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異性転生  作者: 貴志
第一章 猫との出逢い
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005 戦い

~コヨミ~


「クソっ。どこまで続いてんだ。いっそのことこのゴミ山を掘って進むか」


 大きい独り言だった。ミコトとユキと別れて数分。コヨミの独り言は止まらなかった。


「そもそもよく考えたら、俺様はエリザベートを見たことがねぇな」


「うるさい訪問者ですね。しかも独りで。そんなに騒いでいると敵に見つかってしまいますよ」


 急にコヨミに話しかける男がいた。

 気品のある服装に身を包んだまるで貴族のような銀髪の男だった。

 ただ貴族が持たないであろう、人の命を奪うことに特化したような剣を持っていること以外は。


「見つかるんじゃねぇよ。俺様が見つけてるんだ」


 獰猛に笑いながら吠える。


「エリザベートが誰かわからないのにどうするのですか?」


「決まってんだろ。出会う奴全員敵だ」


 コヨミが飛び掛かる。

 男は手に持つ剣で矛を受け流す。


「やれやれ。すぐに暴力は良くないですね。私達人間は話合うことでわかりあえる生き物なのですから」


 一見まともなことを言う男と、ひたすら暴力に頼るコヨミ。

 傍から見れば悪者に映るのはコヨミかもしれない。


「まずは自己紹介をしましょう。私の名前はアショーカといいます」


「丁寧なこった。どうせ今から死ぬっつうのによ」


 会話と刃を交わし続ける二人。


「この世界に来てからというもの、知ってる人とも出会えず寂しいものです。良ければ友人になりませんか。私達が争う理由もないでしょう」


「寝ぼけてんのか。エリザベートのことを知ってる時点で、あいつの仲間だろぉが」


「それだけで敵と決めつけられるなんて。私もエリザベートの被害者で敵を討ちに来ただけかもしれませんよ」


「そんだけ血の匂いをさせて何言ってやがる。つまらねぇ芝居はやめろ」


 アショーカの顔が一瞬冷静になる。


「ただの馬鹿かと思っていましたが、案外と賢いのですね。失礼」


「いちいち癇に障る男だな。つまらねぇ。お前等の目的はなんだ。ただカケラを集めてるだけじゃねぇだろ」


「私達もただ生き返りたくてカケラを集めているだけですよ。あなた達と一緒です。信じて貰えませんか」


「ただ生き返るだけなら、お前等みたいな頭のおかしい奴らがつるむことはねぇだろうが。何か目的があるんだろ」


「なるほど。では聞き出したいなら力づくでしてみてはどうでしょうか。あなたも人の屍の上に生きた人間。まともなことを言おうが悪人としてこの世界にいることが全てです」


「確かにな」


 話ながらも切り合いは続く。

 アショーカは戦闘に特化したコヨミと互角にやり合っていた。お互いが急所を狙った一撃必殺の切り合い。

 しかし均衡が崩れるときはあっけなく訪れた。


「アショーカ様お助けに参りました」


 アショーカを助けに来たという男が三人も現れたのだ。


「あなたとの宴はそこそこ楽しかったのですが、もうそろそろお開きにしましょう。さようなら。始末しなさい」


 アショーカが三人の部下らしき男達にコヨミの始末を命じ、全員が一斉に襲い掛かる。

 なかなかの手練れであろう者が連携を取る。この脅威はアショーカ一人を相手にするよりも遥かに上だ。


「俺の名前はコヨミだ」


 名前を名乗ると同時に三人の戦士が倒れる。体は光を放ち、消えると同時にカケラが現れる。


「カケラ三個か。お前部下にももうちょっと飴を上げた方がいいんじゃねぇか。まぁ俺様が言えたことじゃねぇがな」


 笑うコヨミと、唖然とするアショーカ。


「馬鹿な。急に強くなった?」


「急に強くなるわけねぇだろうが。さっきまでは手を抜いてただけだ」


「なんの為に?」


「いろいろ聞きてぇことがあったんだよ。力づくが好みみたいだから、やり方を変えたんだ。俺様を倒したかったら一万は兵を用意しやがれ」


 アショーカは純粋な戦士ではない。もともとは人の上に立ち、人の屍の上に立っていた。

