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魔術の原理―原書  作者: 岸田四季
聖初書~二章~
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第二章~Chapter 2~普通

「それで……何で佐々神(ささがみ)君を狙ってるの?」

 しばらく沈黙が続いた。男――聖樹(まさき)は何を考えているのだろうか。その問い自体が滑稽だと思っているのか。それとも、

「スパイである佐々神亮平(りょうへい)EARTH(アース)に連れて行くことだ」

 …………

「佐々神君ってスパイなの?」

「違うだろ」

 佐々神がすかさず言い返すと、納得のいったように頷いた。

「ああ、教団とかにはよくある話ね。妄信的な信者にテキトーなこと言って利用するってヤツ。じゃあ、彼も被害者なんだ」

 カトレアがそう言うと、聖樹は叫んだ。

「ふざけるな! 俺が騙されているというのか。騙しているのはお前らの方だろ!」

 そして彼は黙り込む。

 しかし彼は疑っていた。佐々神を。カトレアを。自分を。そして、EARTHを。心のどこかではEARTHの言っていることが不自然だと気がついていたのかもしれない。

 だが、彼にはEARTHがすべてだった。幼い頃、EARTHは彼に食料を与え、居場所を与え、知識を与え、力を与えた。それは今の彼にとって、生きる力となっていた。

「ならば、報いよう。我が地球(あるじ)のために」

 そうだ。彼は一〇年も昔に決めていたのだ。彼がまだ九歳だった時に。

 今更何を迷う必要がある。今までもそうだった。人殺しと罵られようが、地球(かみ)のためならなんてことはない。

 あいつらがなんだというのだ。今まで通り、目の前の敵を殺せばいい。なぜ躊躇っていたんだ。

 あいつらは人ではない。EARTHの教えを理解できない猿どもなんだ。

 彼は自分を騙すかのように言い聞かせた。

 そして、左から右へと右手で空を裂いた。

「カトレア! 気をつけろ。あいつは素手で空気断絶(エアラプター)を使えるらしい」

 カトレアはそれを聞くと、左手を前にかざす。すると、目の前に光で出来ている魔方陣が出現する。そして次の瞬間には、魔方陣から巨大な炎が出現していた。

 聖樹の放った風は消え去り、空気の焦げる臭いがその場に漂った。

「素手の空気断絶(エアラプター)なんて信じたのか?」

 佐々神はその対応にも驚いたが、それ以上にカトレアの順応性に驚いた。素手での空気断絶(エアラプター)には何かトリックがあると思い込んで試行錯誤していた佐々神に比べ、カトレアはすぐに佐々神の言葉を信じ、理解した上でそれに対応をした。

「魔術の世界で生き残るコツは、どんなに無茶苦茶なことでもそういうもんなんだって受け入れるコトよ?」

 そう言って微笑を浮かべると、聖樹の方へ向き直った。

「彼はやる気満々で待ちきれないみたい」

「……そうみたいだな」

 佐々神は苦笑をし、次なる攻撃に備えた。

 聖樹はすかさず、攻撃を加えた。

 それをカトレアは綺麗に、いや、華麗にかわしてみせる。それだけではない。隙を見て反撃を加えている。それにつられて聖樹もヒートアップしてきている。さっきはあそこまで攻撃的ではなかったはずだ。それだけカトレアの存在を危険視しているということかもしれない。

 佐々神もそれに倣ってみるがうまくはいかなかった。着地でつまずいたと思ったら、今度は次の回避が遅れる。それを繰り返している内に傀儡のような奇妙な動きになっていた。

 しかし風を読める佐々神は何とかかわし続ける。

 だが、

「カトレア。何で風が読めないのに避けられるんだ?」

 また巨大な炎をぶっ放しているところへ質問をぶつけてみた。

 カトレアは風系統の魔術が苦手だったはずだ。というか、火しかまともに扱えない。ほかのは使えるには使えるが、実践使えるレベルには達していない。

 カトレアは魔力には性質があると言っていた。魔力というのはそもそも細胞から生成されるものである。つまり、細胞が違えば違った性質を持つということだ。そのためDNAを受け継いだ家族は似たような性質になる傾向があるらしい。一族で秘術を受け継いだり、似たような術を使うのはそういった理由があるからだそうだ。

 そしてその性質はDNA単位で決定されてしまうため、努力でどうこうなる話ではないはずだ。

 つまりは、火に換えやすい性質の魔力を持つカトレアが、見えない攻撃(かぜ)を避けることは不可能に近いはずなのだ。

 しかしカトレアは驚いたような顔をした。

「え!? 佐々神君はどうやって避けてるの?」

「いや、普通に……感覚で」

 そう答えるとカトレアは呆れたようにため息をついた。

「いい? 普通は、“普通”は、ね? 魔力の感覚が残った軌道を避けるの。分かる? 中級魔術師(judgiment)なら誰でも出来るんだけど……魔術っていうのは発動するとほとんどのものが魔力の匂いが残っちゃうの。見えない魔術、つまりインビジブルなんていったらこの世に使える人がいるかどうかすら分からないほど高度な術なのよ。光をうまく利用して見えなくなる術はあるけど、魔力の匂いを完全に消せない以上、魔術師なら簡単に見破れちゃうの」

 カトレアは大きく息を吸うと、

「つ・ま・り! 魔術戦っていったらお互いの魔力の軌道を読み合って攻撃していくものなの! ましてや感覚なんかで避けるもんじゃないの! ていうか、普通はそんなこと出来ないの!」

 そう言い切ると、カトレアはムカついてきたからあいつぶっ飛ばしてくる、と言ってものすごい速さで地面を蹴っていった。

 肉体強化の魔術でも使っているんだろう、と佐々神は思いながら、両手にある大鎌(サイズ)を握り直した。

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