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異性転生  作者: 貴志
第三章 クロの時間
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009 クロ歴史⑤

day 4 〜後編〜


 擬人化時に意識が戻る時間は少しづつ速くなっていた。慣れなのか、そういうものなのかはわからないが、隙がなくなるのでクロとしては大歓迎だった。

 今回は目が覚めるまでに三十分くらいしか掛からなかっただろう。珍しいことに、その三十分の間に昔の夢をみた。

 きっと眠る直前に昔の扱い、つまり織田信長としての扱いを久しぶりに受けたからかもしれない。

 栄華を築き、僅かな時でも天下人になったときの夢。まだ未練があるのか、夢として思い出す時がたまたまその時なのかはわからない。

 ただクロは昔のことは振り返らないようにしていた。死んだ後のことはどうにもならないし、他の人間の話を聞いている限り時代はもうかなり進んでいる。

 クロが望むのは、自分が死んだ後も続いていった世界が見てみたいということだった。純粋な好奇心だ。

 戦さもなく平和な世界を過ごしたかった。

 ただそれだけだった。




 意識が戻り、眼を開けた瞬間感じた違和感。クロは布団の中にいた。納に隠れたはずなので、目が覚めれば硬い木の床のはずだった。

 上半身を起こし周りを確認する。質素ではあるが優美さも感じる和室の部屋だった。誰か女性の部屋なのだろう。


「まさか」


 足元の畳には見覚えがある。先程の金猫での待合室と一緒だ。先程隠れた納は金猫の裏にあった。そこから推測される答えは一つ。

 答え合わせの為に襖を開け、廊下に出る。

 そこには答えがあった。


「あら目が覚めたの?」


 洗濯物を運んでいたマナと目が合う。


「ここは」


 クロが答え合わせをしようとした瞬間に割り込む声が聞こえる。


「起きてるーー良かったね」


 うるさくはないが耳を突き抜けてくる声の大きさで話すのはカナだ。


「困ってるじゃない。いきなりはやめてあげなよ。私はマナで、この子はカナっていうの。さっきあなたがウチの納の中で倒れてたから、連れてきちゃったの。もう大丈夫なの?」


「ワタシはもう大丈夫だ。ありがとう」


 想定外の展開に少し反省する。人に見つからないようにと思って隠れたが、見つかってしまっている。もし見つけたのが悪意のある人間だった場合、命はない。

 悪意のないマナとカナで良かったと思う。


「ぼーーっとしてるけど、本当に大丈夫なのーー?」


 カナが心配をゴリ押ししてくる。そこにマナが良い塩梅で割り込む。


「起きたばっかりの子を急かさないの。びっくりするじゃない」


「ごめんよ」


 マナとカナは優しかった。微笑ましい光景だったが、登場人物に自分が含まれている以上は、見ているだけではいけない。


「歩いて気分が悪くなってしまい、たまたまあの納に入り込んでしまったんだ。すまなかった」


「どうしてこんなところに居たのーー?」


 カナが鋭い質問をする。しかしマナが優しい勘違いをしてフォローに回る。


「そんなこと聞いちゃダメ!ここに行き着くってことはそういうことなんだから!」


「そういうことーー?」


「いいから黙ってなさい」


 マナがお姉ちゃんぶっているのが面白かった。結局はどちらも年相応の子供で純粋な性格なのだから。クロの微笑をマナとカナは見逃さなかった。


「初めて笑ったーー」


「やっぱり笑うと凄く可愛いじゃない。あなた働くアテはあるの?」


「いや、ないな」


 働く気がないという意味で答えたのだが、マナはアテがないという意味で捉えた様だった。


「じゃあこの金猫で働くのはどう?アエリアさんがもう一人禿が欲しいって言ってたし。お願いしてあげるよ」


 擬人化している状況でもローラに見つかれば名前はバレるだろう。こんな姿でまた来たとバレるのは恥ずかしい。ローラのことはもっと知りたいところではある。しかしあまりに恥ずかしい為断ろうとしたとき、カナが良いことを教えてくれる。


「さっきアエリアさんとローラさんが出掛けてしまって、今日は帰ってくるのが遅いから、聞けるのは夜だけどねーー」


「ちなみにアエリアさんはここの女将で、ローラさんはここの花魁。この街一番の花魁なんだ」


 マナが嬉しそうに補足してくれる。


 二人は出掛けているらしいが、これはクロにとってはチャンスだった。マナとカナからローラについて何か聞くことができれば、ローラに協力を取り付ける為の何かが見つかるかもしれない。


