001 すぐには目醒めない
つんつん
つんつん
ヌイグルミのように動かないクロをつついてみる。
つんつん
つんつん
パコッ!
軽く叩いてみても目が覚めない。
「いつまで寝てるの?早く起きてよ」
問い掛けても返事はない。
特にすることもないミコトは激動の一日から今に至るまでを思い出す。
それはクロが意識を失った直後まで遡る。
「一体今はどういう状況ですか?」
クロを抱きしめたミコトが、カンナとユキに問い掛ける。
「どういう状況なのかは私も全くわかってないんだけど、とりあえず見たことをそのまま話すね」
ユキが簡単に説明をしてくれる。そして自分に起きたことを完全に理解する。
「私はテムに負けて死んでしまったんですね。でも何故か蘇った。クロの力?」
「多分そうだと思う。でもカンナくんも蘇ったの?なんかクロとの会話的には違う感じだったけど」
ユキはそれまで沈黙を貫いていたカンナに話を振る。
「そうですね。私はミコトくんとは少し事情が違います。ただその辺の詳しい話は、クロが起きてからにしましょう。少し離れたところの宿を次の拠点にしようと思うので、まず移動を」
「コヨミはどうしよう?」
「近くに気配がないので、探すことは困難でしょう。コヨミなら生きてさへいれば自分で戻ってくると思うので、先に移動しましょう」
こうして三人と一匹は新しい宿へと移動する。流石にユキが移動中に性別については触れた。
「ミコトくんってひょっとして元々女の子だったりする?」
「そうなんです。もう男として生きていこうと覚悟は決めていたんですが、まさかまた女に戻るとは……なんだか恥ずかしいです」
「大丈夫だよ。どんなミコトくんでもミコトくんだし。ていうかミコトちゃんの方が良いかな?」
「もういっそのことミコトと呼んで下さい。どうせ本名なんで」
「本名だったんだ……わかった。改めてこれからもよろしくね」
そして宿では前回と同じようにミコトとクロが同じ部屋を割り当てられる。
カンナは宿に着くなり、クロが目覚めるまで出掛けると言ってどこかに行ってしまった。
それからはユキも忙しそうにどこかに出掛けていて、眠っているクロと二人で留守番をして今に至る。
もうあれから丸二日が経っていた。
そして夕方、お腹が空いてきたのでご飯を食べに出ようと思い、ふとクロに「お腹空いたね。早く起きないとクロの分も全部食べちゃうよ」と話しかけた。
「ふざけるな。ワタシも食べる」
そう言ってクロは目覚めた。
「目覚めて良かったね」
ユキがクロの快気を祝う。
「思ったより時間がかかりましたね」
カンナもどこかホッとした様子だった。
クロが目覚めてすぐ二人は戻ってきた。そしてそのまま久しぶりの定例会議が開かれる。話し合うことは沢山あった。
「それでは順を追って話ましょうか。そうなるとまずユキちゃん達が情報屋のところに行っている間に何が起きたかの説明ですね」
カンナが進行を始める。
「そうだね。私達が行ってる間に何故か宿が崩壊していたし。でもカンナくんわかるの?中に居たんでしょう?」
ユキが知りたかった状況を聞く。
「そうですね。皆んなには、何が起きたかと私が何者かを説明する必要がありますね」
「カンナくんの正体?」
「そうです。私は」
「お前は人間ではないのだろう」
そこでクロが口を挟む。
「その通りです。私は俗に言う天使と言われる存在です」
「「天使?」」
ミコトとユキが驚きを隠せずに呟く。
「はい。元天使といいますか。堕天使といいますか」
「「堕天使!?」」
次は大きな声で聞き返す。
「それで何が起きたかですが、爆弾で宿を破壊されました。不覚にも私はその一撃で死んでしまいまして」
「「爆弾で死んだ?」」
息の合ったコンビのように返事が重なる二人にクロが思わず突っ込む。
「いちいち反応をするな。先に進まんだろう」
「「はい」」
それを清聴の意思と取り、カンナが話を進める。
