004 day 3〜シノ〜
気持ちの良い晴れた朝だった。いつもの定例会は夕方だったが、今日は朝になる。何故かクロの定位置がシノの膝の上になっていた。
そしてもちろん議題は彼女についてだった。
「さて、ミコトくんも元気になって良かったですね。今日はメイちゃんについてです」
カンナが笑顔で話し出す。しかし当の本人はまだ半分寝ぼけているようだった。
「ウチ、朝弱いねん。ごめんやで」
次に口を開いたのは意外な人物だった。
「なぁミコト、なんかよ。悪かったな。あんなことになるなんて思わなくてよ」
珍しくコヨミが真剣に謝ってくる。クロ曰く流石のコヨミも昨日はかなり焦っていたようで、仲間を想う優しさが伝わった。
「謝らないで下さい。私も同意の上で試したことですし、結果的に私もメイも無事でしたしね」
コヨミは安心したように笑顔になる。
「そのメイちゃんについてですが、話を整理しますね。この世界に来たのは昨日で、来てすぐ魔獣に襲われているところをミコトくんに助けられた。そして私達のグループに加入希望という認識で大丈夫ですか?」
「その通りです。ウチこっちに知り合いなんか居らんし、一人やとすぐ死んでまう。せっかくのチャンスやから生き返りたいと思うし、できればみんなと一緒に居らせて欲しいです」
「わかりました。私達としてはせっかく助かった命なので、その心意気は良いと思います。私達のチームに歓迎します」
みんなが何も言わないところをみると予め意見は話し合われていたようだった。そしてこれがミコトへの説明の場だと気付く。
「やったーめっちゃ嬉しい!」
そんなことは知らないメイだけが素直に喜ぶ。大事な答えがお預けだったので、当然の反応だった。メイの加入によって、明るい空気になりそうだった。
「明るい仲間が増えて良かったね」
ユキが笑顔で言う。その後喜ぶメイに抱きつかれて少し戸惑っていた姿は斬新だった。
「それともう一つ、今回二人が気を失ったのはシャインを直接他人の体の中に発生させようとしたからとのことですが、二人とも体に影響はありませんか?そもそもシャインは問題なく使えそうですか?」
カンナが心配そうに尋ねる。そういえば昨日からシャインを使っていないなと思い、剣を出そうとする。
「体は大丈夫です。魔法は確かめてみますね。シャイン」
今まで通りの剣が出た。しかし何か質量的な違和感を感じる。まるで水で薄めたような。クロだけがミコトの異変に気付いたようだった。
「どうした?何か違和感でもあるのか?」
「いえ、違和感というか少し魔法が薄くなったような感じがします」
「魔法は使い過ぎれば魔力が減るぞ。ただ普通に武器を作り出すような使い方の場合は、使い終わったら自分の体の中に戻るから、減らないんだがな。今回は初めて放出したから、減ったんだろう」
確かに魔法は無限に使える訳ではないだろうし、初めての経験だったが納得した。
そして次はメイに注目がいく。
「この流れなら次はウチの番やね。シャイン」
前日と同じ見た目のハンマーが発生する。ただ一つ違う点があった。
大きさが何倍にも大きくなっていたのだ。
「凄い大きさだね」
初めてみたユキは驚きを隠せない。ただ驚いているのはユキだけでなく、全員だ。そして驚きの中身はそれぞれだった。
「めっちゃ大きいやん、なんなんこれ」
もちろん出した本人も驚いていた。
「これって振り回せそう?」
「軽いから振り回せそうかな。重さは最初のピコピコハンマーと同じ重さやし」
仮にこの大きさの物を振り回して、当たれば必勝のシャインであれば、かなり強いと感じた。
「ここまで凄いとは思っていませんでしたね。せっかくなのでトレーニングしてみましょうか。これを使いこなせば自分の身くらいは護れると思うので」
「えっ……トレーニング?」
明らかに嫌そうにするメイだったが、人の扱いが上手いカンナに流される。
「確かに昨日のようなコヨミとのトレーニングはキツそうなので、ユキちゃんとトレーニングしてみましょうか。女の子同士で仲良く交流を深めて下さい」
「それならやってみるわ」
不思議にそうにするコヨミと、任せてと胸を張るユキが対照的だった。
