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異性転生  作者: 貴志
第四章 新しいミコト
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003 いざ出発

 出発の日はあっという間にきた。天使の力の使い方も短期間で無事に習得でき、準備は万端だった。

 ただ一つ、クロがまだ擬人化したままの状態で起きていないことを除いて。旅の準備の最終確認をしながら、サンザとの別れ際の会話を思い出す。






「今回はしっかり調べる為に前回より深くだんなの中に潜り込んでみたんだけど、思ったよりも抵抗にあっちゃった」


「それでクロのギフトの中身はわかったんですか?」


「今度こそわかったよ。だんなのギフトは[欲しいものを引き寄せる]だね」


「「引き寄せる?」」


 ミコトとユキが同時に聞き返す。


「そうだね、実際反則的な能力だと思うよ。だんなが望むものが手に入る能力だともいえる。状況と条件にもよるんだろうけどね。前回は近くに大量のカケラや天使の力があったから起きたんだろうね」


「確かに反則的な能力ですね……」


 ミコトは少し驚いたが、クロならそれくらいできそうだなと思った。

 こうして伝えることを伝えてサンザは帰っていった。






 それから丸四日が経ち、今に至る。クロがまだ起きていない為、隣街までの移動には馬車を使うことになった。馬車のキャビンはクロが寝るベットスペースが付いた豪華仕様だ。そのベットで寝ているクロを見ながらミコトは独り言がもれる。


「まるでお姫様みたいだよ」


「お姫様というより、お殿様かもね」


 独り言に想定していなかった相槌が背後から返ってくる。驚いて後ろを振り向くとユキが笑っていた。


「本当にその通りだね」


 ミコトも笑いながら返す。


 現在馬車は既に出発していて、カンナが運転をしている。

 意外と広い車内にユキ、ミコトとクロが居るという配置だ。

 出発も問題なくできたが、そもそもテムを倒すのに肝心のクロが寝ていて良いのかという疑問はあった。しかしカンナが大丈夫というので、ミコトもそれ以上は深く考えなかった。


 馬車で走って一日目は問題なく過ぎていった。ちなみにこの世界では道は舗装されていない。馬車で移動するには大回りをしないといけない為、歩こうが馬車に乗ろうが三日はかかるのだ。


 夜になり野営の準備をする。幸い馬車がある為、野営の準備も手間にはならなかった。

 簡単な焚き火を作り、みんなでご飯を用意していると、キャンプみたいで楽しかった。


 寝るときは交代で見張りをするものだと思っていたが、カンナから驚きの提案をされる。


「夜は私が見張りをしているので、二人とも馬車の中でゆっくり寝ていて下さいね」


「でもそれじゃあカンナくんが寝れないじゃない。日中もずっと運転してくれて、疲れてるでしょ。無理は駄目だよ」


 ユキが申し出を断る。当然ミコトも同じ意見だ。


「大丈夫ですよ。実は私は寝なくても大丈夫な体なんです。というか天使は寝ることができないんですけどね」


 カンナが微笑みながら言う。しかしミコトには今日の笑顔はどこか寂しそうな笑顔に見えた。

 カンナの正体がわかってからというもの、元々遠慮気味だったカンナの態度はさらに加速しているようにみえた。ただこの提案に関しては優しいカンナなら正体が判明していなくても、提案してきそうな内容だった。


「寝なくても疲れない体だとしても、見張りをずっとしていたら精神的に疲れちゃうよ。その言葉には甘えさせて貰うけど、全部は甘えられない。だから少しは私達にも甘えていいんだよ?仲間じゃないの?」


 ミコトが寂しそうに言う。こういう言い方をすればカンナが折れるという打算がなかったかと言われればあっただろう。しかしミコトがカンナのことを大切な仲間だと思っていることは事実だった。


「わかりました。それでは私も二人に甘えさせて頂きます。基本的には私が見張りをしますが、早朝の少しだけ交代して下さい。それが一番効率が良いでしょう」


 カンナの言う効率はもっともで、こちらの意見も反映された為、ここを落とし所としておく。

 初日は夜も含めて何も問題なく終わる。


 この世界は街以外は自然に覆い尽くされていて、旅の景色は綺麗で良かった。天国とはこういうところをいうのかなと不謹慎なことを感じたりもした。ミコト達が通っている道は舗装こそされていないが、今まで先人達が通ったおかげで比較的馬車も通りやすい道だった。




 そして二日目に事件は起きる。街の間を移動するのに馬車が通りやすい道はこの道を含めて二本しかない。つまり人を襲う為に待ち伏せするのは容易だということだ。

 お昼が過ぎた頃。距離的にもちょうど半分を少し越えた頃だった。


「敵襲!」


 カンナの叫び声がミコトとユキの耳を貫く。衝撃と共に馬車が荒々しく止まる。馬車がひっくり返りそうな衝撃に、ふと寝ているクロの安否が気になる。クロはユキがベットの上から動かないように、抱えられていた。一瞬の出来事に、ここまで適切な行動をできるなんてと感心する。

 そして何があったのかと外に出ようとするとカンナとユキの両方に止められる。


「「外に出ないで!」」


 二人にはミコトの行動は筒抜けのようだった。


「でも外に一人は危険じゃないの?」


 ミコトはユキに問いかける。


「カンナくんが外に出て良いって言うまでは、逆に足を引っ張っちゃうの。弓矢で襲撃されたみたいだから、とりあえず私達が中に居たらカンナくんは敵の殲滅に集中できるから」


