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異性転生  作者: 貴志
第一章 猫との出逢い
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002 新たな出逢い

 西洋世界のファンタジーのような街。行き交う人々に馬車。昼前で賑わう市場。

 項垂れる一人と一匹。



「どうして無計画に街に行こうなんて言い出したのですか、クロ」


「仕方ないだろう。この姿になってから、お金を持ったことがなかったのだから」


「お腹空いたなぁ……」











 森を出たミコトとクロは無事に街に着き、今に至る。道中にこの世界の仕組みについての説明を受け、カケラを集める決心をしたミコト。

 たまたま発見した湖で自分の顔を確認し、改めて男になったと実感がわき、男として過ごす決心もついた。

 少し吊り目だがバランスも良く、意外にもカッコいい顔だったことに内心嬉しかったことはクロには内緒だ。

 それでも男らしく話すことはできそうになかったので、今の話し方に落ち着いたのだった。








「街に行くと散々言ってたので、てっきり家でもあるのかと思ってましたよ」


「そんなものある訳ないだろう。猫だぞ」


「いや、威張らないで下さい」


 クロが街に来たがった理由は単純に人が多くカケラが集まるのが早いと考えたからだった。


 この世界にはここと同じような大きな街がいくつかあるが、大体の人間は一箇所を拠点にする。街であり国ではないので、権力者は居らず、自治で成り立っていた。

 カケラが集まればこの世界からは居なくなることから、財産を蓄えようとする人間が少ないこと。

 そして表立って悪さを行えば、他の者に粛清されること。良くも悪くも戦える人間が多いことが平和に繋がっている。


 そしてこの二人にはヤル気があっても、物資がなかった。


 ミコトは質の良さそうな服を来てはいるが、クロに至っては身一つだった。

 仕方がないので森に戻って、水と食料を調達しようとしたその時だった。


「ねぇ、そこのお兄さん」


 急に声を掛けてきたのは、茶色いお下げ髪と優しい笑顔が印象的な十代後半くらいの少女だった。赤茶色のジャケットに黒いミニスカートを着用していて、派手ではないが可愛らしさのある少女である。


挿絵(By みてみん)