「それでは今はこれで解散とします。また夕方に集合でお願いします。ミコトくんは今日はシノちゃんと一緒の日ですね。毎日いろいろあって大変だと思いますが、引き続き頑張って下さいね」
「いえ、大変だなんて。みんなのお陰で凄く充実しています。ありがとうございます」
それぞれが今日もそれぞれの目的に向かって動き始める。
「クロはどうしますか?」
シノの膝の上で撫でられているクロに尋ねる。
「ワタシは今日も用事があるので、別行動だな。じゃあな、気をつけろよ。」
こういった流れで今日が始まった。
いつもの宿から街外れに向かって少し歩く。前を歩く小さな背中に付いていく。会話できるようになったとはいえ、そもそも言葉数は少なめだった。
妹を思い出させる小さな後ろ姿にいろんな複雑な想いを抱きながらも、もっと仲良くなりたいと思う。
「シノちゃんはいつも何をしているんですか?」
「僕は街の外れにある孤児院で過ごしてるよ。ちなみに今から行くのもそこ」
「孤児院ですか?この世界にもあるのですね」
ミコトは不思議そうに尋ねる。この世界に来た人は余り長居しないと聞いたことがあった。ただどうやらこの世界で生まれ育っている人達がいることも確かだった。わかっていないミコトにシノが優しく教えてくれる。
「この世界に来た人達の間に子供が産まれて、その後両親にリミットが来たりもする。そうなると子供だけが残される。そんな子供達が集まるのが今から行く孤児院」
「なるほど。そんなパターンもあるんですね。この世界で産まれた人達は、最後はどうなるんですか?」
「リミットが来たり、寿命を迎える人もいる。残酷だよね」
ミコトはその言葉の意味がわからなかった。
「後はカケラを集めることで、現世に産まれることができるみたいだけどね。ちなみにこの世界で産まれた人達はみんなシャインが使えるよ」
話をしている内に孤児院に着く。木造の学校の校舎のような建物が柵で囲まれていた。
シノは慣れた手つきで押せば簡単に開く門を押して孤児院の敷地に入っていく。
建物の裏の方から子供達の騒ぐ声が聴こえる。声のする方へ進んでいくとそこには二十人くらいの子供達が遊んでいた。
六歳くらいの男の子がシノに気付いて声をあげる。
「シノだ!シノが来たぞ!」
その声に釣られて多くの子供達がシノの方に駆け寄ってくる。
あっという間に子供に囲まれる。そしてシノを囲めなかった子供達がミコトに気付く。
「この人誰ー?」
「このお兄さんはミコト。今日はみんなと遊ぶ為に来た」
「皆さん初めまして。よろしくお願いします」
ミコトとしても今日の目的を今初めて聞いて驚いたが、目的がわかれば全力で取り組む。
もともと子供は好きなので、嬉しい話だ。今の姿で子供達が懐いてくれるかは疑問だが。
「あらシノちゃん、こんにちは。今日はお友達も連れて来てくれたのね」
高齢の女性が遠くの方から少し大きめな子供達と歩いてきた。シスターの格好をしていて、見るからにここの管理者のようだった。
「シスターこんにちは。そう、今日はミコトも居る」
「初めまして。ミコトです。よろしくお願いします」
シスターと挨拶している内にミコトの周りを子供達が囲み始める。今の男性の見た目でも子供達は受け入れてくれるようだ。
ただ気のせいかミコトの周りには女の子ばかりが集まっているような気がした。
「ミコトお兄ちゃん遊ぼ。こっち来てー」
女児達が声をかけてくれた。シノの方を確認すると、いっておいでというジェスチャー。
それならと遠慮なく行ってくる。
「イケメンだー」
シノとの意思疎通中に女児がこう呟いたことを聞いていなかったミコトは、何故自分が女児に人気があるのか気付く余地もなかった。
お昼の時間になり、全員集合の号令がかかる。おままごとをしたり花の髪飾りを作ったりなど、存分に女子スキルを発揮したミコトが、施設の女児全員の心を掴んでいたことは言うまでもなかった。
昼食はパンとスープという、贅沢ではないがしっかり栄養が取れる内容だった。昼食後は子供達のお昼寝の時間があり、大人は職員室のような部屋に集まる。
そこではシスターが紅茶を淹れてくれた。
「お疲れ様。初めて来て、あの子達のパワーに圧倒されたんじゃない?でも凄く喜んでいたわ。本当にありがとう」
「凄く楽しい時間を過ごせました。こちらこそありがとうございます」
