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異性転生  作者: 貴志
第四章 新しいミコト
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007 さいかい

 崩れていたとはいえ元々が大きな建物だったらしく、探索は時間がかかりそうだった。

 大きい物で二メートルくらいの塊も転がる崩壊現場で、二人は存在するかもわからないわずかな痕跡を探す。

 しかしこの二人の場合は探索に長けた能力がある為、それほど苦労することなく探索を行えた。


「しかしなかなか見つからんな」


「簡単ではないでしょうね」


意外とカンナとリンは適度に会話を交わす。


「天使の力は便利そうだな」


「期待してるほどの便利さも強さもありませんよ。使用者次第です」


「ワシが使えばどうなる?便利なものは欲しくてたまらん」


 リンが表情が読めない顔でカンナに問い掛ける。しかしカンナはいつもと変わらない笑顔で応える。


「リンさんには使えないと思いますよ」


「ミコトは使えているのにか」


「ミコトくんは特別ですね。それはリンさんもわかっていると思いますが」


「そうだな」


 こうして会話が一区切りつく。リンがどこまで本気で天使の力を欲しがったのかは、誰にもわからない。




 しばらく何も見つからないまま時間が過ぎていったが、思わぬ再開が訪れる。

 警戒中のカンナの感覚に引っかかると同時に、突っ込んでくる影があった。

 あまりに早く完成させられた突きは、閃光にも見える。そしてカンナはこの突きに見覚えがあった。


「久しぶりですね、コヨミ。心配しましたよ」


 カンナにいつもの笑顔はなかった。




 コヨミはカンナに言葉を返さなかった。ただその代わりとばかりに矛を返すのみだった。まるで操られているかのように、意思疎通がかなわない。

 上下左右あらゆる方向からの洗練された攻撃だった。それは出逢ったときに似た光景だったのかもしれない。ただ大きく違う点は無言だった。

 本来コヨミは敵と戦いながら会話もしていた。本人の明るい性格もあり、文武両方を相手と交わすことが日課になっていた。

 しかし今はカンナの知るコヨミではなかった。


 右からの薙ぎ払いを低い姿勢になり交わしたカンナは、そのままコヨミの顎を打ち上げる。

 勝敗が決まったかのように思われたが、待ったの手が邪魔をする。比喩ではなく本当に出てきた手が、カンナの拳を止める。


「弟をかなり可愛がってくれたみたいだな。ちゃんと礼をしないとな」


 長い黒髪のポニーテールの女が拳を止めたのだった。丈の短い白いシャツにこれまた短いジーンズ生地のズボンを着用し、長い手足が存分に披露されている。見た目は美人なお姉さんという感じだが、話し方から元々男だとわかる。そもそも本人が隠していないのだろうが。ここで闘いは一区切りを迎えたのだった。




「弟?コヨミの生前の兄弟ですか?」


「そうだな。この世界ではコヨミという新しい名前を使っていたようだが、正真正銘拙者の大切な弟だ。改めて仲良くしてやってくれ」


「仲良く?では戦いは終わりで良いんですか?」


「残党の殲滅が任務だが、お前達はテムの組織の者ではなさそうだしな。戦う必要はないだろう。何より弟が本当に世話になった」


 カンナとコヨミが同時に驚いた顔を見せる。


「なぜ最初に攻撃してきた?」


 そこでこれまで大人しくしていたリンが声を出す。


「すまんが弟の恩人の顔は知らんのでな。途中で気付いた」


 その答えを聞いてリンは呆れた顔を隠さなかった。


「兄者がやれっていうから、俺様は覚悟を決めたっていうのに。何だよそれ」


 コヨミは兄に怒りを見せる。それだけでこの二人が仲の良い兄弟だとわかる。


「カンナ、すまねぇ」


 コヨミが頭を下げる。この謝罪には多くの意味が込められていた。それはもちろんカンナも理解をしている。


「構いませんよ。あなたは出逢った頃から変わらないですね。ちゃんと仲間は守れていましたよ。あなたのことだから、気にしていたでしょう」


「すまねぇ。ありがとう」


 コヨミが肩の荷が下りたようにホッとした様子をみせる。


「いろいろ説明したいことはあるんだがよ、その時間はまだ取れそうにねぇみたいだ」


 コヨミの発言と同時に招かれざる客が訪れる。

 それは人間が対応できる限界とも言える空からやってきた。真上を繰り返し旋回するものの正体は小型の無人戦闘機だった。戦闘機の戦い方を理解していたのは、全ての時代を把握する元天使であるカンナだけだったことが最悪の自体を招く。

