003 day 2〜コヨミ〜
前日よりかは快晴ではないが、出掛けるにあたって何も支障のない天気だった。集合時間も昨日と同じだが、集合場所は森の中だった。
呼び出した本人曰く、「特訓だ!」とのことだった。
集合時間より早く着くが、まだ彼は来て居なかった。
「私の方が早かったみたいですね」
その呟きに応える人間はいない。今日もクロは別行動をするとのことで、ミコトは一人で待つ。
宿を出たときは明るさを感じたが、森の中に入ると少し薄暗く感じる。
そして待つこと三十分程。
「全然来ないじゃないですか!」
流石に一人でも言葉が口に出てしまう。
初めて出会ったときも、そもそもコヨミが遅れていたことを思い出した。
「キョウコさんが言ってたことはそういうことだったんですね……キョウコさん……」
キョウコのことを思い出して落ち込む。
みんなはミコトを責めなかったが、ミコトがもっと強かったらキョウコは消えなかったかもしれない。そう考えると後悔の念は消えない。
幸い今日はコヨミが特訓をしてくれるみたいなので、少しでも強くなって、キョウコの分も前向きに生きていこうと改めて決心する。
ミコトの目に光が宿ったと同時だった。
「きゃー」
少し離れたところから女性の叫び声が聞こえた。緊迫した命の危険を感じさせる声だった。
まだコヨミは来ておらず、ミコトが駆けつけたところで何も変わらないかもしれない。
しかし自分が行動することで、誰かの命が助かる可能性があるなら、行動しないという選択肢はなかった。
声がした方へ駆け出す。このときミコトは足の裏にシャインを発生させた。
エリザベートの件以来ずっと考えていた。どうすればもっと強くなれるのか。せっかくシャインが使えるのに、もっと何か応用はできないのか。
その答えの一つがこれだった。足の裏にシャインを発生させることで、脚力の向上に成功する。その結果ミコトの走るスピードは通常時の倍に達する。
声の聞こえた場所へ到着したミコトが観た光景は、想定外のものだった。
浅黒い体毛に包まれた熊のような生物が、倒れている女の子に立ちはだかっていた。普通の熊にはない角が頭部に目立ち、異常な生物であることが見てすぐ理解できた。黒目しかない目は血走っていて、見る者に恐怖を感じさせる。
しかしミコトは弱気になりかけた心を鼓舞し、シャインで剣を作り出す。
「はっ!!」
ミコトの剣が熊の腕に当たるが、かすり傷程度で終わる。反撃が来ると覚悟した瞬間、熊の腕の傷が光りそのまま熊が消滅する。そこには光の粒がキラキラ舞っていた。
「倒せた?」
呆気ない結末に、ミコト自身驚きが隠せない。
女の子の方を確認すると意識を失っているようだったが、その格好に再び驚く。
「セーラー服?」
この世界でセーラー服を見たことだけが驚きの原因ではなかった。その女の子が着ているセーラー服が、ミコトが前世で着ていた服と同じだったからだ。
桃色の長い髪をくくり、ポニーテールにしてあった。目は閉じているが、可愛い顔をしていることはわかる。
ただこの女の子は前の人生では見たことはなかった。
「私と同じ学校……高校生で死んでしまったのですね」
自分と同じ境遇の人間に同情を感じる。しかしいつまでも感傷に浸ってはいられない。
「とりあえず運びますね。こんなところで寝転がっていたくはないと思うので」
もちろん同意の返事はないが、関係なくお姫様抱っこで運ぶ。
街に戻る途中にコヨミとの待ち合わせ場所があるので、一応寄ってみた。そこにはコヨミが居た。
「おせぇじゃねぇか。遅刻だぜ」
コヨミは笑うが、ミコトは笑えない。
「遅いのはあなたでしょう。どれだけ待ったと思ってるのですか」
「やっぱり?」
誤魔化せないと悟ったコヨミは軽い感じで謝る。
「わりぃって。いろいろあって遅れちまったんだよ。ところでなんだそいつ?」
「悪いと思ってませんよね。まったく……この子は変な熊に襲われていたので助けました」
