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異性転生  作者: 貴志
第二章 それぞれの日々
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008 day 5 〜メイ後編〜

 人は死んだらどうなるのか。

 誰もわからない答えのはずだが、メイは深く考えたことはなかった。

 毎日はそこそこ楽しいし、生きてることは幸せだと感じるが、死ぬことを心から怖いと悩むことはなかった。

 もちろん無意味に死ぬのは嫌だし、そもそも死んでもいいと考えている訳ではない。

 だが辛い想いをしてまで生きたいかというとそうでもなかった。

 そしてそのことにはっきり気付いたのは昨日だった。


 シノと一緒に孤児院に居るときに何者かの襲撃を受け、拷問まで受けた。

 当然だが今までで一番苦しい経験だった。もうこんなに苦しいなら、生きていなくてもいいと思った。さっさと死にたいと初めて思った。


 意識は失っているが、意思はあった。

 もう起きたくない。このままずっと眠っていたい。そう考えていた為、体の傷が治っても目を覚ますことはなかった。

 メイとしてはこのまま眠り続けたかったが、思い通りにはいかなかった。


「起きろ!意思はあるのだろう?」


 乱暴な呼び掛けに驚いた。誰かがメイに声を掛けているようだった。



 もふもふ


 もふもふ


 顔にヌイグルミがぶつかるような感触で意識がはっきりしていく。


 もふもふ


 もふもふ


 バコッ!


 ーー痛いっ!


 メイは目覚めた。


「やっと目が覚めたか。さぁ行くぞ、器よ」


 そこには偉そうな白猫がいた。


「行くってどこに?てかあなたは誰なん?」


「そうだな、楽園と呼ばれるところだ。余の名前はテムだ」


「初めまして、テム。器って何のこと?」


「馴れ馴れしい奴だな。器とは貴様のことだ」


「よくわからへんね。でも楽園か、苦しくないなら行ってもいいかな」


「苦しい訳ないだろう。仮にも楽園と呼ばれる場所なのだから」


「じゃあ連れて行って貰おうかな」




 こうしてメイはミコト達の前から消えた。















 ミコト達が宿に着いたときには全て終わっていた。正確には宿があった場所だが。


「どうなってやがんだ」


 流石のコヨミも驚く光景が広がっていた。宿はまるで隕石が落ちたように潰れていたのだ。

 瓦礫の中にところどころ光が漏れる場所があった。それはつまり建物の崩壊で死んだ者が居るということだ

 もし崩壊時にカンナがこの中に居たとしたら、流石のカンナでも命はないだろう。


「カンナくん!メイちゃん」


 ユキが大声で叫ぶが、返事はない。


「どうしよう?」


「とりあえず目星をつけて瓦礫を動かすしかねぇだろ。カンナとメイの部屋のあたりから光が出てなかったら、とりあえずは生きてるってことなんだからよ」


「でもこんなにグチャグチャになってたら、正直どこが部屋かもわからないよ」


 コヨミの意見に対するユキの意見は最もだった。それくらい人間の仕業とは思えないレベルの破壊だった。

 しかし三人が悩む時間はそれほど長くは取れなかった。ただならぬ殺気を放つ者達が現れたからだ。

 顔まで隠れるフードの付いたローブを着た六人の男女がこちらに向かって歩いてくる。ミコトにもわかるくらいの強者達だ。単純にこちらの倍の人数でもあり圧倒的に不利になる。