 だが先ほどの三人は戦士である。


「信じられない。お前は一体何者だ。コヨミなんて名前の戦士は聞いたことがない」


「ボロがでてきたな。コヨミっていうのは、この世界に来てから名乗ってる名前だ。昔の名前は捨てたんだ。護りたい者を護れなかった愚か者の名前はな」


 取り戻せない過去の事実を、憂いながらも気高い心を持ち続けて言う。


「私は王だ。私の部下になれ。褒美も沢山やる。どうだ」


 勝目がないと理解し、懐柔に出る。しかし気高き獣を制御することはできない。


「俺様が王と仕えるのは後にも先にも一人だけだ。その他はねえ」


 矛がアショーカを捉える。

 一瞬の出来事だった。

 一瞬の内に両手足四カ所を攻撃し、身動きを取れなくする。卓越した技術。

 本物の戦士の戦い。

 倒れこむアショーカが動かせるのは顔だけだった。


「惨めなものですよ」


「よくわかってんじゃねぇか。お前等の目的はなんだ。もう残り少ない命だ。喋っちまえよ」


「生きていた頃、私は王だったのです。だけどこの世界は広い。王は沢山いる。私が屈することがあるとは思いませんでしたよ」


「そんなもんだろう。俺もこの世界に来て強い奴がいっぱいいることを知った」


「私が仕えることになったあのお方は悪魔のようだ。初めて姿を見たとき、抗う気がなくなりましたよ」


「そうか。それでそいつは誰なんだ」


「アドルフ様」


「アドルフ?知らねぇな」


「私達はみんなあのお方のカリスマ性に従っているのですよ」


 アショーカの言葉に偽りはなかった。上には上がいる、ただそれを受け入れることは難しい。

 かつて王の座にまで登り詰めた者を従わせることができる人間が、どれほど存在するだろうか。


「そうか。そろそろ最後だな。言い残すことはあるか」


「あなたの名前を教えてください。勇敢なる戦士よ」


「もう捨てた名前なんだがよぉ。張飛っていうんだ」


「ありがとう」


「じゃあな」


 コヨミが止めをさす。

 アショーカの体がひかり、十五個のカケラが現れる。


「結構持ってやがったな。だが俺様が生き返る為には、まだまだって感じだな。あと何個あれば生き返れるんだろうな」


 コヨミは笑いながら独り言を呟く。


「護れなかった愚か者か。ニ人ともに逢えたら良かったんだがな。一人逢えただけでも運が良かったんだろうな」


















~ミコト~


「シャイン」


 光と共に剣が姿を表す。


「シャインか。魔法が使えたところで、当たらなければ意味がないのだがな」


「その通りですね。なので、すみませんが当たって頂きます」


 剣が交わりだす。本気の命の取り合い。

 当然ミコトは生きていたときに命を懸けた戦いの経験など積んでいない。剣を振ったのも、この世界に来てからだ。

 生前は全てのことを器用にこなしていたし、率直に優秀な人間といえるだろう。

 戦うことに関してもクロの指導もあり、そこそこ戦えるレベルではある。

 だが命の取り合いとなると別だ。

 どうしても本気で戦えない。

 優しさ故だ。


「どうしたんだ。ビビってるのか」


「まだ体が温まっていないだけです」


 精一杯の強がりにホノリウスが嫌な笑みを浮かべる。


「お前人を切ったことがないのだな」


 何も言い返せない。


「ならもういい。どうせお前は俺に勝てん。見逃してやるから引き返せ」


 突然の提案に驚く。


「何を言うのですか。私は引きませんよ。今更引いたところでもうキョウコさんは戻ってこない」


「なるほど。エリザベートに仲間をやられた後か。あいつも厄介なことをしやがって。どうしても敵を討ちたいか?」


「当たり前でしょう」


 強い想いにシャインが呼応する。

 剣が光を発しだしたのだ。魔法の力は想いの力。想う強さで強くなる。

 眩しいくらいの剣の輝きを見てホノリウスが焦りだす。


「そんな力で切られては、かすり傷程度でもどうなるかわからんよ。エリザベートの遊びに命を懸けてやる義理はない。俺を殺すことが目的ではないだろう。もう俺との戦いはやめてあいつを追ってくれ」


