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異性転生  作者: 貴志
第四章 新しいミコト
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005 戦闘準備

 この世界でできた最初の友達だった。とても不思議な友達だった。とても女の子らしくて、でもどこか演技みたいだった。凄く女の子らしいけど、理想を体現化したような人。いつも優しくて、可愛くて、クロの次にミコトの側に長く居てくれた人。


 しかしユキはもういない。




「これってどういうこと?」


「脱退ということになるんでしょうね。これはユキちゃんの字なので、少なくとも自分の意思で出ていったということになります」


 ミコトとカンナは一枚の手紙を見つめながら、現状の確認をする。最も異議を唱える相手は既に居なくなっている為、本当に確認するだけになる。

 朝食時に二人がテーブルに付いた時、お店の従業員が手紙を渡してきた。二人が揃ったときに渡すように、ユキから依頼をされていたらしい。

 手紙には短い言葉しか残されていなかった。


『今までありがとう。ごめんね。さようなら』




 そしてこの手紙を読み今に至る。


「意味がわからないよ。どうしてこんな急に」


「確かに急ではありますね。ユキちゃんの実力ならこの世界でも一人で十分にやっていけるとは思いますが。ただ突然居なくなった事情がわかりません」


 珍しくカンナも落ち込んでいるようだった。それもそのはずだ。カンナはこのチームのリーダーで、ミコトと出会う前からみんなと一緒に居た。それが今ではミコトしか居ないのだから。


「なんだか私がチームに入ってから、良くないことばっかりだね。ごめんなさい」


 思わずミコトの口から謝罪が漏れる。しかし炎のように燃える意思を持つ男は、その謝罪を受け入れない。


「ミコトくんが悪い訳ではありません。元々この世界でやっていくのは危険です。全員が無事で居れる世界ではありません。みんなその覚悟はちゃんとありました。だからミコトくんのせいではない。決して」


 強く優しく、決して消えない炎がミコトを照らす。


「ありがとう」


 そもそもユキが居なくなった理由を考えることも、悲しみに暮れることも、後にするしかないのだ。今はこの後に訪れるテムとの決着の日に集中しなくてはならない。

 二人は前を向く。この戦いを終わらせなければ。お昼にはサンザが来て、テムを撃つ作戦を立てるのだから。




 ミコトはお昼まで部屋に居ることにした。部屋では相変わらずクロが寝ている。何とか起こせないのかと考えていたときに、扉をノックする音が聴こえる。警戒心が皆無のミコトは何の疑いもなく扉を開ける。


 突然顔に布が被せられて前が見えなくなる。

何者かが部屋に入る気配がして、手を後ろに取られる。一瞬の出来事で反応ができなかった。首に刃物を当てられているような感触を感じる。


「こんなものか。死ね」


 突然の状況に何も考えることができなくなるが、一つだけわかることがあった。

 この状況は流石に死ぬということだ。


 しかしそのまま何も起きない時間が流れる。疑問に思ったのと同時に突然の訪問者が口を開く。


「もういい。辞めだ。お前が本当にテムを倒せるのか?」


 声の主は少し苛立ちの感情を出しながら、ミコトの視界を塞いでいた布を剥ぎ取る。

 手も開放され後ろを振り向く。


「リンさん?」


 そこには見知った人物が居た。真っ赤なミニチャイナドレスが似合う妖艶な少女。いつも通りのリンが立っていた。何故こんなところに居るのかという疑問が出るが、早々リンが答え合わせをしてくれる。


「ユキに頼まれたのだ」


「えっ?」


「自分ではもう力になれないからと言っていた。確かに獣落ちに天使の力とくれば、もはや普通の戦いではない。しかし敵前逃亡とはあいつらしくない」


 リンがユキに向けた怒りを珍しく隠せずにいる。


「ありがとう」


「礼などいらん。そもそもワシは隠密が得意で、純粋な戦闘は得意ではない。やり方次第では何の役にも立たないぞ」


「それでも来てくれたんだね」


「勘違いするなよ。お前等には借りがある。だがこれで帳消しだ」


 リンがその可憐な顔からは似合わない獰猛な笑みを浮かべる。最初の頃は不気味さを感じていたが、今では頼もしさを感じる。


「それより、よく今の私の姿でわかったね。男から女だなんて、結構な振り幅で変わってるのに」


「ワシは魂で判断しているからな」


 はっきりとは理解はできなかったが、その人の本質で判断しているという意味かと思い話を続ける。


「改めてよろしくね」


「うむ」


 そこからは現状の説明をした。ユキからも聞いてきたらしいが、ミコトからの情報も欲しいということで、真剣に聞いてくれる。カンナもリンの参戦に少し驚いたようだったが、すんなり受け入れて先を見据える。




 そしてお昼になる。こちらの準備は完了しているので、後はサンザがくるのを待つだけだ。

酒場に全員が集まる。昨日と同じく不本意なバニーガール衣装に身を包んだうさぎも一緒だ。


しかしお昼が過ぎ、昼食を食べ終えてもサンザは来なかった。これにはうさぎも困惑していた。


「皆様お待たせして申し訳ございません。サンザ様は時間に遅れる方ではないのですが。少し様子を見て来ますので、もう少しお待ち下さい」

 

