異世界転生したけど、魔法なかった(ざっくり版)
高校生・斎藤悠真は、突然、異世界へと召喚された。
異世界転移――ゲームや漫画でしか聞いたことのない出来事が、自分に現実として降りかかった瞬間だった。
彼が目覚めたのは、灰色の空と見知らぬ建物の中。そこは「魔法」が確立していない世界だった。
彼は意気込んでいた。「どうせなら無双してやろう」と。しかし希望は脆くも崩れ去る。
ここには、彼の想像していた“魔法”という概念すら存在しなかったのだ。
さらに追い討ちをかけるように、彼は奴隷として売られ、過酷な日々を送ることになる。
道具のように扱われ、名前すら呼ばれない生活。そんな絶望の中、彼は一人の謎めいた僧侶と出会う。
「君には“流れ”が見えているはずだ。感じてごらん。世界に満ちる、名もなき力を。」
僧侶の言葉に導かれ、悠真は己の内に眠る力へ意識を向けた。
何度も集中を試み、ついに――“魔力”を感じ取ることに成功する。
それは、空気中に微かに漂う特別なエネルギーだった。
元いた世界には存在しなかった力。だが、この世界でも未だ誰もその有用性に気づいていない。
彼は試行錯誤を繰り返し、やがて魔力を指先から放出する技術を手に入れる。
わずかに温かく、確かにそこにある力。それを使い、寒さを凌ぎ、小さな灯火を灯すようになる。
さらに研究を重ねるうちに、魔力を一点に集中させることで発火することを発見する。
それは――この世界で初めて創造された“魔法”だった。火の魔法。
「誰も見たことがない? なら俺が、最初になればいい」
彼は火の玉を飛ばし、ついには奴隷牢からの脱出を果たす。
だが街は騒然。騎士団に追われ、森へと身を潜めることとなる。
森の中、初めての“魔物”との戦い。
イノシシのような獣に襲われ、火の魔法でなんとか撃退。
その瞬間、魔物の死とともに放出された魔力を吸収し、さらに強力な魔法を生み出す力を得る。
やがて、魔力の過剰吸収により、物質の温度を下げることに気づいた。
彼は物体を凍らせる能力にも目覚めた。
氷結魔法――彼の手によって、火と氷、二つの“魔法”がこの世界に生まれたのだ。
戦いに慣れ、森での生活に一定の安定を得た悠真は、ついに街へ戻る決意を固める。
冒険者ギルドに赴き、登録をしようとした。
しかし受付で「武器は何か」と問われたとき、彼は答える。
「火と氷の魔法で戦います」
当然、誰もが彼を嘲笑した。
魔法という概念が、この世界には存在しないのだから。
だが、彼はその力を見せつける。
絡んできた粗暴な男のマントを、火の魔法でこっそり燃やし、「これが俺の武器だ」と宣言した。
クエストを受注し、見事に遂行。
だが火の魔法では素材が焼け落ちるという欠点があった。
皮も骨も台無し。だから彼は、次なる“魔法の創造”に取り組み始める――
「……銃のような、そんな魔法があればいいのに」
「もっと、一撃で仕留める手段があれば……そう、“銃”のような魔法が使えたなら」
かつての世界で当たり前に存在した道具。火薬と弾丸が組み合わさり、小さな筒から凄まじい速度で物体を撃ち出す――あの“原理”を魔力で再現できないかと、彼は考えた。
まず必要なのは爆発に相当する力と、それによって飛ばされる質量を持つ“弾”。もし銃が無理なら、大砲でも構わない。とにかく、「質量を魔力で飛ばす」ことができればいい。
悠真は魔力を放出し、それを“ぎゅっ”と一カ所に圧縮していった。空間の一点に、力を込めてさらに小さく、さらに密度高く――
そして、解放。
圧縮されていた魔力が一気に弾け、大気を揺るがす風が吹き抜けた。思わずバランスを崩すほどの衝撃。
その瞬間、彼は確信した。
「これは……爆発と同じだ。体積の急激な膨張を、魔力で再現できる」
次に用意したのは一つの小石。石の隣で魔力を圧縮し、解放すると――石が弾け飛んだ。
しかし同時に、指先に強烈な痛みが走る。魔力の反動が、直接彼の体に負荷を与えたのだ。
「撃つだけでは、体がもたない」
悠真は防御と固定のため、金属製のコップ状の器を入手する。
筒状の容器の中に弾を入れ、その内部で魔力を凝縮させてから、解放――
その瞬間、石はとてつもない速度で発射された。
風を切る音とともに、木の幹にめり込み、砕け散った。
成功だった。
ついに彼は、魔力による“銃”の魔法を創造したのだ。
それ以降、悠真はこの“銃の魔法”を武器に、次々と強力なモンスターを討伐していく。
クエストの成功率は驚異的で、他の冒険者が尻込みする任務も、彼は単独で成し遂げていった。
やがて、町の人々の注目を集めるようになる。
「おい、あの青年だろ? 火も氷も操るうえに、弓矢もないのに矢を飛ばして獣を撃ち抜くって……」
「なんでも“魔法使い”って呼ばれてるらしいぜ」
そう、彼には仲間ができた。
最初は興味本位で近づいてきた者たち。だが彼の誠実さと優しさ、そして実力に惹かれ、やがて彼らは“仲間”となっていった。
――名もなき奴隷だった青年は、いまや一つの“称号”を持つに至った。
魔法使い――
それは、この世界で最初に“魔法”を創り出した者に贈られるべき、新たな伝説のはじまりだった。