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異性転生  作者: 貴志
第二章 それぞれの日々
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006 day 4〜カンナ後編〜

 地獄とはどんなところだろうか。ミコトのイメージでは、悪人が永遠の苦しみを味わせられるようなイメージだった。人はよく信じられない光景を見たときに、「この世の地獄だ」と表現することがある。

 それでは今ミコトの前の光景を指して地獄という表現をすべきなのだろうか。しかし目の前で苦しんでいる人達は悪人ではない。

 では一体何だというのか。彼女達は何故こんな目に遭っているのだろうか。
















 シノとメイがそこに吊るされていた。







 二人は両手を縛られ、その手を上に挙げ天井からロープで吊るされていた。

 両目は潰され、手の指の爪も剥がされ、片足が切り落とされていた。

 全身血まみれで数々の拷問を受けたのだろう。だがそこに存在しているということはまだ生きているということだった。

 しかし扉が開かれた音がしても、何の反応もないことから、生きているのが不思議な状態だった。


 カンナも思わず一瞬動きが止まる。だが次の瞬間には冷静に判断する。二人を降ろす為に動こうとする。


ヒュッ!


 カンナに向かって数本のクナイが飛ぶ。しかしカンナはそれを全て避ける。放たれたクナイと同時に二人の男がカンナに襲いかかる。


「ミコトくん、ここは何人いても私が何とかします。二人にカケラを!」


 そこでようやく硬直が解ける。「二人にカケラを」とはつまりカケラがあれば助かるということだ。現在ミコトが所持しているカケラは二十一個。シノとメイは二人とも善人の為、生きていればカケラ十二個でこの世界から現世に生まれ変わることができる。つまり完璧な死から逃れられるのだ。

 シノも元々カケラは持っていたはずだが、この状況であれば取られている可能性が高かった。

 ミコトが存在する為に一つは使わずに置いておく必要がある為、ミコトが使用できるカケラは二十個。

 つまりすぐに助けられるのは一人だけだった。

 どちらを助けるか。それはつまりどちらを助けないか。ミコトには決められない。思わずカンナの方を振り向くが、今回の敵は今までの敵と違いまだ倒されていなかった。しかしカンナはそんな状況でもミコトに注意を向けていたようで、ミコトの視線に気付く。


「ミコトくん、シノちゃんを先に助けて下さい」


 カンナが叫ぶ。残酷な選択をカンナに任せてしまった。罪悪感と自己嫌悪に陥るが今はそんな時ではない。

 自分の胸の辺りからカケラを一つずつ取り出し、シノの体に溶け込ませる。

 五個を入れても反応がないことから、やはり元々所持していたカケラは奪われていたようだった。

 十一個目のカケラをシノに入れた瞬間シノの体が光始める。


 そしてシノは消えた。

 

 実際に経験したことはなかったので、ミコト自身どういう流れで何が起きるかはわかっていなかった。

 しかしカケラを十二個所有した時点でシノが消えたことからも、無事生まれ変わったのだろう。

 せめて痛みや辛い記憶など全て綺麗に消えて、安らかに新たな人生を歩んで欲しいと願った。


 小さくも優しい少女の魂が幸せでありますようにと。


 今のミコトにシノとの別れの余韻に浸る時間はなかった。

 次の問題はメイである。メイもシノと同様に瀕死の状態である。しかしシノよりも体が大きい分、まだ体力があるのかメイの方がまだマシに感じる。カンナはそこも見越してシノからと指示を出したのかもしれない。

 どこまでも冷静で正しいカンナの凄さを改めて感じる。

 ミコトが使えるカケラは八個。カンナが敵を倒し、敵がカケラを三個以上所持していればメイも助けることができる。何とかなるという希望が見えてくる。


 ただカンナをもってしても二人が簡単に倒せない。ミコトから見てもかなりの手練だった。かつ隙をみて飛んでくるクナイ。

 そう、敵は少なくてももう一人いた。影に隠れてカンナを攻撃しているのだった。連携の取れた攻撃、多分この中にミコトが入っても役に立つことはないだろう。それどころか足を引っ張る可能性の方が高かった。

 今自分に何ができるかを考える。考えた末に思いつく。先に持っているカケラを全てメイに渡しておこうと。十一個のカケラを渡している間に間に合わないなどといった状況になるのも馬鹿馬鹿しい。できることは先にしておくということである。

