、猫柳君は猫派だって」
「へぇぇーー、やっぱり猫派なんだ。高っい猫飼っていそうだもんね ! 」
「・・・・・・・・」
私は、彼が猫を飼っているとは思わないな・・・飼っていると言うより・・。
「どうでも良いんだけど、中原さんはどっちって言ったの ? 」
「犬」
「ふぅん。でもそこは、相手に合わせて猫って言わなきゃーー。あっ ! 次の授業始まっちゃう ! じゃ、ありがとね」
次の授業を知らせる鐘が鳴ってしまった。・・・トイレに行きそびれた。
猫柳君、彼はだいぶ皆と違う。
皆は誰も何も言わないけど、私には彼が普通とは違って見える。
友達に話したら、彼の気でも引きたいのかってからかわれた。どうやら、皆には見えていないらしい。思い余った私は近所の脳神経外科を受診してしまった。結果は異常なし。受診理由を話すと、違う科の病院を紹介されそうになって急いで逃げた。
どうして ? どうして見えるの ?
猫柳君の頭の上に・・・・・・・・『猫の耳』が。
「ネズ子よ。猫の良さは一緒に暮らし、触れ合わなければ分からん。膝に乗せたり乗せられたり、舐めたり舐められたり。私はそう思うのだ。私の城はお前好みに、とても大きい。近隣国の中では一番だ」
彼の少し理解不能な言葉が静かな教室に響く。
「猫柳君 ? 」
「どうだ猫を好きになってみないか ? 」
頭の上のビロードの様な灰色耳がピンッと『立った』
「あのね・・今は駄目だよ ? 静かにね」
「何故だ !! 何故拒む ! お前は、取り合えず猫が好きだと言えば良いのだ ! そうすれば連れて行けーーーー」
「しっーーーー !! 訳分かんないけど、とにかく駄目だってばっ」
「そうだな。駄目だな。授業中に堂々と私語は(怒)」
怒り心頭の先生は私達に向かって、今は懐かしい処罰を下した。
「廊下に立ってなさい !! 」
「はい・・・すみませんでした」
「くっ・・ふかくっ」
どこの武士の人ですか ? 上を見れば耳が寝ていた。やはり付いてる。
そんなこんなで「猫が好き」とは、とても言えない。言ったが最後、何が起こるかわからないから。
私は、当分犬好きで。
ネズ子が猫が好きと言ったら異世界トリップです。でも、言わなかったのでファンタジーになりました。
自分的には、行の間を空けてみました。どうでしょう。見えますか?