 またしてもホノリウスは戦いを中断しようとする。

 戦士同士の戦いなら中断することはあり得ない。だがミコトは戦士ではない。

 よって誤った判断をしてしまう。


「わかりました。戦いは終わります。ただ念の為に距離を取って下さい」


「やっと納得したか。よかろう。これだけ距離があれば不意打ちもできまい」


 ホノリウスがミコトから距離を取る。

 何かあれば対応できるだけの距離を確認し、ミコトは動きだす。


「動かないでくださいね」


 慎重に対応した。






 つもりだった。


 ホノリウスに対しての警戒を残したままだったのが仇になる。

 死角から放たれた矢に気付くのが遅れたのだ。

 ただ遅れながらもなんとか反応できたおかげで、矢はミコトの腕を掠めた程度だった。


「汚いですよ。こそこそと」


 怒りが増す。元々卑怯なことは許せない性格の為、こういうことをされると余計に腹が立つ。


「仕方ないだろう。これが戦いだ」


 ホノリウスは邪悪な笑みを浮かべ続ける。


「愚か者に良いことを教えてやろう。敵は信じるな。ハッハッハ」


 ホノリウスは笑いが我慢できないようで、遂に声を出して笑う。

 ミコトの怒りは頂点に達する。


「あなた達はどこまで。もう本当に許せない」


 溢れ出しそうな大きな怒りを感じると同時に、体の違和感も感じた。


「なっ!」


 そのままミコトは正面から地面に崩れ落ちる。


「体が動かない!」


「そうだろう。お前が受けた矢には毒が塗ってある。その毒に犯された人間は体が痺れて動かなくなるんだよ。そしてその毒の最大の特徴はな、痛みは感じることができることだ」