「そしてメイちゃんについてですが、違う部屋に居たのでどのようにメイちゃんが連れていかれたかはわかりません。しかし器である以上高待遇で扱われているはずなので、とりあえずの心配はないでしょう」
「そうだろうな」
クロが同意する。
「また私のことですが、さっき死んだと言いましたが、一応天使の端くれなので、1日も経てば生き返るんですよね。ただ今回はイレギュラーがありまして」
「ワタシがお前の力を使ったということか」
「その通り。しかも堕天使になったときに失われたはずの天使の力を何故かクロが使ったんです」
「どうしてそんなことができたの?」
ミコトが不思議に感じる。
「ワタシが力を望んだからだろう」
「どういうこと?」
「ワタシのギフトだ。欲しいものを探す能力。というかもはや欲しいものを引き寄せる能力ともいえるな」
「そんなことができるなら、どうして今までしなかったの?」
「ワタシ自身この能力を自覚したのが、あの時が初めてで、しかも偶然だ」
「そしてクロに力を引き寄せられた私は、クロが限界を迎えて用がなくなったときに体だけ残った。つまり今に至るってことですね」
カンナが最後に付け加える。
「私が生き返ったのも、クロが欲しがったから?」
「そうでしょうね。あれだけの数のカケラの力とクロの力が重なった奇跡かもしれませんが。ただ一度この世界から消えたのは確かですね。性別が変わって生き返ってますし」
元天使のカンナが言うなら説得力がある。
「ちなみにカンナくんを殺せる爆弾って?」
ユキもまともに会話に加わりだす。
「時代が進んで火薬の使い方も研究が進んでいます。あれほどの威力の爆弾が存在するとは、経験するまでわからないものですね。私の体は普通の人間と比べものにならないくらい強いんですが」
カンナが呑気に感想を述べる。
「もしや、ワタシの最後の攻撃を防いだのも最新の兵器か?」
「そうでしょうね。あの時のクロは完全に天使の力を使いこなしていました。しかしあの攻撃を防ぐなんて、想像を遥かに超える兵器があると考えた方が良いでしょうね」
「その兵器はテムが用意したものではないだろうし、まだまだ敵は多そうだな」
「やはりクロもそう思いますか。テムと同格、もしくはそれ以上の敵が裏にいるのは確かですね」
みんなが頷く。
「それで元天使ということは、お前はこの世界のことに詳しいのではないのか?ワタシ達にカケラ集めをさせている張本人だろう?」
衝撃的な事実が多い今日の話の中で、クロが一番の確信に迫る。
「残念ながら。自分が元々天使だということは覚えているのですが、それ以外の記憶がありません」
「お前自身が集めているのはカケラでなく何だ?」
「どういうこと?」
ミコトがわからなくなって口を挟む。
「簡単なことだ。カンナはカケラを自分の為には集めていない。しかし何かを探していることは間違いない。大方天使の力を取り戻すか記憶を取り戻すかに関わる何かだろう」
「その通りです。私が探しているのは天使の力を取り戻すカケラです」
「それは普通のカケラと何が違う?」
「一説には赤いカケラとも言われていますが、私も見たことはありません」
「ワタシがこの世界に来たときにアークという天使に会った。あいつを捕まえて聞き出せばいいのではないか?」
「奴等は気まぐれにしかこの世界に現れませんし、今の私が奴等に対峙したところで、勝ち目はないでしょう」
その後も各自の報告が続き、こうしてあの日の振り返りが終わった。
「クロが目覚めたとはいえ、いろいろあって疲れたと思います。今日はここまでにして、これからのことは明日に話し合いましょう」
カンナが一旦締めにかかる。クロが反論しないことからも、疲労があることは間違いなかった。
そしてその夜、ミコトは久しぶりと思える平和な睡眠を迎える。
隣にクロがいることが当たり前になりつつあった夜が、当たり前の安心ではないことを再確認する。
死んで生き返ってを繰り返しておいて願うのもおかしな話だが、ミコトは平和に日々を過ごせるようにと願いながら眠りにつくのだった。




