001 目醒め
もふもふ
もふもふ
顔にヌイグルミがぶつかるような感触で意識がはっきりしていく。
もふもふ
もふもふ
バコッ!
ーー痛いっ!
ミコトの意識は覚醒した。
「二回目じゃない?」
「その通りだ。情け無い」
目が覚めると暖かく柔らかい布団の中にいた。宿屋のベッドで寝ていたようだ。外は暗く、どれくらいの時間がたったのかわからない。そもそも白猫に足を飛ばされてからの記憶がない。
「足!?」
起き上がって確認する。
足は普通にあった。
「どうして?」
「やはりワタシの考えた通り、足も生えたな。ひょっとしたら首から上も?」
「怖いフラグを立てないで下さい。というかあのときクロがそんなこと言うから、現実になったんじゃないですか」
「ワタシのせいにするな。悪いのは全てあのテムとかいう獣堕ちのせいだ」
「テム……そういえばみんなは!?」
「安心しろ。全員無事だ」
「良かった……」
ひとまず落ち着くと、体がどっと疲れてくる。
「私はどれくらい意識を失っていたのですか?」
「丸一日ってところだ。よく寝たから元気になったんじゃないか。」
「じゃあ今は夜遅くですね。みんなはもう寝てますよね?」
「そうだな。起きてる気配を感じないから寝てるだろうな。あいつらなら少し騒げばすぐに起きると思うぞ。やるか?」
「やりませんよ。明日の朝で結構です」
「そうか。しかしあいつら思ってたより強かったな」
クロが笑いながら言う。
「本当に強くて、優しい仲間です。仲間になれて本当に良かったです。ところで私の意識が無くなった後のことを教えて下さい」
今の状況になった経緯が全く想像できなかった。全員無事だったことは良かったが、何が起きたのか知る必要があった。
「ワタシもそろそろ寝たいのだが」
「教えて下さい」
クロが少し眠たそうに話し出す。
「そんなに大したことはないぞ。仕方ない」
カンナがミコト達に合流する少し前に遡る。
クロがミコトと分かれて猫に戻るのを待っていたとき、クロは異変を感じた。確かに猫に戻る前兆を感じたのに、その後全然戻らなくなったのだ。
そうこうしている内に、ミコトが向かった方向からも嫌な気配を感じた。強いダークの気配だった。
「何かが共鳴している?ワタシが何か別の存在に引っ張られているのか?」
クロは今まで他の獣堕ちと会ったことが無かった。
不吉な存在を感じた自分の感覚を信じて、ミコトの元へ向かうことにした。
「ミコトめ。問題ばかり遭遇しおって。しょうがないやつだ」
猫の姿に戻れないだけで、意識は少しずつぼんやりしていく。走ることも出来ず、ゆっくりと歩く。
そんなときふと後ろの気配に振り向けば、そこにはシノを担いだカンナがいた。
「なんだ、カンナとシノか」
「どうして私達の名前を知っているのですか?」
「あっ…………にゃーん」
「どうして猫の鳴き声?」
「あっ……」
警戒はされていないが、不思議には思われていた。
「ひょっとして……クロ?」
シノにバレた。
「クロって獣堕ちだったんですか?しかも人間のときはこんな可愛らしい女の子?」
「シャーー」
もはや誤魔化すことは出来なかった。
仕方なく自分が獣堕ちだったことを認め、ミコト達に危険が迫っていることを伝える。
「なるほど、クロに敵意は感じませんし、とりあえずミコトくんのところへ一緒に連れて行きますね。」
「は?」
カンナは右にシノを、左にクロを担いで走りだした。両手に幼い女の子を担いで走る姿は、流石のカンナでも犯罪に見えた。
「バカもん。放せ」
「急いでいるんでしょう?大人しくしていて下さい」
「偉大なワタシに何をするーー!!」
クロの叫び声が虚しく響く。
このとき運ばれている途中にクロがカンナ達に言ったことが二点。
一、ミコトが傷を負っていた場合、カケラを渡せば治ること
二、自分と相手の獣堕ちは鉢合わせしないようにして欲しいこと
そして今に至る。
「さて、こんなところだ。さぁ寝るぞ」
「ちょっと待って下さい。クロの正体がみんなにバレてるじゃないですか」
「過ぎたことをクヨクヨ気にするな。おやすみ」
「ちょっとぉーー!!」
朝になり、みんな朝食の為に机に集まる。
「えーっと……皆さんお騒がしました。皆さんのお陰でなんとか足も無事に、目覚めることができました。ありがとうございます」
「隠し事が多いミコトくんだ。元気になって良かったね」
ユキがチクっと言う。