 ホノリウスが下種な笑みを浮かべながら語る。


「拷問のしがいがあるぞ。一度死んでなお死を願うようになるんだ。楽しみだ。俺はあんな馬鹿女と違って壊さない。長く長く楽しむんだ」


「下種の仲間は下種ですね。心のそこから呆れますよ」


「強がっていられるのも今の内だ。時期に全てを諦めるさ。全てをな。おい!こいつを運べ!」


 ホノリウスが矢を放った者に命令する。

 ガサガサと誰かが出てくる音が聞こえ、足音が聞こえる。

 少しずつ近づいてくる敵に恐怖を感じる。

 いくら強がっても元々は普通の女の子だったのだから当然だ。

 しかしその後の出来事にミコトは驚くことになる。


「お前は誰だ」


 ホノリウスが出てきた者に問いかける。


「ワタシは今機嫌が悪い。話かけるな。それにしてもミコトよ。お前は本当に弱いな。そんなことでどうする」


 聞いたことのない女の子の声がミコトに話しかける。声の感じからかなり幼く感じる。もちろん聞き覚えのない声だった。


「誰?」


 声の主はイライラしているようだが、不思議と怖さは感じない。


「死ねぇ!」


 ホノリウスが女の子に切りかかったようだ。ミコトは体が動かせないので、現状を見ることもできず、音だけで判断するしかなかった。


 何かを切った音、ホノリウスのうめき声、人が倒れる音。

 それらの音を聞いた直後に光が見えた。誰かの命が潰えたのだ。

 そしてこの状況で生き残ったのは当然。


「大丈夫か?毒でも盛られたのか?」


 見たことのない少女がミコトの顔の前にしゃがみ込み問いかける。


「本当に誰?」


 だがこの少女はミコトの問いに答えない。


「この腕の傷が原因か。よし待ってろ。」


 少女はそう言って、ミコトの体を起こして座らせる。

 寝転んでいたときと違い、座ることで状況がよく見えた。

 見えただけで理解はできなかったが。


 少女はミコトを起こしてどこかに行ってしまった。

 六個のカケラがある。ホノリウスのものだろう。いつもカケラはすぐに回収していたので、じっくり眺めることがなかった。

 こうしてよく見ると、なかなかに綺麗な輝きだった。これが命の輝きってことなのかな、なんてことを考えていたときだった。


「大人しくしていたか?まあどうせ動けないだろうがな」


 少女が笑いながら戻ってきた。

 褐色の肌で長めの黒髪、見た目は小学生高学年くらいの可愛い少女。

 彼女の着る丈の短い紫の浴衣が、可憐な顔と合わない妖艶な雰囲気を醸し出していた。


「ちょっと探してみたんだがな。解毒に使えそうな物はなかったんだ。すまんが自然に抜けるまで待ってくれ」


「これはあなたのせいではないので気にしないで下さい。そして助けてくれてありがとうございます。ところでそろそろ質問に答えて下さい。あなたは誰ですか?」


「とりあえずカケラでも回収するか。これだけ放置していても誰も来ないことを考えると、周りにもう敵はいなさそうだしな」


 あくまでミコトの問い掛けには答えない少女。


「とりあえずあのカケラはお前にやろう。ワタシには必要ない」


 そう言って少女はカケラを抱えてミコトの方に持ってくる。

 そしてカケラをミコトに投げつける。当然体は動かないので受け取れるはずもない。

 カケラはミコトの体に当たるとそのままミコトの体の中に入っていった。

 するとミコトの体に変化が訪れた。傷付いた腕が治ったのだ。


「あれ、どうして?」


「どういうことだ?」


 少女も治るとは思っていなかったようで、ニ人して驚く。

 そして変化はもう一つ。ミコトの体に入った毒だ。


「体が……動くっ!?」


 カケラを取り組むことで、毒まで消えたようだった。


「なんと。お前面白い体をしているな」


 少女は笑い、ミコトは疑問を抱く。


「待って下さい。カケラを取り込めば、みんなこうなるのではないのですか?」


「そんな訳ないだろう。ワタシは初めて見たぞ」


 カケラを取り込むことで、受けたダメージがなくなる。不思議な感覚に少し怖くもなる。


「どこまで治るんだろうな。腕が無くなっても治るのかな」


「怖いこと言わないで下さいよ」


 少女の目が輝いたことが怖く感じる。

 そしてミコトはこれまでの疑問を解消する為に賭けにでる。


「やっぱり私はクロがいないとダメなようです。クロのありがたみを本当に感じました」


「ふむ。そうだろうそうだろう」


 得意気な少女、もといクロ。


「やっぱりクロじゃないですか。見た目以外全部クロだったんで、まさかと思ったんですが、どういうことですか?」


「しまった。ばらすつもりはなかったのに」


 ばつの悪そうな顔をするクロ。


「クロってまさか化け猫?」


「せっかく助けにきてやったのになんということだ。この恩知らずめ。ワタシを化け猫扱いするなんて」


「じゃあどうして見た目が人間なのですか?」


「知らん。定期的に人間の姿になるのだ」


「どうして教えてくれなかったのですか?」


「威厳あるワタシがこんな姿になるなんて、言える訳ないだろう」


「威厳なんてないでしょう。どっちの姿も可愛いくて良いじゃないですか」


 ミコトは自分の妹と同じくらいの年齢の見た目のクロに、親近感がわく。


「可愛いなんているか。この姿だとダークも使えないのに」


「えっ?魔法使えないんですか?それって危ないのでは?」


「馬鹿者。猫の姿で魔法を使わないワタシに、お前が勝ったことがあるか?」


「確かにそうですね」


「元々の姿に近いのだから、この姿であってもその辺の奴には負けん」


「なるほど。獣堕ちの人はみんなそうなんですか?」


「わからん。他の獣堕ちに会ったことがないからな」


 何も知らなければただの可愛い少女にしか見えないのだが、クロだとわかると何か違和感を感じる。


「そもそもワタシはあの時お前に待てと伝えたぞ」


「深追いするなという意味かと思いまして。まさかこんなことになるとは」


「それよりもだ。多分そろそろワタシは猫に戻るだろう。戦力的には問題がないが、少し支障がある」


「改まってなんですか?」


「姿が変わるときに数分だが意識を失うのだ」


「大問題じゃないですか。まさかその姿になったときも?」


「そうだ」


「ちなみに服は?」


「聞くな」


 クロから聞かされたいろんな意味での衝撃的なことがミコトを驚かせる。


「意識を失うことについては、もう慣れているのでほぼ問題はない。とりあえず今はまだ行かねばならないところがあるだろう」


「そうですね。ユキちゃんを追いかけます」


「そうか。気を付けて行けよ」


「やはりクロは来てくれないですか?」


「そうだな。この姿だし、もうそろそろ戻るしな」


「わかりました。助けに来てくれて本当にありがとうございました」


「うむ。元に戻ったら後で追いかける」


 クロに見送られて、ミコトはユキとエリザベートを追いかけていく。

 ミコトの想像も付かない結果になっているとも知らずに。

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