003 初めての擬人化
この世界に獣堕ちとして転生してから、最初に人の姿になったのは、コチョウの家を出ようとしたときだった。
そのタイミングで人の姿になったのは、最後にクロの幸せを願ったコチョウの祈りが届いたからなのかもしれない。
家の中で気を失った為、誰にも襲われることもなく初めての擬人化を迎えた。
通常獣堕ちが唯一簡単に殺されるタイミングが、擬人化のときだ。最初はほとんどの獣堕ちが姿が変わるときに意識がなくなることを知らない為、最初は特に無防備を晒すことになる。
「なんだ、急に頭がボーっとしてきたと思ったら意識が飛んだぞ」
そしてそれはクロも例外ではなかった。失った意識が再び覚醒する。懐かしい人間の体の感覚に久しぶりの高揚感を感じる。
「おぉ、ついに人の姿に変わったのか。どれどれ」
待ち望んだ人間の姿に喜びが隠せない。見れる範囲で体を確認する。
「子供?しかも女?」
褐色の肌の成長途中の体が見え、少しずつ気持ちが焦り始める。急いで家の中にあった鏡で顔も確認する。
長い黒髪を持ち、顔はどこか先程別れた少女を思わせる。まるでコチョウが成長したような容姿は、肌の色が違うだけにも感じる。何となく笑ってみると、その笑顔はコチョウの笑顔と瓜二つだった。
「どういうことだ。最後に見た人間の見た目に引っ張られるのか」
考えてみるが考えたところで答えがでないことなので、深く考えないようにした。
想像していた威厳ある姿ではなかったが、この姿でも人間になれるだけマシと考える。
「流石に服が欲しいな。少し借りるぞ」
尋ねてみても、もちろん答えはない。しかし何故かあの少女なら、笑顔で許可をくれるような気がした。
体のサイズが微妙に違う為、着れるものがほとんどなく、唯一着れたのは紫の浴衣だった。
クロが着ると丈が短く、際どい露出になる。
体の年齢的にかなり危ない感じの見た目になるが気にしない。
「猫に戻るときも同じように意識を失うのだろうか。すまんが、戻るまでここに居させて貰うぞ」
当然相変わらず誰の返事もない。それから1日程で元の姿に戻った。戻るときの感覚も確認し、不安は無くなった。元に戻ったときに服がなくなっていたことから、服も体の一部扱いなのだろう。
今度こそ本当のお別れだった。
「短い間だったが世話になったな。服と笑顔は貰っていくぞ。さらばだ」
こうしてコチョウの家を後にする。
この世界に来て最初に言葉を交わした優しい人間との別れ。
カケラを集め終われば、いつかまた次の人生で再開することができると信じて出発する。
しばらく街を歩いていると今まで感じたことのない感覚に気付く。
その反応が器だと本能でわかる。
「見つけた」
森の方から気配を感じる。この世界に来る人間は皆んな森スタートなのだろうか。もっといろいろアークから、この世界について確認しておけば良かったと少し後悔する。
しかし過ぎたことは気にしない。やっと器に会えるのだから。器に会えたらカケラを集めて生まれ変わるのだから。そこからが人生の再スタートになる。
これはクロがミコトに出会う直前の話であった。