「ちょうど働き先を探していたところだったんだ。その二人に聞いてくれないか?」


「もちろん良いよ。じゃあ帰ってくるのは夕方以降になりそうだから、とりあえずこっちの私達の部屋で待っててよ」


 マナが先程クロが寝ていた部屋を指さす。優しい提案だが、大人が帰ってくるまでに聞かなければならないことが沢山ある。


「助けて貰った礼もあるし、何か手伝えることがあったら何か一緒にさせて貰えないか?」


「早速戦力ーー」


 二人が笑顔で歓迎してくれる。


「そういえばあなたのお名前は?」


 当然の質問が出る。もちろん偽名を名乗る必要があるが、やっぱりクロはそれほど女の名前を知らない。そんな中思わず出たのは、あの名前だった。


「コチョウだ。ワタシの名前はコチョウ。よろしく頼む」


「「凄く綺麗な名前!」」


 二人が褒めてくれる。もちろん悪い気はしない。


 三人が打ち解け始めたとき、外からさっきも聞いた口上が再び聞こえてくる。




「ローラ!出てこい!俺の物になりやがれ!」


 先程クロとして来たときにも聞いた、いき過ぎた求愛行動だ。もちろん同じセリフでも先程の男とは違う声だ。


「今日は二回目だねーー」


「珍しいわね」


 マナカナは落ち着いて言う。今までの流れ的にも、金猫の唯一の大人のアエリアとローラは現在不在のはずだった。


「大丈夫なのか?」


 クロは二人を心配する。しかし当の本人達はケロっとしていた。


「大丈夫ーー」


「大丈夫よ。部屋で待ってて」


 マナカナはこんな状況でもクロのことを気遣ってくれる。しかしクロは部屋に戻るつもりはない。


「ワタシも一緒に行こう。数は多いに越した事はないだろう」


「「ありがとう」」


 二人はクロの勇気と優しさに感動する。二人からすればクロは自分と同じ歳くらいの女の子で、この言葉は非常に嬉しいものだった。

 しかし見た目は少女でも中身はクロだ。基本的にはどんな奴が来ても、一人で返り討ちにすることは容易だ。


 三人は店の入口に向かう。すると先程とは違い男が三人いた。ボスと手下二人といったところだろう。


 クロはマナカナがどういった行動に出るのか興味があった。もちろん何かあればすぐに手を出すつもりではある。


「おい!ガキども!ローラを呼んでこい!」


 男がこちらに向かって怒鳴る。


 しかしその次の瞬間マナカナは予備動作なしの跳躍をみせる。二人は男達の正面に居たが、跳躍後には後ろに回っていた。それぞれ手下の胸にかんざしが刺さっており、一瞬のうめき声の後に光り、カケラへと変わる。


「「ロバート様、おイタはいけませんよ」」


 二人が妖艶な微笑みを魅せる。さすが遊郭の禿といったところか。そして相手の反応を待つことなく、マナが男の心臓にかんざしを突き刺す。


 男達は居なくなり、カケラだけが残る。




 想定以上だった。多少戦えるだろうとは思っていたが、ここまでとは思ってもみなかった。


「戦い慣れているな。そして強い」


 マナカナに正直に感想を伝える。


「ありがとう。ここも物騒だから、自分の身は自分で守れるようにならないといけないからね」


 マナが笑顔で讃賞を受け取る。


「ところでシャインは使えないのか?」


「金猫の人はみんな使えないよ。コチョウは使えるの?」


「そうか。ワタシも使えないぞ」


「とりあえずこれ片付けておこうよーー」


 カナがカケラを指差しながら提案する。そして二人は慣れた手付きでカケラを袋に入れる。


「カケラはどういう順番で配布しているのだ?生まれ変わりの順番としては女将や花魁が優先なのか?」


「カケラはお給金として貰ってる分だけかな。アエリアさんもローラさんも現世に戻ることには執着していないみたいだし。貯金ってやつかな」


 クロにとっては良くない情報だった。カケラでの買収が現実的でなくなったということだ。


「でも一応私達にリミットがきたら、カケラを持ってきてくれるよーー」


「コチョウは生まれ変わりの為にカケラ集めをしているの?」


「そうだな。ワタシは生まれ変わりたいと思っているぞ」


 このクロの意見がどう転ぶかはわからなかった。この世界の人間の当たり前の行動原理だと思っていたが、金猫では不純な動機になるのかもしれない。


「積極的に生まれ変わりたいって思えるなんて、良い前世だったんだね。良かったね」


 マナが心から思ったことをクロに伝える。カナも笑顔で頷いている。つまりこの二人にとっては前世は辛いものだったということになる。少しの時間だが一緒に過ごして、二人が悪人だとは到底思えなかった。

 しかしこの世界の判定は悪人だった。生き延びる為に必死だったのだろう。もしこの二人が自分の国の民として生まれていたとして、果たして自分だったらこんな想いをさせなかっただろうか。統治とは難しいと改めて思う。