「なんだ。適当に人間を狩ってるのかと思ったぜ。変な熊って角があるやつか?もしそうならそれは魔獣だな」
「そんなことしませんよ。魔獣?シャインで攻撃したら一撃で消えたので驚きましたが、魔獣だったんですね」
「シャインで一撃なら魔獣で間違いないな。魔獣退治が楽なのはシャイン使いの特権だな」
そうこう話をしている内に、女の子の意識が戻る。
「あれ?ウチはここで何してたんやっけ?てか誰?」
腕の中からミコトを見て言う。
「おはようございます」
とりあえず挨拶をしてみたが、顔の距離が近いことに気まずく感じ、女の子を下ろす。
「お前が魔獣に襲われてたから、助けてやったんだ」
コヨミがまるで自分がやったように言う。
「魔獣って何なんよ?お兄さん達面白いこと言うやん。まさか、新手のナンパ?」
「ショックのあまり記憶が混乱してるのですかね?さっきまで角の生えた熊に襲われてたことは覚えてませんか?」
「角の生えた熊?あっ!!」
急に顔が青ざめる。思い出したのだろう。
「ウチ友達と遊びに行く途中で、バスに乗ってたら事故にあってしまってたみたいで、気付いたらこんな森の中にいて、それで……気持ち悪い熊に襲われたんよ。そっから覚えてへん……」
「それで今に至るって訳だぜ」
またしても得意気なコヨミにもう突っ込む気にもならなかった。
そしてここに来ることになった経緯、つまり死んだことを説明した。
「死ぬなんて嫌やわ……」
当然の感想だった。
しかし取り乱すことなく、冷静に聞いていたことは凄いと思った。そこからは更にこの世界のことを詳しく説明した。
「つまりカケラを集めたら生まれ変われるんよね?」
「そうですね、ちなみにシャインは使えそうですか?光をイメージしてシャインと言うだけで出ると思いますが」
「やってみるわ!」
女の子が目を瞑って集中する。イメージが難しいのか、少し時間がかかる。そして。
「シャイン」
体が光に包まれてミコトですら直視できなくなる。ただ光を放つのは一瞬だ。
光が消えると同時に女の子の手には、ハートが付いたピコピコハンマーがあった。
「イメージしたら作れたんやけど」
笑顔でサラッと言い放つ。
「初めてで武器まで作れるなんて凄いですよ」
驚愕だった。ミコトが初めてシャインを使ったときは、光が溢れてとても武器など作る余裕がなかったからだ。
「でもなんか弱そうだな。もっと強そうな武器にすれば良かったんじゃねぇか?」
戦うことが常であるコヨミには、すぐに思い付くだろう。しかし正直現代から来たミコトやこの女の子にはすぐに武器は思い付かない。
「ええの。ウチ戦いたくないし、悪い子はこれでお仕置きや」
その答えにホッとした。やっぱり戦いは慣れないし、自分以外にもそういう人が居ることは安心する。
「メイやで」
「えっ?」
「ウチの名前やん。いっぱい親切にして貰ったけど、名前すら言ってなかったなと思って。二人の名前も教えて」
「私の名前はミコトです」
「俺様はコヨミだ」
「そっか、ミコトもコヨミもありがとうな。これからもよろしく」
最高の笑顔で言われる。
「てかこれからこいつの面倒見ないといけないのか?」
コヨミの疑問はもっともだ。とりあえず助けたが、その後までは考えていなかった。ただ正直ここで別れてしまっては、メイは生き残れないだろう。それは嫌だった。
「昔母ちゃんが言ってたなーその辺で犬を拾ってくるなって。こういうことか」
コヨミがなにやら微妙に正しいようなことを言っている。どうしようかと考えていると、コヨミが結論を出す。
「夕方カンナのところに連れて行って、どうするか決めてもらうか」
正直ホッとした。とりあえずここで放り出すことにはならなさそうだった。
「じゃあとりあえず夕方までは修行だ。ミコトは絶対として、メイはどうする?流石に今日は見てるだけでもいいぞ」