心からの本音だった。この世界に来てから子供に触れ合うことが初めてで、心が癒された気がした。
「ミコトは子供と遊ぶのが上手だね。想定外のスキルでびっくり」
シノが無邪気に笑いながら褒めてくれた。
「シノはどういう経緯でここに来るようになったんですか?」
「僕はこの世界に来たばかりのとき、たまたまフラフラしてるときに見つけたんだ。最初は孤児と間違われて保護されかけたんだけどね」
笑い話風に話すが、反応に困る。シノ自身も幼く見えるし、ここにいる子の中にはシノとそんなに変わらないくらいの年齢に見える子も居たからだ。
そんなとき、お昼寝をしている部屋から泣き声が聞こえる。怖い夢でもみたのだろうか。
シスターが慣れた感じで子供達の部屋へ向かう。
「ちょっと来て」
シノに言われてミコトもシスターに付いていく。
一人の女の子が泣きながら何かを言っていた。
「嫌だ。消えたくないよ」
寝言だった。寝ながら涙を流す子供の姿に胸を締め付けられる気持ちになる。
その光景をみた後シノに手をひかれ先程の部屋に戻る。
「どうしてたか泣いてたかわかる?」
問われるが、答えは事前に示されていた。
「リミットですか」
「そう。この世界で産まれた子供達にもリミットは発生する。そして大人になるまで消えずに居られる子供の方が少ない」
事前に聞いた情報が、色を変えて心に堕ちてくる。
なんて残酷なんだろうか。
せっかく産まれてきても、親が先にリミットで居なくなり、自分自身の命もいつ終わるかわからない。
この世界は残酷だ。いや、この世界もというべきか。
「子供には自分でカケラを集めることはできない。戦ってカケラを集めれるだけの力のある人間で、善人としてこの世界の来る人間もほぼ居ない。詰んでるんだよ」
言葉がでなかった。
「みんなにはこのことは言ってない。言ったら何とかしてくれるかもしれないけど、みんなにもリスクになるから。それに僕自身何がしたくてここに通っているのか、答えは出せていないしね」
シノの言葉には優しさが溢れていた。他人のことを真剣に考え、真剣に悲しむことができる人間だからこそ感じる無力感。
そして更に残酷な事実に気づく。
「シノちゃんのギフトはここのみんなは知ってるんですか?」
「誰にも言ってない。というか言えないよね。みんなからしたら、こんなギフトは死神みたいなものだよ」
前の世界でも生きていれば不慮の事故で命を落とすこともある。それでも実際に若くして死ぬ可能性は極めて少ない。
それがここでは大人になれる割合の方が少ないという。いろいろなことを考えさせられる。
お昼寝が終わった後も、午前と変わらず子供達と遊んだ。無邪気に、無邪気でしか居られない子供達と。
夕刻前、シノと施設を出る。
その頃にはミコトも子供達と完全に打ち解けており、帰る間際には寂しいと泣きながら足にしがみつかれたものだった。
また近々来る約束をし、いつもの宿に帰る。
帰り道言葉数が少なくても気まずく感じない程には、シノとも仲良くなっていた。
「ミコトがみんなと仲良くなってくれて嬉しかった。ありがとう」
「こちらこそありがとうございます。凄くかけがえの無い時間を過ごせました」
「子供達に泣かれて、ミコトも泣きそうになっていたのは凄くびっくりした」
「それは言わないで下さい。感動しやすい性格なんです」
事実だった。元々感受性豊かだった為、涙脆い面も持ち合わせていた。
「まぁ子供達からしたら、次もう一度会えるかわからないからね」
この言葉がミコトの心に一番響いた。
宿に戻っての定例ミーティング。問題なく終わり今はクロと自室で休んでいる。
いろいろと考えることの多かった一日だったが、非常に充実した一日だった。
「そういえばクロはいつも何をしているんですか?」
数日全く行動を共にして居なかった相棒に疑問を投げかける。
「種まきだな」
全く想定していなかった返事が帰ってくる。
「危ないことですか?」
心配する。
「いや、全く。安心して遊んでおくがいい」
「遊んでませんけど」
心外な発言だが、傷付く必要はない関係性が楽だった。
「そろそろ寝ますね。おやすみなさい」
「あぁ」
悲しい出会いがあった一日だった。いろいろな発見があった一日だった。
ミコトの一日が終わった。




