005 day 4〜カンナ前編〜
この世界に来てから一番衝撃的な目覚め方だった。
眠りについた場所と起きた場所が違っていたのだ。
「どこですかここは?!」
ミコトの叫びが谷に響く。
緑が多く近くには川が通っていた。
ミコトが寝ていた場所は柔らかい草の場所で、ご丁寧に草の掛け布団まで掛けてあった。
どうしてこんなことになったのかと自分の記憶を辿る。
しかし全く思い当たらない。
「クロ?!」
思い出したかのように名前を呼ぶ。まぁ実際に今思い出したのだが。
クロの姿は隣にはない。一緒に寝ていた相棒が居ないことの意味に気付く。かなり不味い方の緊急事態である。
シャインで剣を作成し、周りを警戒する。何かあればすぐに切り掛かることができるように。
少し遠くの方から何かが近づいてくる音がする。緑が多く移動するにも音がなるのだ。
音の方に剣を向けて構える。足の裏にもシャインを発生させ、加速の準備を整える。
一番近い茂みまで音が近づき、誰かが出てくると同時に剣が出迎える。
速さも正確さも今のミコトにできる最善の一撃だった。
しかしその一撃は簡単に止まる。片手の親指と人差し指で摘まれたのだ。
そしてそんな神業を簡単にやってのけた者の正体がわかる。
「おはようございます。今日は私と一緒の日だったので、勝手に連れてきてしまいました。驚かせてすみません」
カンナが人当たりの良い笑顔で謝罪する。全力で攻撃した相手がカンナだとわかり、申し訳ない気持ちと同時に衝撃をうける。自分の技術の低さに。
「いろいろ気にしないで下さい」
カンナには全てお見通しのようだった。
「ちなみにここはどこですか?」
「ここは完全に街の外で、今日は盗賊退治を一緒にして貰います」
盗賊退治という単語に驚く。
「普段からそんなことをしているんですか?」
「ずっとじゃないですよ。たまにそういう相談をされることがあって、たまにです」
サラッというが十分凄いことだった。
「盗賊ってどんな奴等なんですか?」
「残虐な連中ですよ。カケラを集めること自体はもちろん悪いことだと思いませんが、集め方が良くない。エリザベートと同類でしょう」
感情のない顔で言う。いろいろと思うところがあるのだろう。
「そいつ等の潜伏先がこの辺だと?」
「そうですね。自分達は普段はここでぬくぬく過ごしながら、狩りをするときだけ街に入ってくる。卑怯なやり方ですよ」
話を聞いていく内にミコトは覚悟を決めた。
「倒しましょう。そいつらを」
「ありがとうございます。基本的には私が前に出てひたすら倒していくので、ミコトくんは逃げた奴の処理をお願いします」
カンナの強さを前提にした作戦だったが、カンナの強さを知っている者であれば納得だった。
ミコトが起きた場所から十分程離れた場所に、敵のアジトがあった。
大きな洋館で何人の敵が居るのかはわからない。しかし不安はなかった。
洋館の正面玄関に着く。
「ではミコトくんはここで待っていて下さい。それとこの扉から出てくる者は全て敵だと思って下さい」
「わかりました。全て斬ります」
エリザベートのときに果たせなかった役割も、今の自分なら果たせるという自負があった。
「それでは行ってきます。三十分もかからないと思うので、頑張りましょう」
挨拶代わりに拳と拳を合わせる。
その後の光景はまたしてもミコトの想定外な光景だった。カンナが洋館の扉を殴ると、扉が綺麗に取れて飛んでいった。
そして一歩踏み出すと、もう姿は見えなくなっていた。
中から男達の悲鳴が聴こえる。
五分程たったころ、扉を通って初めて出てきたのはカンナだった。
「今ここに居たのは下っ端だけでした。本体はもう動いたようです」
入っていったときと変わらない見た目は、下っ端といえど本当に戦闘行為があったのかと疑うレベルだった。
「中には盗賊以外も居ましたか?」
「今は居ませんでしたが、被害者の痕跡はありました」
つまり中では残虐な行為が行われていたということであった。
「中に居た者の情報では、本体は街にある孤児院を狙って動いているそうです。なので街まで急いで戻りましょうか」
「孤児院?それってシノちゃんの通っているところじゃないんですか?」
「シノちゃんが?今日はメイちゃんと一緒に行動している日です。マズいことになりましたね。急ぎますよ」
カンナが駆け出し、その後ろを必死に付いていく。
足の裏にシャインを発生させ、飛ぶように進む。摩擦による抵抗はなく、一歩で一メートル以上は進む速さだった。
ミコトは確実にシャインを使いこなし、その進歩は目まぐるしい。
しかしそれでもカンナに並ぶことはできなかった。それどころかカンナはミコトを確認しながら、付いて来れるギリギリの速さに調整して前を行く。
「シノちゃんが孤児院に通っていることは知っていましたが、あまりそのことについて話題にしないので、詳しくは知りませんでした。ミコトくんは昨日シノちゃんと一緒に行ったんですよね?」
「はい。昨日行ったばかりです」