 そう言ってうさぎがサンザを迎えに行った。


そして数時間。




「遅いね」


 思わず漏れた一言に意外にもすぐ反応したのはリンだった。


「まぁそういうことだろうな」


 椅子に脚を組んで凛と座る姿は美しく、服の赤さも手伝い、まさに一輪の薔薇の華のようだった。


「そういうことって?」


 ミコトはリンの言いたいことが伝わらず、聞き返す。そんなミコトを暫く見つめた後、やれやれといった感じで答えてくれる。


「良くて全滅だ」


「良くて全滅ってどういうこと?わからないよ」


 リンがカンナに視線を送り、説明を促す。


「テムはいろいろ恨みを買ってそうなので、私達以外にも敵がいるでしょう。サンザさんが嘘をつくとも思えないので、今ここに来れていないということは無事ではない可能性が高いと思います」


「大変じゃん。助けに行かないと」


「何の為にだ?」


 リンが問いただす。


「サンザさんを助ける為にだよ。もう私達は仲間なんだから。それに様子を見に行ったうさぎさんも危ないんじゃないの?助けなきゃ」


「そうか。だがもう遅かったようだな」


「えっ?」


 リンの言葉とほぼ同時に訪問者が現れる。


 十歳くらいの白い騎士服に身を包んだ男の子が入ってくる。以前会ったことがあるブイヨンという少年だった。

 ブイヨンがリンの耳元で報告をしようとする。


「よい、こいつらにも聞かせろ」


 リンの発言が意外だったのか、ブイヨンは少し驚いた表情をみせた。しかしそれも一瞬のことで、すぐに無表情になる。ミコト的には子供は笑っている方が良いと思った。


「始まったのは数時間前だが、テムのアジトが襲撃を受けていた。そして先程それが終わった。テム達はほぼ壊滅状態。生き残りは数人と言ったところだ」


 ミコトは衝撃で言葉が出なかった。そしてその間も話は進む。


「それでやったのは誰だ?」


「組織名はサンと名乗っているようだ。ただ構成員の素性はほとんど不明。ただ」


 ブイヨンがそこで話を止め、何故かミコトを見る。


「なんだ?話せ」


 リンに促されて、少し言いにくそうな感じを残しつつ報告を再開する。


「構成員の中に以前こいつと一緒に居て、コヨミと呼ばれていた男がいた」


「「コヨミが?」」


 ミコトとカンナは声を重ねる。

 死んだと思っていたコヨミが生きていて、二人とも驚きが隠せない。


「良かった。生きてたんだ」


「そうですね。生きていて良かった。何故戻って来なかったのかは謎ですが」


 カンナが思考を巡らせる間も、リンが話を続ける。


「今は何と名乗っているのだ?」


「えっ?どういうこと?」


 ミコトは意味が理解できずに質問する。


「さっきブイヨンが報告していただろう。呼ばれていたと。ならば今は違う名前を呼ばれているのだろう。それで?」


 リンは答えながら、話を続ける。


「今は張飛と呼ばれている。多分その他の者も同じ出身の者達なのだろう。ボスが探していた奴らで間違いない」


 張飛という名前に驚くミコトの隣で、リンが静かにニヤリと笑う。ずっと欲しがっていたおもちゃを手にした子供のように。そして溢れて隠しきれない殺気に、その場の全員が思わず反応する。皆自分に向けられた殺気ではないとわかりながらも、身の安全を確保しようとするのは生きる本能だ。


「リンさん辞めましょう。そんなに感情が溢れるなんて子供みたいですよ」


 ただ一人、人間ではないカンナを除いて。


「あぁ、すまんすまん。ついな」


「因縁のある相手なのですか?」


「因縁か。縁もゆかりも無い奴らだ。生前に会ったことも無ければ生きる時代も全く違う」


「じゃあ何故?」


「気に入らんだけだ。同じ領土の出身なのに、ワシより早く生まれただけで、まるで神話のような扱いを受けている奴らがな」


 リンと出会って暫く経つが、リンのことはよくわからなかった。しかしこのときの言葉はリンの本心だとわかった。


「行かないと」


 ミコトがやっと口を開く。サンザも心配だがうさぎも心配だ。結局リンも行くことに反対しなかったので、みんなで見に行くことにした。




「酷い……」


 思わず出た言葉を止める者は居なかった。それくらいの有様だった。死体はカケラになる為残されてはいなかったが、血の跡はそこら中に残されていた。拮抗したのか一方的だったのかはわからなかったが、大量の人が死んだのがわかる。


 ミコト達がブイヨンの案内でテムの本拠地に着いた頃には全てが終わっていた。

 そこには生者の姿は無く、燃えた建物や瓦礫の山が目に付く。

 それらを確認した上での先程の呟きだったのだ。


「確かに凄い暴れっぷりだな。本当に生き残りは居ないのか?」


 リンがカンナに確認する。カンナは当たり一面を注意深く見回す。


「私が感じ取れる範囲では、人の気配はありませんね」


 探している人間も居ないが敵もいないということになる。ダメ元で生き残りが居ないか捜索することにした。念の為二組に分かれることになり、ミコトはブイヨンと組むことになった。

 リン曰く「ワシより遥かに強いから安心しろ」とのことだった。


 こうして手掛かりを探すことにしたことで、更なる悲劇を目撃することになるとは思ってもみなかった。

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