 しかしこの後ミコトの想像を超える結果になる。


 ミコトが自分からカケラを出しメイの体に入れた瞬間、メイの体が光り傷が治ったのだ。


「私と同じ?」


 その光景にミコトだけでなく、カンナや敵も一瞬動きが止まる。

 そして今まで隠れていた最後の一人すら姿を現す。


「まさか、器がこんなところにいるなんて」


 黒い忍び装束に包まれた男は、どう見ても忍者だった。この者がカンナを陰から狙っていた張本人であり、敵の親玉。一番の実力者である。

 いよいよ総力戦となり戦況が終盤を迎えると感じたが、実際はそうはならなかった。


「撤収だ。お前達足止めをしておけ。この男をここから動かすな」


 忍者が言い、最前線で戦っていた二人の男が頷く。

 この忍者をここで逃すことは良くないと、ミコトの直感が判断する。そしてその直感は当たっていた。


「ミコトくん、十秒でいいのでその男を足留めして下さい。その間にこの二人を倒します」


 カンナが叫ぶ。カンナが誰かに頼ることは珍しく、緊張感が走る。しかし頼まれたことは実行する。

 シャインで剣を作り出し、シャインを使った高速移動で突きを繰り出す。

 忍者は僅かに体を捻り、紙一重で避ける。

避けられたことは残念だが、時間を稼ぐことができればそれでいい。

 前に出した剣を横に払い第二撃を繰り出す。そして剣は忍者の脇腹へと当たる。

 まさかの感触に歓喜するが、喜びも束の間、忍者の体が木の板に変わる。変わり身の術というやつである。原理はわからないが逃げられたようだった。

 ふとカンナの方を見ると、敵の二人がちょうどカケラになった瞬間だった。


「敵を任されたのに逃してしまいました。すみません」


 ミコトが謝罪する。しかしカンナは怒ってなどいなかった。


「とんでもない。ミコトくんが無事で良かった。これ以上仲間を失うことはあってはならない。自分が不甲斐ないです」


 カンナが悲しそうな顔をするなど初めてのことだった。

 どうしていいのかわからず、とりあえずメイの方に向き直る。

 メイは意識を失っていた。あまりの出来事に傷が癒えても意識までは戻らないのだろう。


「とりあえず私は外の三人を助けにいってきます。ミコトくんはここでメイちゃんを見ていて下さい。残党はいないと思います」


「わかりました」


 カンナが外に出ていき、待つ間に何か手掛かりを探す。

 痕跡はほとんどなかったが、一枚だけただ紋章が描かれた紙が置いてあった。


「白い薔薇?」


 そこで数日前の記憶を思い出す。「白薔薇に気をつけろ」と言われたことを。厳密に言うとミコトにではなく、ユキにだったが。

 まさかミコトが遭遇することになるとは、リンも想像していなかったのかもしれない。


 カンナが戻ってくる。


「三人の子供達は無事拘束を解きました。怪我もありませんでしたよ。馬車がそのまま使えそうなので、馬車で街に戻りましょうか」


 カンナがメイを馬車の荷台に寝かせる。子供達がメイの側に寄り心配そうにする。

 この光景でどういう流れでこうなったのかを察する。

 シノとメイは子供達を護ったのだ。ほとんどの子供達は消えてしまったが、二人が命をかけて護った命は目の前にある。

 現状でも十分被害は大きいが、カンナとミコトが行動していなければどうなっていたか。

 今目の前にある四人の命は救えなかっただろう。

 そう思うことで、心に引っ掛かる何かを考えないようにするしかなかった。












 街には自警団があり、主に個人戦力がない人達で構成されている。みんながみんな戦えるわけではないからだ。

 今回カンナに盗賊退治を依頼してきたのはこの自警団だった。

 集団を形成することで、かろうじて自分達の命を守ることができている。

 報告の為にまずこの自警団の長のところに行く。責められる謂れはないにしろ、結局は盗賊を逃してしまい、孤児院も壊滅状態だ。どういう出迎え方をされるのか、考えるだけで気が重かった。


 しかしミコトが想像していたような不安は、実際にはなく、むしろただただ感謝と謝罪をされた。

 「自分達が弱いばかりに頼ってばかりで申し訳ない」といった具合だった。

 みんな生きることに必死なのだ。

 この世界で一番価値があるのは命=カケラだ。ただそれは前世でも一緒だったのだ。誰もがたった一つしかない命、それは無くせば代わりもなくただ終わるだけ。

 命は大切だ。わかっていたつもりでわかっていなかった事実。

 三人の子供達はこの自警団に引き渡した。

 メイの意識はまだ戻らない。いつもの宿に辿り着く。



 夜の定例ミーティングが始まる。ちなみにクロは外出からまだ帰ってきていなかった。



 今日あったことをコヨミとユキに伝える。二人は落ち着いてカンナの報告を聞いていた。

 全ての報告を聞き終わった後までは。


「で、これからどうする?」


「そうだね。シノちゃん達がどれだけ苦しんだか、思い知らせる必要があると思う」


 当たり前だが、二人は怒っていた。ただ今も目を覚さないメイに配慮して、声の大きさは普通だ。


「最近仲間を失ってばっかりだね」


 ユキがポロッと口に出す。


「私が居ながらすみません」


 カンナが謝罪する。しかしそれをユキが慌てて否定する。


「カンナくんのせいじゃないよ。死んでまで悪行をし続ける奴らが悪いだけだよ」


 ユキの言うことは最もだ。今回カンナの人助け活動がなければ、生存者は居なかっただろう。

 悪党はどこまでいっても悪党なのだろうか。ミコトにはわからない。


「敵の手掛かりは何かあるの?」


 そこでミコトが答える。


「そういえば最後の建物で、白い薔薇の紋章が残されていました」


「白薔薇?それってリンちゃんが言ってたやつ?」


「多分そうだと思います」


ユキとミコトの間では通じる内容だったが、それを知らないコヨミが口を挟む。


「白薔薇って何だよ」


「私達も詳しくは知らないの。いつもの情報屋が気をつけてって忠告してくれただけだから」


「じゃあ、そいつに詳しく聞きにいけばいいんじゃねぇのか?」


「そうだね。それでいいと思う。カンナくんはどう思う?」


「私もそれでいいと思います。明日早速訪ねてみますか」


話がまとまったとき、窓からクロが入ってくる。


「お前達どうした。辛気臭い顔して」


 当然だが空気は読めなかった。

 クロにも詳しく今日の出来事を説明する。クロは他の二人とは違う反応をする。


「メイが器だと?」


 クロがそれ以外に言葉を発することはなかった。

 ミコトがクロと話している間に、三人は明日の段取りを決めていた。

 明日はミコトとユキとコヨミの三人でリンのところに行くことになり、カンナはここでメイを護ることになった。

 みんな多くは語らない。

 明日になれば状況が動きだす。

 この世界に安寧はないのだろう。






 メイはまだ目覚めない。体の傷は治っているはずだ。この世界に来たばかりで、こんな酷い目にあって、心の傷はどうやって治せばいいというのか。


 ミコトの一日が終わった。

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