 瞬時に状況の把握と適切な対応を行うのは流石だった。そして数分が経ち呼び出しの声がかかる。


「お待たせしました。もう出てきて大丈夫ですよ」


 外に出てみると十個ほどのカケラが落ちていた。たった数分で、しかも一人でこれをやってのけるとはカンナも流石と言わざるを得ない。


「相手は普通の盗賊とか?」


「そうですね。多分盗賊でしょう。わざわざ街間の移動を馬車で行う人間は、何か希少な物を持っていると思ったんでしょう」


 盗賊という存在自体ミコトからすれば普通ではなかったので、普通の盗賊という言葉にはほんのり衝撃を受けた。もちろんカンナには傷一つなかったが、馬は矢が三本も体に刺さり、地面に伏せてぐったりしていた。とてもこの先もミコト達を引いて走れるようには見えなかった。


「ごめんね」


 思わず謝罪の言葉が漏れる。ミコト達を運ぶことがなければ、こんな大怪我を負わなくてすんだからだ。


「この子ってこの後はどうなるの?」


 ミコトの問いにユキが答える。


「残念だけどこんなに大きな怪我を負って立てなくなってしまったから、もう助からないよ。苦しそうだし、せめて介錯してあげた方がいいと思う」


 ある程度予想できた答えだが、やっぱり気持ちは沈む。もちろん誰もがそうだった。そんなときカンナが一つ提案した。


「せめて苦しませずにということなら、ミコトくんが天使の力を使ってみてはどうですか?」


「天使の力を?」


「はい。天使の力は基本的には破壊ではなく消滅なので、受けた方も痛みを感じなくてすみます。対象が少し大きいですが、ミコトくんならできるはずです」


 ミコトにしかできないなら、ミコトがするしかないと覚悟を決める。自信がない訳でもなかった。出発までの数日間、力のコントロールについてカンナと沢山訓練をした。天使の力は元々シャインと似ている性質だった為、それ程苦労することなくコントロールはできた。シャインが悪人に対してだけ有効だったことに対して、天使の力は当たるもの全てに有効だった。


「ごめんね。ありがとう」


 最後に今も苦しみ続けている馬に声をかけ、力を発動する。


 ミコトの体が白く光りだす。手を馬の方に向ける。本来この力は念じるだけで発動するので、手を向ける必要はなかったが、動きを付けた方が想像しやすかった。

 馬がミコトと同じ光に包まれ、一瞬で消える。


「成功です。きっと彼も苦しむことなく逝けたでしょう。そして現状力は完全に使いこなせていますね」


「凄いね。今のは私にも見えたよ。本当に努力したんだね」


 カンナとユキがそれぞれミコトを褒めてくれる。最初に使う力が、こんな形になるなんて少し残念ではあった。


 そんな風に感情に浸りかけたとき、やっと待ち望んだ声が聞こえる。


「なかなかやるじゃないか。思わず目が覚めたぞ」


 クロがキャビンからあくびをしながら出てくる。


「クロ!」


 ミコトが思わず叫ぶ。


「うるさいぞ。起きたばかりなのだ。しかしこの姿は眠たいな」


「もう、寝過ぎだよ!」


 思わず駆け寄り、クロを抱きしめる。言葉とは裏腹にミコトが近付くことには拒否感はないらしい。


「体調に異変は?」


 カンナが確認する。


「悪くないぞ。少しまだ眠たいくらいだ。それよりミコトの奴、かなり仕上がったな」


「そうですね。ただ保護者が居ないと不安定なので、ちゃんと起きてて下さいね」


「誰が保護者だ」


 クロが目覚めたことで、全員の心にゆとりが出来たような気がした。


「今はサンザの元へ移動中か?馬車が使えなくなったようだな。ならさっさと荷物をまとめて歩くぞ」


 クロの言う通り、それからは必要な荷物だけを持って移動した。何故か先頭をグイグイ歩くクロに思わず問いかける。


「道わかるの?」


「あぁ、勘だがな」


「えぇぇ……」


 カンナが何も言わないことからも、間違った方向ではないのだろうと判断し、着いていく。

 一行は順調に進み、二日目の夜も何事もなく過ごす。

 キャンプ仕様の野営の中、久しぶりに全員揃ったゆっくりした時間を過ごせた。


「それにしても今回のクロの擬人化の時間長いよね」


 ミコトがずっと思っていたことを口に出す。


「そうだな。ワタシもこんなに長いのは初めてだ。理由も自分ではわからんしな。何か思い付く理由はあるか?」


 クロがカンナに話を振る。

 カンナはユキと明日の朝ご飯の仕込みをしていたが、急に話を振られてもちゃんと返答する。


「私にもわかりませんね。擬人化したことがないので。すみません」


「そうだろな。だがそろそろ元に戻ると思うぞ。そんな気がする」


 クロは笑いながら、ミコトの心の奥の不安を払拭してくれる。

 こうしてほのぼのと夜が終わる。




 三日目の朝、ささっと身支度を整える。キャンプも楽しかったがやはりそろそろベッドが恋しくなる。

 今まで順調に進んでいる為、今日の夕方くらいには街に着く読みだった。


 そして再び問題がお昼に発生する。




 クロが猫の姿に戻り、眠りに付いたのだった。




 人間の時よりかは運びやすくなったが、荷物になってしまうことは間違いなかった。


「またしばらく寝るが後のことは頼んだぞ。テムは倒しておいてくれても構わないからな」


 これがクロが眠りに付く前に残した最後の言葉だった。テムを倒すことを余りに軽く依頼してくることには、驚きを通り越して何も感情が発生することはなかった。


「もうすぐ街に着きます。とりあえずさっさと急ぎましょう」


 カンナの意見にミコトとユキは従う。順調に進んだ為、夕方前には街に付く。そしていよいよサンザとの待ち合わせ場所に向かうのだ。


 テムとの因縁に決着を付ける為。失ったものは返ってこないが、やらなくてはいけなかった。


 テムとの最後の闘いが始まる。

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