第一章~Chapter 1~終業式
七月二三日。
佐々神は朝食を食べ終え、制服に着替えていた。制服と言っても、夏なので上は白いワイシャツでネクタイは締めず、下は黒いズボンにベルトを締めただけだ。
着替えが済むと、急いで玄関へ向かう。母親に一言かけてから革靴を穿き、扉を開けて外へ出る。
外は相変わらずの熱気に包まれ、それだけで学校へ行く気を無くさせる。だが、今日は終業式と言う大イベントが待っているため、仕方なく学校へ向かう。明日から夏休み。そう思うだけで幾分か気分は晴れる。
佐々神は急いでいることを思い出した。
(そうだ、寝坊して遅刻しそうなんだ!)
佐々神はダッシュで家から一番近い駅へ向かう。
五分程走るとようやく駅が見えてくる。そこから全速力で電車に乗り、全速力で降りて、全速力で学校へむかった。
「はぁ、はぁ、はぁ。間にあったぁ」
学校の玄関までたどり着くと安堵の息を漏らす。
「コラ! 佐々神君。終業式の日までギリギリですか」
そう言って声をかけてきたのが去年と今年の担任、美山先生だ。
身長は一五〇センチ強。
すらっとした体でいつもブラウスの上に緑のセーターを着て、下には白(時々変わるが)のひざ下までのスカート。そして、スカートの下にはストッキングを穿いている。顔立ちは美人というよりかわいいと表現したほうがいいだろう。個人的偏見だが眼鏡をかけていてなんだか「図書委員」っぽい。
「そういう先生は間に合うんですか?」
そう問うと、見る見るうちに焦った顔になっていく。
「あ……あぁああぁああぁあああ」
突然大声で叫んだ。
「そ、そうでした。職員は最終確認の会議があるんでした。佐々神君も遅刻しないようにね」と言って、階段を駆け上っていった。
美山先生はあんなドジっばかりしているので、一部の生徒からは「みーちゃん」の愛称で呼ばれていたりする。
佐々神はデジャブを感じた。が、そんな暇はないので急いで教室へ向かう。
階段を駆け上がり、つきあたりのCクラスを右に曲がる。そして、慣れたように一直線にダッシュする。
意外と長い道のりを息を切らしながら走り、「2-F」のプレートが近付くとようやく足を緩める。
ただでさえ熱いこの季節に猛ダッシュをかましたため、白いワイシャツの背中がビショビショになる。
教室を開け中に入るといつものメンツが声をかけてくる。それらに適当にあいさつをし、席に着いたところであることに気づく。
(アレ? 美山先生、これから会議って言ってたよな?……だったら走らなくても間にあったじゃん!)
教室に来た時先生がいなければ、チャイムが鳴っていてもセーフ。と言うのが暗黙の了解だ。
今更気付いても手遅れなことに気付いた佐々神は落胆する。
テストに備え猛勉強したが、当日風邪を引いて休んだ時くらい負けた気分を味わい、机に突っ伏す。
しばらくすると、美山先生が来たが、話は全く入らない。どれだけショックを受けてるんだ! と、ツッコミたくなるような落ち込みっぷりだ。
美山先生の話が終わると、いよいよ終業式だ。佐々神は、暑さにやられた重い体を引きずり、体育館へ向かう。
だが、その後には校長先生のお話が待っていることを佐々神は忘れていた。