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File:1 -------作ってみたけど探偵部-4

「分かってるじゃん。なら、話は早い。勿論戦ってくれるでしょ?」


 光が好戦的な目を龍院に向ける。



「本気で言ってる? 戦わなきゃ駄目か?」



 彼女がこうして龍院に挑む理由は、恐らくは順位を上げるためだろう。



 国家能力者育成高等学校――つまり、龍院達が通うこの学校には様々な能力者が集まっている。特級能力者(Gアビリティ)は極稀にしかいないのだが、能力を持っている人間、能力保持者

キープアビリティ

は少なからずいる。そんな、高校生に値する年齢を生徒を全て受け入れているのが、この高校なのだ。




 全校生徒の数は約三千人。そして、この学校には順位というのがある。例えば、定期的に行われる実践的なテストであったり、そういったものの評価で順位が決まっていくのだ。そして、順位はポイントを稼ぐことで上がっていく。



 ポイントを稼ぐのに、一番手っ取り早いのは自分よりも上位にいる生徒を倒すこと。殺すまではいかないまでも、相手が降参するまで戦うことでその相手の持っているポイントの半分を全て手に入れることが出来る、という便利な制度だ。



 しかし、上位の生徒にとっては下克上の可能性がある悪法でしか無かった。



 そして、龍院にとっても悪法である。


 現在の校内順位の一位から四位まで。その全てを龍院達特級能力者(Gアビリティ)が独占しているのだった。だが、それも仕方が無いことである。




 何せ、国から特別扱いを受けるほどの存在なのだ。


 そして、そんな自分に挑むなんて、なんて無謀で、滑稽なのだろう。



「私達の事、馬鹿にしてるの?」




「だって、B級だろ?」



 特級、S級、A級、B級、C級、D級、E級、そして最下位のF級。これが、ランク付けだった。つまり、B級

といえば、中堅レベルと言えるだろう。強くは無いが、弱くも無い。微妙な位置づけだ。



 特級の龍院にしてみれば取るに足らない相手。逆に言えば、この三姉妹にしてみれば龍院を相手にする事は無謀にも程がある。



「B級の何が悪いって言うの? それとも、あんたは特別な訳?」



 そう聞かれて、龍院は戸惑った。



「――そうだなぁ。特別じゃない方がいいかな」



「何それ」



「大体、根本的に間違ってるだろう。順位は?」



「六八七、八、九位よ」



 恐らく上から長女、次女、末っ子の順だろう。



 B級――しかも一年にして、それならばかなりの実力者といえよう。ランク以上の力だろうか。



 ――だが。




「自分の力を過信しているな」



「何言ってるの? 私達三姉妹はB級だけど、三人集まればS級にも匹敵するのよ。これが過信?」



「ああ、過信だな。特級の俺でさえ、自分の能力に確固たる自信は無い。それは、世界があまりにも不完全で、俺自身がそれよりももっと不完全だからだ」



 龍院の存在が不完全であるように。



「意味分からない! ともかく、あなたは私が倒す! そして、順位を上げるの。私が一位になるの!」



 そして、蛍、光、灯の三人がそれぞれ能力を発動させた――。



 龍院は素早く間合いをとった。それを、三人が囲むようにして陣形をとる。



「多方位攻撃か」



 蛍の手が淡い光を帯びてきた。見回すと、光、灯も同じように淡い光を手に帯びさせていた。



 それが、本当に信号機のようになっている。訓練された兵士のように、全く同じ動作で三人が一斉に掌を龍院に向けた。



「炎煙

えんえん

!」



 ゴォッと炎が蛍の手から放出された。凄まじい勢いでその炎が龍院に襲ってくる。唸りをあげるようにして、まるで龍となった炎は龍院のすぐ間近にまで迫ってくる。



「あつっ……よっと」



 それをすんでのところで交わした。だが、その余りの熱量に掠った服に火種がつく。焼かれるような痛みが腕に走った。



 しかし、この程度で音を上げていては校内トップの座を守れるわけが無い。



 龍院は、無理矢理笑みを作ると体制を立て直そうともう一度間合いを取ろうとする。




「させない。氷煙

ひょうえん

!」



 ゾクリと冷気が体をおかしていく。



 ――今度は冷気か!



