007 幕間
ミコトは心配していた。ユキが強いことはわかったが、どれくらい強いのかまではわからなかったからだ。
自分が追い付いたところで何の足しにもならないかもしれない。しかしとりあえず行くことで、何か手伝いができればと考え急いだ。
光が見えたときは身体が冷たくなる感覚を感じた。ユキが殺されてしまったのではないかと、嫌な想像が頭を過ったからだ。シャインで剣を作りだし、もしもに備える。
ユキの姿が見えたときは安心した。しかしミコトにもわかるくらいに緊張感を持って、白猫と話をしているのを見て状況を察した。
あの白猫は敵であると。不意打ちをしてでも倒さないといけない。クロの強さは知っていたし、同じ獣堕ちである以上、クロと同格だと考えた。
その結果今に至る。
「ミコトくん!どうして来ちゃったの?」
どう考えても歓迎されていない言い方に、ミコトは冷静に判断する。
白猫が怒っていた。
「ひょっとしてやってはいないことをしてしまいました?」
「あと少し大人しくしてて欲しかったかな……」
先程までと違い、明らかに怒っている様子の白猫がミコトを睨みながら言う。
「貴様は何をしに来た。余の前に道化はいらん」
「すみません。間違いました」
「そうか、死ね」
白猫が言い切ると同時に、数十本もの黒くて大きな針が空に現れる。貫かれれば体に大きな穴があき、致命傷になるほどの脅威だ。
ダークで作った針は、シャインで作った剣に当てるだけで消すことができる。ただ問題はこの数の針全てに剣を当てることが不可能であることだ。
「ミコトくん逃げて!」
ユキが咄嗟に叫ぶが、ミコトは咄嗟には動けない。
大量の針が動き出す。当たるまでは一瞬だ。
流石に今が危機的状況であることは、ミコトでも理解できた。
そして刹那に考える。生き延びる方法を。
「シャイン!」
数十本の針が一斉にミコトを貫く。ユキですら、ただ見送ることしかできなかった。余りの勢いに砂煙が発生し、何も見えなくなる。
「ミコトくん?」
砂煙が少しずつ晴れていく。
「光の塊?」
ユキは自分の見た光景を信じることができなかった。砂煙の中にいたのは、ミコトではなく光の塊だったのだ。
「死ぬかと思いました」
光の塊が割れて、中からミコトが出てきた。
「ミコトくんそんなことできたの?」
「今思い付いて初めてやってみました。できて良かったです」
シャインで覆った卵のような空間の中に入ることで、ダークを全て防ぐ。
実際には対処法は沢山あるが、ミコトはこの場におけるダークに対しての絶対防御を生み出すことに成功した。
しかしそのことが後々大変なことになることを、今のミコトは知る由もなかった。
「貴様、何故それだけの力を持っている?」
白猫が驚きを込めて聞く。
「何故と言われても、この世界に来たときからこんな感じですが」
「おかしい、貴様の様な凡人がなぜだ」
ミコト自身、自分が強い力を持っている自覚はなかった為、白猫の反応に驚く。
「貴様には何かが干渉しているようだ。実に興味深い。気が変わった。貴様を連れていく」
「ミコトくん!」
ミコトは先程までの白猫は本気ではなかったことを知る。一瞬の内にミコトの右足の膝から下が吹き飛んだ。
「うわぁぁぁ!」
激痛に頭が真っ白になる。痛みと足がなくなった虚無感が心を襲う。元々普通の女の子だったミコトには耐えることができない。失神しようにも、痛みが意識を戻す。
「これで逃げられまい。しかし貴様うるさいぞ」
白猫がミコトに近づく。そこにユキが割って入る。
「もうこれ以上仲間を傷つけさせないわ」
ユキの槍が白猫に向けられる。
「貴様ごときが敵うわけないだろう。そんなこと貴様自身が一番わかっているだろうに」
「簡単に諦める人生は歩んできてないの。今も昔も」
睨み合う二人。余裕と緊張が共存する歪な空気がそこにあった。
しかし終わりはあっけなく訪れる。
「ようやく追い付きました。何とか命は無事のようですね」
「カンナくん!?」
いつの間にか隣にいたカンナに驚く。
「嫌な予感がしたから来てみれば、なかなかのピンチだったようですね。シノちゃんお願いします」
カンナの言葉に振り返ってみれば、シノがミコトに寄り添っていた。
そしてシノが自分の胸からカケラを一個取り出した。
「貴様等余の許可なく何をしている?」
白猫が凄い速さでシノに襲いかかる。
しかしそれが叶うことはない。
「邪魔しないで下さい。動物を虐める趣味はないので」
カンナの拳が白猫の顔面を捉え、小さな体を吹き飛ばす。
「相変わらずカンナくん強すぎだよ」
「それほどでもないですよ」
カンナが優しい笑顔で答える。カンナがこのチームのリーダーでいる理由。それはもちろん良くできた人間性もあるが、圧倒的な強さを持っているからでもある。
コヨミやユキのような強者ですら認める強さ。実際コヨミとカンナの初対面は、流血騒ぎだったが、無事に今に至る。
カンナが作った時間で、シノはカケラをミコトの胸に無事押し込む。
ミコトの体が光り、足の傷が治った。
「どういうこと?」
ユキには全く理解できない現象だった。カケラを渡した張本人であるシノも驚いていたくらいだった。
「今は詳しく説明している時間はありません。とりあえずエリザベートは倒してくれたみたいなので、もうみんなで帰りましょう」
「ふざけるな!帰っていいと許可した覚えはないぞ!」
「あなたに許可を頂かなくても結構です。帰りたいから帰るんです」
再び拳を叩き込む。白猫は何とか致命傷を防いでいるようだが、それでもダメージは増えていく。
そしてついに白猫が動けなくなる。
「あなたに直接恨みはないので、今日のところはこのくらいにしておきましょう」
「ふざ……けるな……」
強がってみたところで実力の差は一目瞭然だった。
「カンナとか言ったな。貴様一体何者だ」
「私は只のカンナですよ。何者でもありません。あなたこそ名乗ってくれてもいいのでは?」
「余の名前は、テムだ」
「なるほど。ありがとうございます。テムさん、そろそろ時間じゃないですか?」
カンナに指摘されると、テムは考える。
「良かろう。そこまでわかっているのなら今日のところは身を引いてやろう。だが覚えておけ。次はない」
テムはそう言うと姿を消した。
「あいつが引くなんて。どうしてなの?」
「今日はタイミング的に本気になれなかっただけですよ。もし彼が本気だったら、こんなに簡単にはいってません」
緊張の元がいなくなり、ユキは少し落ち着く。
「カンナくん。ミコトくんの意識が無くなったよ」
シノが報告する。
「足が治って痛みが無くなったので、気絶したんでしょう。私が運びますよ。ユキちゃんはコヨミに戻るように伝えてくれますか?」
「わかった」
ユキが立ち去る。
「さて、これでいいですよね?後でいろいろ聞かせて貰いますよ」
カンナが物陰に向かって話しかける。
そこには今にも消えそうな意識と戦いながら、何とか意識を保つ人間の姿のクロがいた。
「うむ。しかしワタシももうダメだ。一旦眠る。」
言い終わるとクロも意識を失う。獣堕ち特有の姿が変わる周期で起きる意識の昏睡だ。
「しかし同じ状態であそこまで戦えるテムとは一体どれほどの実力なんだ」
カンナが呟く。
こうしてミコトの初めての長い戦いが終わる。