 ただいきなりこんな少女に声を掛けられる心当たりはなく、驚きながら返事を返す。


「なんでしょうか?」


 ちなみにクロは話さない。

 獣堕ちであることを知られることに何のメリットもないというクロの判断から、他人には獣堕ちであることは隠していく方針で決定していたからだ。


「お兄さんはこの世界に来たばかりでしょう?」


「どうしてそう思うのですか?」


 平静を装ったつもりだが、上手くいったかは謎だ。


「だって明らかに挙動不審だし、慣れてない感じが出てるよ」


 少女に笑いながら指摘され、少し恥ずかしくなる。


「確かにベテランではないかもしれませんね」


 強がってみる。


「一人は心細くない?仲間が居た方がこの世界でも上手く立ち回れると思うよ」


 正論ではあるが、信用をするにはまだ早い気がした。

 森での一件からも、この世界では気を抜けばあっさり命を落とすことは明白だったからだ。

 返事に困っていると、少女は重ねて質問をしてきた。


「ちなみにその猫ちゃんは、どっち?」


 その質問の意図は、ただの動物か獣堕ちかを聞いているのだろう。

 ミコトが答えるよりも早く、クロが動いた。


 ふにゃ〜ん


 ぽりぽり


 ごろごろ


 完全に猫だった。


「黒猫のクロっていいます。一人で寂しかったので、森で拾ってペットにしてます」


 少しクロがこちらを睨んだ気がしたが、気にしない。


「そう……ただの猫ちゃんか。まぁ下手に凶暴な獣堕ちよりましか」


「可愛いですよ」


 少しクロが笑顔になった。

 猫なのに表情豊かなのはどうなのだろうと思ったが、もはや気にしないことにした。


「本当だ。可愛い。尚の事お兄さんは合格だわ」


「仲間になるかどうかは悩んでいますがね」


「いきなり声を掛けたらそうよね。説明くらいは聞いてみる気ある?」


「そうですね。是非聞いてみたいです。ただその前に一つ質問が。何故私に声を掛けたのですか?」


 ミコトの疑問は当然である。この街には沢山の人がいる。手当たり次第なのか、それとも何か理由があるのか。

 少し緊迫した空気になりかけたが、少女の答えが見事に柔らかい空気に変えた。


「だってお兄さん、カッコいいから」


 そういえば女子ってこんな思考回路だったなと、ミコトは懐かしさを感じる。

 少し顔を赤めながらモジモジする少女。普通の男なら、思わずドキっとしたり、可愛いと感じる瞬間なのだろう。

 だがミコトはまだ心まで完璧に男にはなりきれていなかった。


「ありがとうございます。疑問はとりあえずなくなりました。是非説明を聞かせて頂けますか?」


「私の仲間がこの先の酒場にいるんだけど、そこでも大丈夫かな?」


「構いませんが、正直私は無一文ですよ」


 また少女の笑顔が花咲く。


「大丈夫だよ。なんとなくそんな気はしてたから。今回は私が奢っておくね」


 なんだか凄く申し訳ない気がした。

 どう見ても歳下の女の子に奢ってもらうなんて。


「ではその次までにはお金を稼いでおくので、私にも奢らせて下さいね」


「ありがとう」


 今日一番の笑顔を見せた少女に、顔が良い男性は特なのだと改めて実感した。


「私の名前はユキです。あなたは?」


「私の名前はミコトです。よろしくお願いします」


「ミコトくんだね。よろしく。じゃあいこっか」










 ユキが足取り良く酒場まで先導してくれた。

 木目調のカウンターとテーブルのある洋風な内装。お客さんは一組だけ。

 そのテーブルでは男女四人が既に座っていた。


「おっせえんだよ!」


 金髪をツンツンに立てた短髪の獰猛な男が大きな声でユキに話しかける。


「あんたもさっき来たとこじゃん」


 苛立ちが交じった言葉に反応したのは、男の前に座る女だ。

 黒いショートカットの女の言葉にも苛立ちが見える。

 二人が睨み合い少し空気が変わりかけたときに、パンっと音がなり、張り詰めた空気が消えた。


「いちいち喧嘩せずに仲良くしてくださいよ。せっかく仲間になったんですから」


 場の空気を手を叩くだけで変えたのは、物腰柔らかな態度の男だった。ただ印象に残るのは優しさだけではなく、情熱的な赤い炎のような頭髪もだった。座っていてもわかるくらいの長身に、スラッとしながらも引き締まった体もあり、貫禄も感じる。二十代半ばくらいにみえる。


「みなさん遅れてごめんなさい。でも遅れた分の収穫はあります」


 ユキが謝罪しながら全員に胸を張って主張する。

 この空気でいきなり私の話題を出さないでとミコトは思ったが、ユキは気にすることなく続ける。


「先ほどスカウトしました。ミコトくんです」


 場に不思議な空気が流れる。


「はじめまして。ミコトです。よろしくお願いします」


 とりあえず挨拶はしたもののどうするか。

 助けを求めユキに視線を送ったとき、先ほどの赤髪の男が口を開いた。


「明らかに困っているじゃないですか。ユキちゃんは私達のことはちゃんと彼に説明したんですか?」


「説明は今からです!」


 ユキが元気良く答える。

 どこからかため息が聞こえた気がした。


「私はカンナといいます。いきなり連れて来られたのでしょう。すみませんね」


 赤髪の男はカンナというらしい。

 カンナが非常に申し訳なさそうに、ミコトに話しかける。


挿絵(By みてみん)


