005 クロ歴史②
ミコトが目覚めてからも、忙しい日々が続く。とりあえずミコトはそれぞれの仲間と一日づつ過ごしていくらしい。カンナの提案だが、ワタシとしてもありがたい。
ワタシも用意しておかないといけないことが多い。大切な者を失わない為に。
day 1
ミコトはユキと出掛けた。クロはこっそり約束していた相手に会いに行く。
快晴の為、気持ちが良い。そもそもこの世界に来てから雨だった日はなかったのだが。
約束の場所に着くと、そこには先客がいた。もちろんたまたまではなく、その人間が今日の約束の相手だ。
「待たせたな」
待っていた相手は怒らない。
「そんなに待ってませんよ」
カンナが笑いながら答える。
この逢瀬を設定したのはクロだった。どうしても確認すべきことがあったからだ。
テムがやっていたように、ダークで大きな無数の針を作り出す。その針それぞれに緩急をつけてカンナに向ける。同時に全てをコントロールすることは、難しいが不可能ではなかった。
カンナは拳で全ての針を叩き落とす。
しかしその瞬間地面からネズミ取りのようなトラップが発生し、カンナを飲み込もうとする。それすらも高く跳躍することで避ける。
クロは空中にいるカンナに更なる追い討ちをかける。自分自身の体にダークを纏い、ダークで作った弓で自分を弾き飛ばす。勢いが付いたクロは魔法の力と物理的な力の両方を併せた銃弾のようだった。
クロの渾身の攻撃はカンナのお腹に当たり、カンナを吹き飛ばす。
クロはカンナを殺すつもりで攻撃していた。
それなのにカンナは傷一つ付かない。
「やっぱりな。お前は一体何者なんだ?」
無傷のカンナに問いかける。
「私はただのカンナですけどね」
「そうか、では質問を変えよう。お前人間か?」
カンナが無言になる。
「敵意はないと考えて良いのか?」
それまで熱のない答えをしていたのに、この質問には力を込めて答える。
「それは絶対に大丈夫です。先の質問には答えることはできませんが、ミコト君を含め今の仲間を大切に思っていることは本当です。というか私は人間が好きですし」
「ふむ」
クロの想定していた最悪のパターンでは、今日命を落とすことも考えていた為、この答えは最高の結果に近い。
「あくまで正体は内緒ということか?」
「そうですね」
カンナが天使のように微笑む。
「まぁ良い。仲間であるなら問題はない。それよりも、もう一つ正直に答えろ。お前はあの白猫に勝てるか?」
「残念ながら、私には獣堕ちを殺すことはできません」
想定していた通りの答えだった。
そしてこれ以上はこの話題を続けても仕方ないと判断する。
「ワタシはまだまだ強くならなくてはいけない。修行に付き合え」
「全てが急ですね。一体どうしたんですか?」
「猫を一匹狩ろうと思ってな」
それからすることは先程までと同じだった。クロが全力でカンナを攻撃する。
いろんなパターンを試す。どうせ当たっても死なないのだからと容赦なく攻撃を続ける。
三手先を予想してカンナを追い詰める。
それが二手先になったのは、昼を過ぎた頃だった。
このタイミングで流石に休憩を取る。
「お前は疲れないんだな」
「そうですね。精神的には疲れますけどね」
カンナが皮肉を返す。
「失礼な奴だ」
そうは言ってもクロは結構疲れている為、言葉に力が入らない。
「後どれくらいの差があると思う?」
「後一手程かと」
「そうか、遠い一手だな」
それからもクロが完全に動けなくなるまで修行は続いた。
この世界に来てから、全力で戦い続けたことはなかった。今日の経験がクロにとって大切な経験になっていたことは、後々にわかることだった。
「抱っこしましょうか」
夕暮れ時、カンナが問う。答えはわかっているにも関わらず。
「いらん。少し休めば動けるようになる。夜の会合までには戻る。先に行け」
「わかりました。では私はお先に」
「おい、〇〇」
カンナが今までに見せたことのない顔で振り向く。
「お前でもそんな顔をするんだな」
クロが悪い顔で笑う。
「心配するな。ワタシはお前の邪魔をしないし、どちらかと言えば協力的だ」
「どうしてですか」
「偉そうにワタシを呼んだ奴を少し驚かせてやりたいだけだ」
「そうですか。ではお互い目標達成に向けて頑張りましょう」
カンナが去り、一人になったクロが呟く。
「怒るかと思ったが怒らなかったな。みんな心が広いものだ」
夜の会合では二人はお互い特に今までと変わらない態度をとっていた。ミコトはもちろん他の誰もクロの動きを気にしていなかった。
その後、部屋でミコトからテムの正体を聞く。
「テムの正体がチンギスカンか……」
その名はもちろん知っていた。生きた時代が違ったので、書物を読んだだけに過ぎなかったが。
「面白い」
相手がはっきりしたことで、余計に燃えてくる。
この世界には生きた時代も国もバラバラの人間がやってくる。共通しているのは生に執着のあるということ。
各々が生きていたときには決して実現しなかった戦いが始まろうとしていた。