 標的を確認し終わったであろう戦闘機がすることは一つだ。戦闘機から銃弾が放たれるのと同時にカンナが叫ぶ。


「飛び道具です!隠れて!」


 その咆哮を皮切りに全員が瞬時に動き出す。その高度から繰り出される飛び道具の威力を初見で理解したのだ。


 兄弟は後世に名を残す程の武人だった。しかし彼等が生きた時代には近代兵器はない。武器と兵器は違う。人間が兵器に勝つなんてありえない。


 雨のように空から降る銃弾を四人はそれぞれ崩壊した建物を隠れ蓑にして回避する。殺意の雨は数分続き、弾切れと共に殺意は撤退していく。


「皆さん大丈夫ですか?」


 カンナがその場で叫ぶ。叫んだカンナの体には数発銃弾が貫通していた。しかし急所を外していた為、少し待てば再生するほどの軽傷だった。


 最初に返事をしたのはリンだった。


「少々不便にはなったが無事だ」


 元気な返事は返ってきたが、カンナは違和感を感じる。それもそのはずだった。遅れて姿を見せたのは五歳くらいのリンだった。カンナには年齢が変わってもリンだとわかってしまう。リンを魂で覚えているからだ。しかしわかるのと理解するのは別の話だった。


「リンさんその姿どうしたのですか?」


「さっきの攻撃は結構ヤバくてな。助かるにはこの姿になるしかなかった。まぁ、ギフトの力だ」


 簡単に言ってみせるが、人間が行える範囲では限りなく難しい話だ。


「さて、さっきの二人はどうなった?」


 そうリンに言われてカンナが二人を探す。隠れた場所は見ていたので、すぐに見つけることができた。

 二人はかろうじて生きてはいたが全身血だらけで、何をしても助かる見込みはなかった。

 血を吐きながらコヨミがカンナに何かを伝えようとした。そのまさに最後の一言を聞こうと、顔を近づけた瞬間に事は起きる。




 的確にカンナの急所へ矢が三本打ち込まれる。咄嗟に一本を避け、残りの二本は両手で掴む。そのまま槍を持った男がカンナへと突っ込んでくる。

 先程のコヨミを彷彿させる閃光のような突きだが、コヨミが白だとすればこの者は黒だった。溢れて止まらない殺気と闘気がそう感じさせる。

 まるで山賊のような野蛮な風貌の大柄な男が繰り出す攻撃にしては、洗練された確かな武力だった。

 男はカンナを狙い何度も切り掛かる。カンナも敵だと判断し、反撃をする。男は強く、カンナの拳を交わして槍を差し出す。拳の届く近距離での戦いだというのに、体と槍を上手く使い致命傷に繋がる攻撃を繰り出す。


「「強過ぎる」」


 カンナとリンが同時に呟く。

 そう余りに強過ぎるのだ。今のカンナは天使の力を少しずつだが使用できている。そのカンナですら押されている。


 最初は均衡していたバランスが崩れ始める。カンナが攻撃を躱わすことが増える。お互いの攻撃はまだ当たってはいないが、それも時間の問題だった。

 そしてついにその時を迎える。男の槍がカンナの足に突き刺さる。それでもカウンターを狙うが、それすら交わされ逆に腹を殴られる。

 そのまま後ろに吹き飛ばされたが、攻撃はまだ続く。トドメの一撃として槍が心臓に突き刺さる。




 カンナが最後に見た光景は、悲しそうな顔をするミコトが駆け寄ってくる姿だった。

 そんな悲しそうな顔をしないで。自分は死んでも生き返るから。この男は確かに強いけど、ミコトが本気を出せば勝てるから。と誰よりも優しい仲間に、戦いを置いていくことが気がかりに思いながら。

 

 意識が途切れる。

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