「ミコトくん。挨拶終わったし、とりあえず座ろうよ」


 自由奔放なユキが促す。こういう性格だったのかと、出会ったばかりの少女の印象を更新する。

 ミコトが座ると、クロが膝の上にのってきた。


「まあ、せっかく来てくれたのですから、私達の説明をしっかりして仲間に加わって貰いましょう」


 カンナが見事に場をまとめる。

 できた人だなあとミコトが感心している間にも、説明は続く。


「まず自己紹介ですね。私はこのチームのリーダーをさせて頂いています、カンナです。使える魔法はありません。以後お見知りおきを」


「次は俺様だな。名前はコヨミ。肉体派だ。ヨロシクな」


 最初に不機嫌な印象だった金髪のツンツン頭は、何故か今は機嫌がいいらしい。

 カンナの自己紹介が終わると同時に自己紹介をしてくれた。

 上半身裸に前が開いたジャケットを着ていて、明らかに肉体派な感じがした。二十代前半くらいだろうか。


「急に機嫌よくなりましたね。コヨミ」


「だって男だぜ。やっぱ男じゃないと勝てねえって」


「この世界では、肉体的な強さはあんまり関係ないと何度も言ってるじゃないですか」


「いいんだよ。気持ちの問題だ」


 意外にもカンナとコヨミは仲が良いみたいだった。


「私の名前はキョウコ。よろしくね。あんたもいろいろ大変ね」


 最初にコヨミに言い返した黒いショートカットの女が、同情を含んだ目でミコトを見る。

 十代後半で黒いパーカーに黒のミニスカートを着ていた。

 続いてキョウコが隣の少女を紹介する。


「この子はシノ。照れ屋だから慣れるまでは直接会話することは難しいと思うわ。ちなみに私もこの子もシャインが使えるわ」


 シノはフードを頭から被り、顔だけ出した状態でペコリと頭を下げた。フードからチラッと水色の髪が見えたが、シノはそもそもかなり幼く見えた。小学生か中学生かといったくらいに。


 今の説明だとカンナとコヨミは悪人、キョウコとシノは善人になる。

 コヨミはともかく、カンナは悪人には見えなかったので、ミコトは驚きを隠せなかった。


「ちなみに私も魔法は使えないんだよね」


 隣に座るユキがサラッと言い、更に衝撃を受ける。人は見た目ではわからないとしみじみ思った。

 罪を犯せば問答無用で悪人になり、軽い罪から重い罪まで幅が広い。

 ジャックザリッパーですら獣堕ちになっていないことから、クロはいったい何をしたのだろうかと考える。

 しかしそこでみんなの視線が自分に集まっていることに気付く。


「私もシャインが使えます」


 みんなが聞きたかったことを察してミコトが答える。


「良かったです」


 カンナが喜んでミコトに微笑む。


「魔法が使えない私が言うのも変ですが、魔法が使えるに越したことはないですからね。ただ私達はよほどのことがない限り生前のことは深く掘り下げないようにしています。平和な時代や場所に産まれることができれば、善人として生きていくことも容易いですが、生きる為に仕方ない場合もありますからね。もちろん自分の行いを正当化するつもりはありませんが」


 カンナの言い分は確かだと感じた。

 自分は平和な時代に産まれたから罪を冒すことはなかったが、そうでなかった場合はわからない。

 いろいろ考えていると、カンナが続きを話始めた。


「そして私達がチームを組んでいる目的ですが、カケラを安全に集める為です」


「カケラを安全に集める?」


「そうです。カケラのことはご存知ですか?」


「はい」


「では集め方も?」


「はい。殺して手に入れるんですよね?」


「必ずしも殺す必要はないんですよ」


「えっ?」


「襲われた場合は仕方ありませんが、普通に過ごしている人を襲うことは、私達のチームでは禁止です。ではどうやって集めるのか。詳しい発生条件はわかりませんが、この世界に送られた人が急に消滅することがあります。そのときにその人が持っているカケラは残されたままになるので、そのカケラを集めます」