「そこには戦力になる人はいましたか?」
「一人も居ません」
焦燥と共に怒りが込み上げてくる。盗賊達はわかっていたのだ。孤児院に戦力になる人間が居ないことを。
全速力で走り一時間程が経ったころ、街の方で煙が上がっているのが見える。嫌な想像が頭をよぎる。
それから数分でその正体に辿りつく。
火の海だった。
孤児院は凄い勢いの炎に包まれていて、この火はどう見ても消せるものではなかった。
しかし建物は諦めても人は無事かもしれない。ミコトは気持ちを切り替えるが、カンナが先に判断し指示を出す。
「ミコトくん、絶対一人にならないで下さい。今回の敵はミコトくん一人だとやられますよ。一緒に生存者を探しに行きましょう」
「わかりました」
情け無い思いを感じながらも、支持に従う。
いつも肝心なときに役に立てない自分に嫌になる。
建物を囲むように設置されている柵を回るように生存者を探す。
しかし生存者は見つからなかった。残された沢山の血の後から、命を奪われた人間が居たことはわかった。
許せなかった。
「馬で移動した痕跡がありますね」
カンナが馬車の痕跡を見つける。
「盗賊のものですよね?」
「そうですね。追いかけましょう。」
そこから三十分も経たず、盗賊を発見できた。
森の中に倉庫のような建物があり、建物の前には馬車と見張りらしき男が四人いた。
カンナはまたミコトに待機を提案したが、それは受け入れることができなかった。改めて昨日一緒に過ごした子供達のことを思い出す。
奴等を許せないことを口に出すと、カンナも了承してくれた。
「それでは私は馬車の方に居る三人を倒すので、ミコトくんは建物の入り口の一人をお願いします。まだ中の者に気付かれたくないので、不意打ちになりますが、一撃でトドメをさして下さい。できそうですか?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
ミコトとカンナが二手に分かれる。お互いの姿は視認できる位置取りだ。カンナが手で合図を出す。
三、二、一、攻撃開始。
草むらの中からミコトのターゲットの男の胸に剣を突き立てる。シャインを応用した移動法での突きは、一瞬で距離を零にする。
男は声を出す間もなくカケラへと変わる。
最後を見届けてから、カンナの方を確認する。三人の男達は既にカケラになっていた。
「このカケラは全てミコトくんが持っていて下さい。あってはならないことですが、万が一の為に備えて下さい」
四人のカケラで合計十二個のカケラだった。
カンナの言う万が一が何を指すのか、この時は理解できなかったが、確認する時間もなかった。
場所の荷台からうめき声が聞こえたのだ。急いで確認すると、目隠しをされ、口を塞がれ、両手足を拘束された子供が三人居た。
昨日実際にミコトが遊んだ三人だった。すぐに三人の拘束を外そうとしたが、カンナに止められる。
どうしてと思いカンナの方を振り向くと、カンナが理由をいつも以上に優しい声で説明する。
「みんなもう大丈夫ですよ。助けに来ました。ただ今はまだ盗賊の親玉を倒していないので、このまま気付かれていない内に倒してきます。奴等を倒したら、すぐにみんなを助けにきます。だからもう少しだけこのまま待っていて下さい。絶対に助けに来ますから」
優しい声とは裏腹に、顔からは今までにない程の怒りを感じ取ることができた。
そのときミコトは察した。盗賊達は虎の尾を踏んだのだと。
味方であるミコトですら恐怖を感じる程だった。
「ミコトくん、行きましょう。さっさと終わらせます」
ミコトは無言で頷く。馬車から離れ、建物の入り口が見えるところで最終確認を行う。
「今度は先程のアジトを攻めたときのやり方は使えません。多分まだ中に人質がいるはずです」
「えっ?まだ人質が?」
ミコトは冷静になって考える。
「まさかシノちゃん達が?」
「それはまだわかりません。孤児院が襲撃された時に、シノちゃん達がその場に居合わせなかった可能性もありますし。ただ中でどのような光景が待ち受けていても、決して動じないで下さい。敵を撃たないと人質を助けることはできません」
カンナの重い言葉を頑張って受け入れる。今回は自分もしっかりしないと人質を助けることができないかもしれない。
「私とミコトくんで同時に突入します。私が扉を突き破って中に入ります。すぐ後ろを付いてきて下さい」
「わかりました。それぞれのターゲットはどうしますか?」
「私が主要となる人物を見定めて倒していきます。ミコトくんは残った下っ端を倒しつつ人質の救出を優先して下さい」
「わかりました」
急いで確認が終わり、早速行動に移す。今度はカンナの真後ろに立ち扉を突き破るのを待つ。
カンナがまた手で合図を出してくれた。
カンナの拳が扉を吹き飛ばし、中に入る。このとき中の様子はいろんなパターンを想定していた。しかしどのパターンとも違いミコトの動きは固まる。それはカンナを持ってしても一瞬の硬直をうむ光景だった。