「さて、お片付けついでにお店のお掃除も済ませようかな。コチョウも手伝ってくれるみたいだし」


 マナがこれからの予定を示す。カナも従い掃除を始める。

 クロも不器用ながら手伝い、二人から情報を集める。掃除の経験はほぼなかったが、意外と器用にこなし、夕方には全て終わっていた。


 ここまで情報を集めた上でわかったことは、ローラには買収は通じないということだった。


「ローラから光秀を探す方法も諦めるか」


 クロの中で結論が出る。そうと決まればここに用はない。何よりそろそろ猫に戻りそうな予兆も感じていた。


「二人とも聞いてくれ。夕方まで仕事を手伝わせて貰って気付いたことがある」


「「なに?」」


「ワタシにはこの仕事は向いていないようだ。やっぱり別の働き口を探そうと思う。


「えー!手際もいいし、凄く向いてると思うのに」


 マナカナは共に寂しそうな顔をみせる。しかしクロの強い決意を汲み取ったのか、強くは引き止めなかった。


「まぁいろんな選択肢があるしね。せっかく自分で選べるようになった人生だし、みんな自由にしたいよね」


 マナはカナに比べて達観した考えが多かった。余程前世は良くなかったとみえる。


「でもせっかくだったらアエリアさんとローラさんにも紹介したいねーー。もうそろそろ帰ってきそうな時間だし」


 カナの言葉を聞いて、ますます早く出発しなければと思う。ローラには会わないように。


「気持ちはありがたいが、そうと決まれば早速別の街に向かおうと思う。もうこれで失礼させてもらおう」


 クロはそそくさとお店を出る。マナカナは出口まで見送りにきてくれた。


「もしやっぱりここで働きたくなったら、いつでも戻ってきていいからね」


「待ってるねーー」


 二人は優しい。そんな二人の優しさを利用したことに少しモヤモヤした気持ちが産まれるが、気にしないようにする。


「それでは二人共、息災でな」


「「コチョウおじさんみたい」」


 三人は笑う。そして二人はクロが見えなくなるまで手を振ってくれた。


 今日の擬人化の際の反省を活かし、次は遊郭の敷地から出た森の中に身を隠すつもりだった。そうすれば誰かに見つかる心配もないからだ。

 遊郭の唯一の出入口を通る時にはすでに意識が少し朦朧としていた。足取りも少しフラフラしていた。


「急がねば」


 そのとき一人の女とぶつかってしまった。


「すまない」


 余計な争いを避け、一刻も早く外に出たかった為、女の方はチラッと一瞥しただけだった。

 薄い化粧と水色のワンピースに身を包んでいるが、美貌が目立つ。

 女はクロの態度に怒ることはなかった。


「凄くフラフラしているけど、大丈夫?まだ小さいのにお酒でも飲まされたの?ウチで少し休んでいったら?」


「大丈夫だ。ありがとう」


 女の優しさを断り、先を急ぐ。女の顔に見覚えがあったような気がしたが、とりあえず今は身を隠すことが先決だ。




 無事森まで着き、茂みに横になる。それとちょうどのタイミングで意識が遠くなる。


「ギリギリだったな」


 思わず笑みが溢れる。


 クロは意識を完全に失った。












「「おかえりなさい」」


 マナとカナは帰ってきたローラを笑顔で出迎える。


「ただいま」


 ローラも二人のお迎えを笑顔で受ける。


「あれ、アエリアさんはーー?」


「アエリアさんは用事が長引いてしまって、明日の朝に帰ってくるわ。だから今日は夜もお店を閉めて、三人でお土産のお菓子を食べましょう」


「「わーい」」


 三人は仲睦まじい。


「やっぱり今日の水色のワンピースも似合ってるねーー。とても可愛いーー」


「ありがとう。カナが選んでくれたおかげね。それに普段とのギャップが大きいみたいで、誰にも気付かれないでお出掛けできるし、最高だわ」


 ここには確かな幸せな日々があった。












 クロが目を覚ます。今度は誰にも見つかるはなかった。とりあえず宿に帰る。収穫はなかったが、得たものはあった。


 宿に戻るとみんなが深刻な話をしているようだった。ミコトの過ごした内容も興味はあったが、何よりも驚いたのはメイも器だったということだ。


 確かにミコトと同じくらいの強さのシャインを感じたが、器だとは思っていなかった。

 自分のギフトは器を探すものだと思っていたが、どうやらそうではなかったと考えを改める。


「ギフトの詳細を確かめる必要があるな」


 明日は元々はこの街で最近有名な剣豪のところを訪ねようかと考えていたが、予定を変更することにした。

 人のギフトの内容がわかるギフト持ちを探すことにした。アテがある訳ではなかったが、探せる気がした。

 ミコト達の方も全員で動くなら明日の内容だと危険はないと判断した。




 そしてクロの一日が終わる。

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