「そんな方法があったんですね」


「ひょっとしてもう誰かに襲われたりしました?」


「はい。襲われましたが、運よく勝つことができました」


「すっげえな。流石じゃねえか。ますます気に入ったぜ」


 コヨミがテンション高く割り込んでくる。


「そのときはいくつカケラを手に入れたの?」


 キョウコがストレートに聞いてきた。

 一瞬迷ったが、このチームなら特に問題ないだろうと判断して正直に答えることにした。


「三個手に入れました。」


「では合計四個ですね。非常に頼もしいですね。」


 みんなが頷く。

 それからミコトはカンナから沢山のことを教えて貰った。

 クロから聞いていた情報量よりも多く、途中でクロが「なるほど」と小さく呟いたことを聞き逃さなかった。









 この世界には他人を殺してでもカケラを集める者もいれば、カンナ達のように消滅した者からカケラを集める者もいる。

 この世界では命が無いという概念なので、人を殺すことは罪ではないとのこと。

 善人は持っているカケラを他者に譲渡することができ、カケラを売って生計をたてる者もいる。

消滅は誰しもに起こりえることで、人はそれをリミットと呼ぶ。


 また魔法以外に特殊な能力、ギフトと呼ばれる能力を持つ者が稀に居て、このチームではシノがギフトを持っている。

 シノのギフトの内容はリミットを起こす人間がわかるというもの。

 早ければ一週間ほど前から予兆を感じるらしく、このギフトのおかげで、カケラ集めは順調らしい。


 そして最後の話は特に衝撃を受けた。

 この世界には天使と悪魔と呼ばれる存在がいて、人間に紛れこんでいること。しかもどちらの存在も人間にとって良いとは言えないとのこと。

 この二つの存在は気まぐれに人の前に現れては、人間にこの世界のルールを教えたりしてくれるらしい。


 カンナとコヨミのカケラは三個ずつ。ユキは五個。キョウコは七個。シノは八個。

 シノは戦闘に向いていないので、優先的にカケラを渡している。

 カンナは自ら最後でいいと主張し、リーダーになったらしい。

 チームを組んで四カ月、コヨミとキョウコがよくケンカするくらいで、大きなトラブルもない優良なチームだそうだ。







 以上がカンナから教えてもらった情報だった。


「どうですか?ミコトくんが良ければ私達の仲間になりませんか?あと一人くらいは仲間がいて欲しいというのが、私達の総意です」


 カンナが優しく聞いてくる。

 少しの間でわかったことは、この人達は良い人達だということ。

 ミコト的には是非仲間になりたいと思い、ふと自分の膝の上を見る。

 意外にもクロは頷き、仲間に入ることは賛成なようだった。


「是非お願いします。これからもよろしくお願いします」


「ありがとうございます。こちらこそよろしくお願いします。みんなで頑張って生き返りましょう」


 カンナと握手をしようとしたとき、ユキがミコトの手を取った。


「やったね。よろしくね。ミコトくん」


 距離が近い。凄く積極的なユキに圧倒されつつ、ミコトは生きていたときのことを少し思い出した。

 男性に対して少し良いなと感じることもあったが、妹と過ごす時間を優先していたので、恋愛経験などない。

 積極的に好意を表現するユキが少し微笑ましくも思えた。


「反応が強くなってきた。夜まで持たないくらいだと思う」


 急に聞いたことのない女の子の声が聴こえる。

 声の正体はシノだった。


「本当かよ。いよいよだな。次は何個手に入るんだろうな。楽しみだぜ」


 コヨミが話しかけるが、シノは返事をしない。

 だがそのことを特に気にする様子もなく、コヨミはますます機嫌がよくなる。


「もうすぐではありますが、今すぐでもなさそうです。ミコトくんの歓迎会を今からしましょうか。今後の詳しい動きはその後で。とにかくお祝いです」


 意外にも明るい提案を出すカンナに、凛としたリーダーとして以外の人間性をみた気がした。


「ミコトくん。これからよろしく!」


 みんなから歓迎され、この世界に来て初めて人と触れ合ったようで、久しぶりに心が落ち着いた気がした。


 これから仲間達とカケラを集め、生き返ってみせる。


 決意は強くなっていく、この世界で最初の温かみを感じながら、より強く。

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