「隠し事ばっかのミコトじゃねぇか、まぁ無事で良かったんじゃねぇの?」
コヨミがグサっと言う。
「クロ可愛い」
シノがクロを撫でながら言う。
「まぁ、出会ったばかりでクロのことは言い辛いことかもしれませんし、今からは本当のことを言って貰いましょう」
カンナが笑顔で言う。
「皆さん黙っていてすみませんでした。私達のことを全て言います」
ミコトがばつが悪そうに言う。
クロのこと。
何故かカケラで傷が治ること。
クロのことはともかく、傷が治ることはミコト達にも理由がわからないことだった。
「全て話してくれてありがとうございます。実際キョウコちゃんのことは、クロのことがわかっていても防げなかったことだと思います。獣堕ちは基本的には、この世界で嫌われ迫害を受けていることからも、黙っていたこともしょうがないでしょう」
カンナが話を纏める。
「えっ……ワタシは迫害を受けてるのか?」
珍しくクロが小声で呟く。ショックを受けているようだ。
「お前一体何したんだ?獣堕ちってよっぽどだぞ」
純粋な好奇心でコヨミが聞く。
「まぁ過去の話はやめましょう。前世のことで余計なしがらみがあっても困りますし」
カンナが詮索を止める。
「まぁそうか。絶対知りたい訳じゃないしな。悪いな、クロ。これからもよろしく!」
相変わらずさっぱりしていて気持ちがいい。
「でもクロの分のカケラも集めるなんて、ミコトくんが生まれ変わるのは、かなり先になりそうだね」
ユキが心配する。その心配はもっともだった。普通の悪人でさへかなりの数のカケラが必要なのに、獣堕ちであればどれほどの数になるというのか。
「確かに大変だと思います。でもこの世界にきて最初にクロに会えたおかげで、生き延びることができたと思います。なのでクロに付き合おうと思っています」
ミコトの答えにクロが満足気に頷く。
「そうですか。それだけの強い気持ちがあればきっと大丈夫でしょう。ところで皆さん現在のカケラの所有数はどんな感じですか?」
カンナが話の舵を取る。
カンナ三個
コヨミ二十一個
ユキ 四十三個
シノ 七個
ミコト九個
「ミコトは傷が治るとカケラが一個消えるんだな。誰かの命を犠牲にして傷を治してるんだな」
コヨミが笑いながら言うが、言われた本人は笑えない。
今まで考えなかったが、確かにそういうことだ。カケラは命なのだから。
「あなた本当デリカシーがないのね!」
ユキがコヨミの後頭部を叩く。
「痛っ!何すんだお前!」
「何すんだはこっちのセリフ!」
コヨミはミコトの方をチラッと見る。そこには青ざめて落ち込む姿があった。
「悪かったよ。責めるつもりじゃなかったんだ。ただお得だなって思って」
次は脇腹をシノに小突かれる。
コヨミはもう口を開かなくなった。
「せっかく助かったんですから、暗い気持ちで居たら、逆に申し訳ないですよ。これからをしっかり生きましょう」
カンナが勇気付ける。
「はい。ありがとうございます」
確かにカンナの言うとおりで、誰かの命を無駄にすることなく、しっかり生きていく決意を改めてする。
ふとクロが発言する。
「しかしお前達もかなりのカケラが必要だと思うが、今のやり方だとかなり時間がかかるぞ。大丈夫なのか?」
「俺は生き返るだけが目的じゃねぇからな。この世界ならひょっとしたら、死んだ人間にも会えるかもしれないし。だから変に強い奴と戦って負けるリスクを背負うよりかは、今の安全なやり方の方がいいんだよ」
慎重で堅実なやり方を口にしたのはコヨミだった。
ユキとカンナも大体同じ意見のようだった。
「でもシノちゃんは私達に付き合わなくてもいいんですよ?さっさとカケラを集めて生き返って下さいね」
カンナが優しく伝える。
「僕はみんなが好きだから、みんなの邪魔にならない限りは付き合う」
シノから強い意志を感じた。
「ありがとうございます。ではやり方も今まで通りということで、これからの動きを改めて確認しましょうか」
こうして今後の方針をみんなで決め終わった頃にはお昼になっていた。
次のカケラの回収対象のリミットまで大体五日ほど。それまでは毎日夕飯時に全員集まるが、それまでは自由行動とする。
ミコトはこれから一日交代で、カンナ達一人一人と一緒に過ごしていくこととなった。これはこの世界について意外と知らないことの多いミコトに配慮してのことだった。
そして最後の方針は、テムの所属していた集団にはもう関わらないことだった。




