第一章~Chapter 1~学ラン破産
全員が集合したのは待ち合わせから二〇分以上過ぎた午後一時二五分。それから電車を乗り継ぎ、目的の駅へ向かう。
駅から降りると、今度はバスに乗り換える。ようやく着いたのは、時計が午後二時に差しかかろうとした時だった。
辺りは南国っぽい木が等間隔に植えてある。そして、目の前には大きなアーチがかかっている。ベタに「ようこそ」と書いてある隣に、イルカやら何やらの魚をモチーフにしたキャラクターが描かれている。
入場門の横には入場券売り場があり、お姉さんが常にスタンバイしていて、いろんな案内をしてくれる。
「はぁ、やっとついたぁ」
と、気だるそうに言っているのは舞華だ。佐々神は、ここに来ようと言ったのは誰だ? と、ツッコミそうになったが、寸前のところでやめた。理由はもちろん、殺されるからだ。
(触らぬ神に祟りなしとはよく言ったもんだ)
佐々神は感心する。
「ほら、早く入るよ! 時間ないんだから」
舞華がそう言って先導する。時間ないのは誰のせいだ? と、ツッコミそうになったが、さっきと同じ理由でやめた。
舞華が入場券売り場のところへ向かうのを見て、佐々神、梓、学ランの三人も続く。
三人で並んでいると、先に行っていた舞華が戻って来る。
「あ、そうだった。学ランの全額おごりだったんだ」
そう言って列の最後尾の方へ向かって行った。
(あ、マジだったんだ……)
佐々神は改めて舞華の恐ろしさを知る。
とりあえず、佐々神、梓は舞華が怖いので付いて行くことにする。佐々神は、最後に見た学ランの本気で泣きそうな顔は、二度と忘れないと心に誓った。おそらく、五分と持たないだろうが……
しばらくすると、大人四人分のチケットを買って、学ランが戻ってきた。その顔はとても酷かった。たった二分、三分見なかっただけで驚く程やつれていた。
舞華は奪い取るようにチケットを受け取り、入場門へ向かう。それに続き後のメンバーもチケットを渡し中へ入る。
「おお、すげぇ」
学ランが驚きの声を上げる。驚くのも仕方がない。プールだというのにジェットコースター頭上を走り抜けている。
ここはすべてのプールがガラス張りの天井に覆われていて、屋内プールとなっている。しかもそれだけではない。水着を着たままは入れるレストランや先ほど見たジェットコースターを始め、様々なアトラクションが用意されている。
「どお? すごいでしょ?」
自慢げに舞華が言う。それに対し梓は、
「うん、すごいよ! 早く行こうよ!」
梓のテンションが最高潮に達し、更衣室へ走っていった。
ドン
「あ、すみません」
梓の黒い髪がヘコヘコと下がっている。どうやら人とぶつかったらしい。
舞華もそれに続いて行ってしまう。
男二人のみとなった。
「じゃ、行くか」
佐々神はそう言うと女子更衣室とは反対の男子更衣室へ向かった。それに学ランも続く。
更衣室に入ると、水色のロッカーがずらりと並んでいた。佐々神は一番近い空いているロッカーに水着を入れた鞄を入れ着替え始める。
学ランはその隣のロッカーに荷物を入れ着替え始めた。
「ったく、倉敷の奴。ホントにおごらせんのかよ」
学ランが愚痴をこぼしている。佐々神は、面白いから舞華にチクってみようかと思ったが、さすがに可哀想過ぎるので止めることにした。
「ああああ、でも、梓ちゃんの水着楽しみだなぁ。どんな水着だろ? ビキニかな? ワンピース型のかな? それともスク水だったりして」
ニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべる学ランに対し、佐々神は、
「舞華のは楽しみじゃないのか?」
と、訊いてみる。
すると学ランは手をぶんぶんと振って、
「いやいや、あの女はないでしょ。あれ? 待てよ……あいつ胸すげぇじゃん! どうしよ、楽しみになってきた」
(こっちも楽しみになってた……別の意味で)
別の意味とは学ランがいかにしばかれるか、である。
佐々神たちは喋っているうちに着替えが終わっていた。
佐々神は紺の海パンという至って普通のものに対し、学ランはというと……競泳用水着。つまり、ブーメランパンツだ。しかもただのブーメランパンツではない。虎柄だ。
これは気持ち悪いを通り越して芸術的だ。
そして、佐々神にはもう一つの楽しみが出来た。それは、梓と舞華がどう反応するか。今からワクワクして来る。もちろん、悪い意味で。