今日はという言葉に引っかかるが、メイの答えを待つ。
「ウチは戦う気なんてないから、修行はええわ。心の整理したいし」
最もな意見に少し羨ましくもあった。ミコトは最初に戦う以外の選択肢がなかったので、当たり前に考えていたが、戦わない選択肢もあっても良かった。メイを見ていると自分自身の心の整理もできる気がした。
そこからはコヨミと実践形式のトレーニングをした。それを少し離れた場所でメイが見守っていた。
お昼になり、休憩になった。
「腹が減ってきたな。さて昼飯だ。何を捕まえようかな」
「「捕まえる?」」
ミコトとメイの声が重なる。
「何だよ。二人揃って」
「お昼ご飯って街まで戻るのでは?」
「めんどくせぇよ。何か捕まえればいい話だしな」
「そんなサバイバル嫌やわ……」
「あっ!あそこにウサギが居たぞ」
「嫌ぁぁぁ」
メイの悲痛な叫びも虚しく、ウサギ肉のランチを食べることになった。
そして昼食後、修行を再開しようとしたときにメイが思い付いたことを言う。
「そういえばミコトはシャインを使って、武器を作ったりしてるけど、直接相手の体の中に発生させることはせえへんの?」
「直接相手の体の中に?」
「うん。そしたら剣を当てる必要もないし、安全に勝てるんじゃない?」
考えたことのないアイデアだった。そもそも今まで出会ってきた人の中にシャインとダーク問わず、そういう風な使い方をしている人は居なかった。
「おもしれぇじゃねぇか。試してみる価値はあるんじゃねぇの?」
コヨミも乗り気だった。しかし問題はどうやって試すかだ。その疑念を持った瞬間答えが出る。
「じゃあウチにやってみて」
「いいじゃねぇか。シャイン使える奴がシャイン喰らっても何もないのはわかってるんだし、危険はねぇと思うぞ」
一瞬戸惑ったが、コヨミの言葉でやる気になった。メイの体に害がないなら、試してみたかった。もしこれが上手くいけばもっと強くなれるかもしれないと、浅はかな考えで始めた試みは予想外の結末で終わりを迎える。
「では試させて貰いますね、シャイン」
手を伸ばしてイメージする。
メイの体の内側から、自分のシャインが溢れ出る光景を。
強いイメージは数秒で完成する。
イメージと現実が重なった瞬間、ミコトの意識はそこで途切れた。
もふもふ
もふもふ
顔にヌイグルミがぶつかるような感触で意識がはっきりしていく。何度目のやりとりだろう。
もふもふ
もふもふ
バコッ!
ーー痛いっ!
ミコトの意識は覚醒した。
「またですか?もう三回目ですよ」
「その通りだ。情け無い」
目が覚めると暖かく柔らかい布団の中にいた。宿屋のベッドで寝ていたようだ。外は暗く、どれくらいの時間がたったのかわからない。
何故この状況になったのか、記憶が曖昧だった。ただこのような状況で隣に居てくれているのが誰かは確認しなくてもわかる。
必死に記憶を辿る。
「確かコヨミとメイと、、、あっ」
全て思い出した。
「メイはどうしました?無事ですか?」
「メイもお前と一緒に気を失ったようだが、お前より先に起きたぞ。しかしコヨミが大慌てでお前達二人を運んで来たときは面白かったがな」
クロが珍しく笑っていた。よっぽど面白かったらしいが、その時のことはここでは割愛する。
「メイは今は?」
「隣の部屋に居るが、気配から察するにもう寝ているのだろう。起こすか?」
「起こしませんよ、もう深夜ですし」
「そうか、明日の朝は全員で集まるそうだぞ。詳しい話は明日だな」
「わかりました。今日はもう私達も寝ましょうか」
「そうするか」
すぐに眠りにつけるところをみると、クロも心配して起きていてくれたのだとわかる。
「いつもありがとうございます」
「なんのことだ。礼を言われる覚えはないぞ」
「そうですか。それではおやすみなさい」
「うむ、おやすみ」
新しい出会いがあった一日だった。いろいろな発見があった一日だった。
ミコトの楽しい一日が終わった。