 後方から光に能力を発動される。熱気からいきなり冷気に変化して、一瞬対応が遅れた。徐々に温度が下がっていく、運動機能が麻痺しはじめる。



 更に冷気が強まっていく。歯が震えだした。



「――ッッ」



「どう? 氷点下九十の世界は寒いでしょ?」



 猟奇的な笑みを光が浮かべた。


 龍院は敵を侮りすぎていたと後悔した。確かに、順位は取るに足らないが実力と順位は結びつかない。実際、力はあるのに目立つことを嫌ってわざと下位にいるような生徒も少なからずいる。



 絶妙な連携プレーだった。蛍が気を逸らす間に、光が能力の発動の準備をする。この能力は恐らく、特定の範囲に冷気を立ち込めさせる能力。しかも温度変化も自在らしい。



 体のあちこちに氷が付着し始めた。身動きが取れなくなる。



「…………油断したッ」



「自分の力を過信しすぎたね」



 クスクスと蛍が笑った。



「それじゃ、締めと行きますか。蛍姉さん」



 光が蛍に声をかける。コクリと頷くと、



「炎煙!」



 ――どういう事だ?



 龍院は目を見張った。


 何故、この氷が溶けるような事をするんだ? 先程よりも冷気は弱まっていた。



 戦闘の始めのほうで味わった、熱さがジワリジワリと身に焼きついていく。



 それと同じで、先ほどまで龍院に付着していた氷も急速に溶かされていく。



「いいのか? そんな事して」



 しかし、光に張り付いた笑みは取れることは無かった。



 先ほどまで服についていた氷が溶けたせいで、水浸しになってしまった。徐々に、麻痺していた感覚が戻っていく。



 途端に激痛が龍院を襲った。



「ぐぁっ!?」



 それもそうである。つい先程まで、氷漬けにされていたのだ。蛍が炎を出すのを止めた。





 龍院はフラフラと立ち上がろうとするが、すぐに地面に倒れてしまう。



「それで、次はどんな苦痛かな?」



「これで最後よ。案外、あっけないね」



「そういうなよ」





「――ここからが楽しいんだから」



 小声で龍院が呟いた。


 空から雨が落ちてくる。



「前略。サヨナラ。雷煙

らいえん



 最後の一人、今までは見ているだけだった灯が呟いた。



「成程ね。氷を溶かしてでた水に電気を打ち込むことで、感電させるって事か」


「今更? 遅いわね」


 蛍が得意気に鼻を鳴らした。



 三人が上手く連携しないと出来ない素晴らしい技。それが、龍院の感想だった。S級に匹敵というのもあながち嘘ではないらしい。


 ただ。



 ただ、少し。



 ――状況管理能力が乏しいようだが。



 灯の手から放たれた稲妻が真っ直ぐに龍院に向かっていく。


 上から大量の雫が落ちてくる。



「えっ?」


 呆然と言った感じで、三姉妹が空を見上げた。



「気づかなかったか? 少し前から降ってたんだぜ? 光っけか? お前が凍らせたおかげで中々落ちてこなかったけどな」



「そんな……」



 呆然とする光とは対象に蛍がヒステリックな声を上げた。



「灯!! 早く止めて!」



「前略。……もう間に合わない」



 ズガッという音とともに龍院の全身に痺れが走った。


 しかし、それは相手も同じで。


「嫌ああああああぁぁぁぁぁぁぁ!?」


 絶叫する灯。他の二人は、既に意識が無いようだ。



 龍院はそっと呟く。



「三重能力

トリプルアビリティ

。一節――精神増強

マインドアップ



 急激に意識が明確になっていく。痛みが引いていく、痺れが取れていく。



 龍院はしっかりとした足取りで立つと、感電して気絶した三人を一斉に抱きかかえた。



「……お疲れ様」



 その顔は酷く優しいものだった――。








「望みは何?」



 龍院達と入間三姉妹は揃って保健室に足を運んできていた。正確に言えば、足を運んだのは龍院だけなのだが。自分達の技で感電して気絶してしまった三姉妹を雨の中に放置するわけにもいかなかったので、仕方なく運んできたのだ。


 しかし、起きた途端にこれである。まるで、龍院が悪者のような気がしてきて少し不快になった。が、それを年下に言っても使用が無いので、龍院は一つ溜息を吐いた。



「悪代官じゃないんだから、そんな要求なんてしねぇよ。それにしても、自分の技くらって倒れるってある意味新鮮な体験じゃね?」



「五月蝿い! 本当だったら勝てるはずだったの!」


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