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魔術の原理―原書  作者: 岸田四季
聖初書~二章~
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第二章~Chapter 2~大鎌(サイズ)

 ――時間だ……諦めろ――

「……ぐ、ぁぁぁああぁぁぁあああぁあ!」

 佐々神(ささがみ)の体は一瞬にして黒い光に包まれた。しかし、意識はすぐに戻った。

 自分に何があったのか、佐々神も分からない。だが、何かが違った。いや、何かではない。すべてが違った。

 周りに見えるもの、空気の匂い、感情や思考に至るまで、何一つとして佐々神自身が経験したことのないものだった。

「何をした! 今、何をやったんだ!」

 少し離れたところにいるナニカがそう叫んだ。

(俺は何をしたんだ? 何をしていたんだ?)

 そして、佐々神の右手にあるものを見る。それはとても長く、佐々神の身長を遙かに超えていた。

 しかし佐々神は、なぜかそれを知っていた。すべてが漆黒に染まり、一筋の線だけが白銀に輝いており、禍々しさだけが際立っていたソレを。

 大鎌(サイズ)

 死に神の象徴であるソレを佐々神は持っていた。そして、ソレを知っていた。何であるか、どう使うのか、そのすべてを。

「答えろ!」

 またナニカが叫んだ。

 佐々神自身、それを聞き取ることは出来たがそれの意味が分からなかった。

 何をどう答えればいいのか、さっぱり分からなかった。

 そして、佐々神はある回答を思いついた。すべての疑問が解消され、納得のいく回答が。

「そうだ。殺そう」

 右手に持った大鎌(サイズ)を左から右になぎ払うと、空気を裂き、風が生まれた。そしてその風は、ナニカへと直進する。

 直線的な攻撃はナニカなら簡単に避けられるはずだ。しかし今回は違った。確かに直線的な攻撃で、筋を読むのは簡単だろう。だが、速度、範囲、威力が違った。ナニカの風も異常だったが、それ以上に佐々神の風は異常だった。

 辺りにあったビル群は、大きな刀で切られたように真っ二つに折れ、次々に倒壊していく。環境を配慮して植えられた木々ももはや原形をとどめてはおらず、ただの木くずのようになっていた。

 それを放った当人はというと、それを無関心に見つめていた。その力に恐怖することも、狼狽することも、悲観することもなかった。そして狂喜することもなかった。ある意味では快楽殺人より質が悪いかもしれない。その行為自体に何の意味も見いださない。まるで他人事のように、いや、他人事ですらない。そもそもそんなことが起こっていないというような立ち振る舞いだった。

 佐々神を知るものが見れば、別人だと思うかもしれないが、それは紛れもなく佐々神であり、佐々神ではなかった。

 だが、アリ一匹でも生き残っているのが不自然な光景に、ナニカ――風雅(ふうが)聖樹(まさき)は血を一滴も垂らさずに飄々と立っていた。

「…………」

 聖樹は無言だった。

 なぜあれだけの一撃を無傷で逃れることが出来たのか。聖樹がとてつもない反射神経でかわしたわけではない。とてつもない魔術で防いだのでもない。

 ただ単に聖樹の周りには風がいかなかった。まるで、聖樹を救ったかのように。

「どういうことだ。いい加減何か言え!」

「分からない……。お前を殺したいとも思うし、殺したくないとも思う。なぁ、いったん退いてくれないか? このままじゃ本当に殺しそうだ」

 佐々神の中で葛藤が起きていた。目の前にいる男を殺したいというのは事実だった。それは決して憎いわけではなかった。佐々神は残念ながら自身の心情を表す言葉を持ち合わせていない。例えるなら、力を使いたかっただけ、としか言いようがなかった。目の前にいる相手が誰であれ、例えば(あずさ)舞華(まいか)が目の前にいたとしても破壊衝動に駆られていただろう。

 しかし、殺したくはないという気持ちもまた事実だった。おそらく、佐々神が佐々神であった頃、つまり、世界への認識が変わる前の佐々神の思考が残っているのだろう。

 だが、ここで佐々神はふとあることを思い出した。

 ――経験がある――

 佐々神は今まで何度かこのような経験をあの場所にいた時にしたことがあった。意識が乗っ取られたわけでもなく、佐々神として破壊衝動に駆られたことが。

 だが、そのときと決定的に違うものが今の佐々神にはあった。それは理性があることだった。

 そして佐々神は思う。もし、もしも理性を保ったままこの力を扱えるとすれば、約束を守る力になるかもしれない、と。

 だが、現状としてこの力を扱うのは難しいだろう。確かに、これはとてつもない力だが、実際体に何の負担もないと言えば嘘になる。両手剣(グレートソード)を扱うときより遙かに腕に負担がかかり、形状を維持するだけでとてつもない魔力を吸い取られていく。おそらくこれが、幻器(げんき)本来の性能なのだろう。だがしかし、使用者である佐々神の実力が伴っていないは事実である。

 推測ではあるが、実力の伴っていない佐々神がこれを使用しているのは、幻器(げんき)そのものから何らかのサポートを受けているからだ。それが佐々神の表に出ない部分、つまり、本能的な部分が引き出し、ようやく幻器(げんき)に追いついているのだ。

 だが、と佐々神は否定する。

(出来る出来ないの問題じゃない。やるかやらないかだ!)

 もはや出来るか出来ないかを考えている余裕は彼にはなかった。フロントの一件でも思い知った。今の実力では、(しょう)との約束を守ることが出来ない。

 この先どんな壁が待っているか分からない。でも、彼にはどうしてもそれらを乗り越えていける力が必要だった。

(だったら……やるしかねぇよな。何が何でもこの力を手に入れる。それしかねぇんだよな)

 佐々神は大鎌(サイズ)の柄を強く握る。

 そして、それをさっきより力を込めて横になぎ払った。

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