007 クロ歴史④
day 3
今日は一人で行動するつもりだった。昨日リンと顔合わせが済んだことで、もう自分一人で行っても会って貰えると確信していたからだ。
店に着くが、店はそもそも開いていなかった。
「おい!ワタシだ!入れてくれ!」
クロが子供が友達の家に遊びに来たように、大きな声で呼び掛ける。
しかし反応は一切ない。
流石のクロも困惑が隠せない。留守ならまだいい。しかし今までのように居留守を決められているとしたら、心へのダメージはそこそこなものだ。
「何か嫌われるようなことしたのか……」
こうなればもう一度ユキに取り継いでもらうしかないと考え、ユキの元へ行くことにした。
今日はメイとトレーニングをすると朝に言っていたことを思い出す。
そしてユキを探して一時間程経ってから呟く。
「どこにいるんだ……」
そう、クロはユキとメイの場所を聞いて居なかった。
少し探せばすぐ見つかるだろうと簡単に考えていたが、全く見つからない。広い街の中で手掛かりなく人を探すことは至難の業だ。
早々諦めて途方に暮れる。
トボトボと街を歩く。
そこでダメ元で宿に戻ってみる。
そこにはコヨミが居た。
「どうしたんだ?昼寝か?」
「違う。ユキを探しているのだ」
「ユキ?今日はメイとトレーニングだろ?」
「そのトレーニングの場所がわからないから困っているのだ。どこでやってるか知らないか?」
「いつも俺様が特訓してるところでやってる可能性もあるけどな。連れていってやろうか?」
「いいのか?では頼む」
コヨミとの会話は楽だった。戦いは強いとは思うが、頭が良くなさそうなので、こちらも適当に話せるからだ。
コヨミがいつも特訓をしている場所に案内して貰う。
しかしそこにはユキ達の姿はなかった。
「ここに居ないなら、どこにいるかはわからねぇな。そもそもユキは何故か何をするにも痕跡を残さないから、一度逸れると見つけるのは難しいと思うぞ」
「そうか。そうなると今日は諦めるか。ありがとう」
「良いってことよ。そういえば今日の予定は無くなって暇なんだろ?」
「ワタシは他にすることがあって忙しいぞ」
「えー、つれねぇな。せっかく俺様の特訓の相手をして貰おうと思ったのに」
「そういうことなら、案内してくれた礼に少しなら付き合ってやろう」
「本当か?話がわかるじゃねぇか」
コヨミが喜ぶ。やはり単純な男だなと思う。
しかしクロの中でコヨミの実力はかなり高い評価の為、手合せはクロにとっても好都合だった。
カンナとの手合せでは、圧倒的な実力差を感じたが、コヨミとはそこまで差がないという目論見だった。
「爪は使うが、ダークは使わないでおいてやる。さぁ来い」
「面白え、ダークに頼らせてやるよ」
二人は獰猛な笑みを浮かべ手合せを始める。
数時間後〜
「なかなかやるじゃねぇか」
「お前もやるではないか」
強がる言葉とは裏腹に、コヨミは地面に大の字で寝転がり、クロも体を伏せた状態でお互い息を切らす。
そんな二人に近づいて来る炎のような男がいた。
「二人ともこんなところで何をしてるんですか?」
「ちょっと遊んでいただけだ。お前こそこんなところで何をしている?」
クロがカンナに質問を返す。
「今日は明日の下見ですよ」
「お前が居たら大丈夫だろうが、一応言っておく。ミコトのことはしっかり見ておいてくれよ」
「もちろんそのつもりですよ。本当に大切にされてますね」
「そんなんではない」
クロがまるでツンデレのような対応をしてみせる。
「クロがよぉ。ユキを探してるんだけど、知らねぇか?」
「ユキちゃんですか。わかりませんね」
そう答えたカンナの顔をクロがジッと見つめる。
「なんでしょう?嘘はついてませんが」
「そうではない。気にするな」
その後カンナはまだすることがあるからと去っていった。
「それではワタシもそろそろ行くぞ」
クロがコヨミに別れを告げる。
「おう、今日はありがとうな。良い特訓になったぜ」
コヨミに笑顔で感謝を告げられ、悪い気分はしなかった。
クロは街の外周を周って探すことにした。
猫の姿は良かった。
気配の消し方も人間より洗練されていて、人に気付かれることも少ない。何より人と遭遇しても猫なのだから素通りができた。
このときもクロは気付いているが、相手は気付いていないの典型的パターンだった。
男と女が居た。
二人とも内緒の話をしているようで、気配を消して密会はしているが、クロの聴力の前では少し距離があっても筒抜けだった。
「今は何人だ?」
「ようやく二十五人になったところよ。本当に苦労したんだから」
「あの方への献上物なんだ。光栄に思えよ」
「わかってるわ」
「計画は明日だ。収穫だ」
「ええ」
遠目だが男女の姿がチラッと見える。
シノビ装束の男とシスター服を着た女だった。変な組み合わせだと思ったが、特に関係無さそうに感じた為無視した。
しばらく探してみたが、結局ユキを見つけることはできなかった。
時間はもう夕刻前となっていて、流石に今日はもう帰ることにした。
宿に戻ってからは、毎晩の定例会議が始まる。そのときにユキにこっそり話しかける。
「お前達は今日はどこに居たんだ?結構探したのに全く見つけることができなかったんだぞ」
「こんな広い街で手掛かりなしで人を探すなんて、流石に猫でも無理だと思うよ」
ユキは残念な猫を見る目でクロを見つめる。
「そんな目をするな。できそうに感じたのだ」
「今は猫なんだから、できないことも多いと思うよ?」
クロはユキの発言の裏を気にしない。
「それで何の用だったの?」
「リンに会いたかったのだが、会えなかったのだ」
「それで寂しくなって私のところに?私のこと好きなの?」
「違うわ。リンが居留守をきめてワタシと会わないようにしているのかと思ったので、また間を取り持って貰おうと思っただけだ」
「辛いね……」
ユキが同情する。
「その目をやめろ。いちいち目で攻撃をしてくるな」
ユキは笑っていた。
こうして定例会議は終わり、ミコトと自室で休む。
ミコトは充実した一日を過ごしたようで、満足気だった。
明日はリンに頼るのは辞めて、別の方法で探すことにした。
クロは前世に執着していない。生きるも死ぬも激動の時代を過ごしていたし、それは自分の命も一緒だった。
しかし復讐のつもりではないが、自分を裏切った理由くらいは聞いてみたいと考えていたのだ。
自分を殺した相手もこの世界に来ているなら。
いや、来ているという確信はあった。
「待っていろ。光秀」
クロの独り言は誰にも聞かれることなく、闇に消えていく。