 どうするのが良いかミコトには答えが出せなかったが、コヨミが判断する。


「俺様が三人相手する。ユキは二人でミコトは一人だ。何とかいけそうか?」


「任せて」


 ユキはヤル気だった。


「私も何とかします」


 二人の活気に当てられミコトも答える。

 こちらの意見はまとまった。それを確認したコヨミがそのまま相手に話しかける。


「お前等がやったのか?」


「聞かないとわからないなんて、相変わらず頭は良くないようだ」


「なんだと?」


 フードを外しながらコヨミに知り合いのような口振りで話しかけたのは、長い黒髪をポニーテールにした長身の女だった。


「久しぶりに拙者が相手をしてやる」


 女がそう言いながら青龍刀で斬りかかるが、コヨミはその攻撃を自分の矛で受け止める。

 しかし女はそのまま足でコヨミの腹を撃ち抜く。

 細い体からは想像できないくらい蹴りの威力が強いようで、数十メートル先まで飛んでいく。

 そんなコヨミを追いかけて女も消える。


 残された敵は五人で、こちらはユキとミコトの二人になる。


「一人しか足留めできてないじゃない」


 ユキが溜め息と共に吐き出す。


「私は多数を相手にするのはあんまり得意じゃないんだけどな。どうしようかな」


 そう言いながらミコトに視線を送る。しかしミコトも打開策はみつけられない。

 詰んだ状況と言っても過言ではない。そして次に動いたのは敵だった。


「カンナとかいう化け物は居ないのか?せっかくならこんなやり方ではなく、普通に倒したかったのだがな」


 この発言で崩落はカンナを倒す為だったとわかる。こちらに話しかけてきた男は顔まで入ったタトゥーが印象的な男だった。


「普通に戦ったら負けるからって、やり方が汚過ぎるんじゃない。そんなに一対一が怖い?」


 ユキが敵を挑発する。相手が挑発に乗ればこちらの望む一騎打ちに持ち込める算段での発言だ。


「怖い、か。今の主君に反するのは確かに恐怖といえよう。お前達も生きていればいつかわかるさ」


 会話が成り立ちそうで成り立たない。駆け引きはできない相手だろう。

 そしてそれは他の四人も同じなのだろう。

 一か八か戦うしか選択肢はないように感じた。


 そんな中ミコトが待ちに待った声が聞こえる。


「お前はいつもピンチだな。もう少し安全に過ごせないのか?」


 クロがダークで作った大きな矢を飛ばしながら登場する。完全な不意打ちに三人はダークが当たりカケラとなる。

 しかしユキと会話をした男ともう一人の女は、クロの攻撃を避けていた。女は避けた衝撃でフードが取れ、青色のボブの髪型が見えていた。

 女は攻撃を避けた動作の後、無駄のない動きで倒された仲間のカケラを回収していた。

 顔の整った女が、顔を歪めて叫ぶ。


「何すんだこのクソ猫がぁぁぁ」


 クロの攻撃がよっぽど不快だったらしく、憤怒していた。しかしその叫びをクロは完全に無視する。


「カンナは居ないのか?まさかあいつがこんな攻撃でやられるとは思えないが」


「今のところカンナくんとメイちゃんが居ないし、気配も感じないの」


 ユキが端的に答える。


「メイか、あいつは多分テムに連れていかれたんだろう。生前の逸話通りの乱暴な奴だ」


「連れていかれたのは器だからですか?」


 ミコトが疑問を口に出す。


「そうだ」


「じゃあどうして私は連れて行かれないんですか?」


「お前はワタシがマーキング済みだからな。ワタシを殺さない限り、他の獣堕ちの器にはできん」


「マーキング済みって言い方嫌だな……」


 三人でそんなやり取りをしていると青髪の女とタトゥーの男が突っ込んで来た。


「マウイ!あたしはこのクソ猫を殺すから、あんたはそこの二人をやりな」


 マウイと呼ばれたタトゥー男が青髪の女の指示通りに、ユキとミコトに向かってくる。

 手には大きなナタを持っており、攻撃自体は大振りだが、当たれば即死になるであろうパワーを感じた。

 しかしユキもミコトもスピードではマウイを超えている為、当たることはなかった。

 二人は近距離で攻撃を交わしながら隙を窺う。

 ユキの槍は長物の為、近接には向かないはずだか、それを感じさせない技術でマウイにカウンターを入れる。

 マウイも只者ではなく、ギリギリのところで避ける。その攻防に置いてかれまいと、ミコトも攻撃に加わる。


「ジル。こいつ等厄介だ。一人づつ倒させろ」


 急にマウイが口を開く。そしてこの状況でジルと呼ばれる者は一人、青髪の女だ。


「駄目だ。こいつを始末するまで耐えろ」


 クロとジルも激しい戦いを繰り広げていた。

 ダークで作った無数の針で敵を狙うやり方は、テムを彷彿とさせる戦い方だった。そしてそれはジルを憤怒させる。


「クソ猫が、あの方を侮辱するなぁぁ」


 ジルの持つ剣が、ダークを斬りクロの体へと迫る。それをクロは寸前のところで避け、カウンターを入れる。

 一見クロが押しているように見えるが、致命傷は与えてはいない。


 しかしその均衡は一瞬の内に崩れる。


「いつまでも何をしている」


 テムが部下を更に二人引き連れ現れたのだった。その二人は即座に動き、マウイと連携してユキを拘束する。


「ちょっと、何するのよ」


 ユキは抵抗するが、強者三人に連携されれば、なす術もない。


 テムがミコトと向き合う。


「貴様も弱者の器になどならなければ、この世界でもっと良い暮らしができたであろうに」


「クロは弱くありません。というかやっぱりメイちゃんを連れて行ったのはあなたなんですね」


「愚かだな。メイの方がよっぽど利口であろう」


「私はあなたの器にはなりませんよ」


「貴様などいらぬ。弱者の使いさしの器を使うなど真っ平ごめんだ」


 ミコトがシャインでテムに斬りかかるが、全て避けられる。


「よせ、ミコト。お前が勝てる相手ではない。ワタシがやる」


 クロは叫ぶが、ジルに足留めをされている。


「愚かにも余と同じ獣堕ちという存在になれたことで勘違いしたか。余と貴様は同格ではない」


 テムがクロに言い放つ。その間もミコトは変わらず剣を振るが、不思議と周りが遅く感じる。自分以外の全てが遅くなったような感覚だった。

 スポーツの世界ではこのような状況をゾーンと呼ぶこともあるだろう。

 研ぎ澄まされた感覚の中で、集中力を増していく。

 数々の想いと決意を力に換える。


 上段の構えを取り、手脚にシャインを纏い、ミコトのできる限りの最高の一撃を作りだす。

 そしてようやく辿り付いたその一撃は、この場の誰も避けることが出来ないレベルにまで到達する。






 ただ二人の獣堕ちを除いて。






 最高の一撃すら余裕で避けたテムは、ダークで作り出した大量の針でミコトを貫かんとする。以前と同じようにミコトは全身をシャインで包む。

 しかし訪れた結果は前回と違ったものだった。ダークとは違う普通の剣がミコトの胸に刺さっていたのだ。


「なぜ……」


 口から血を流す暇もなく、ミコトの体が光る。この世界に来てから何度も観てきた光景が自分の体で起きる。


「いっ」


 ミコトの命が尽き、カケラへと変わる。








 人は死んだらどうなるのか。

 誰もわからない答えを考えると怖くなる。

 ミコトも同じだった。

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