第一章~Chapter 1~フランスで起こった怪事件
翌日、六時四六分。
なぜか佐々神は目覚ましに勝利した。
「まだ、七時になってないのか」
佐々神は一階へ降りていく。幸いなことに母親はまだ起きていなかった。当然ながら何も用意されていない。その方が佐々神取って好都合なのであるが……。
「今日は味噌汁だけでいいか」
昨日の晩飯の残りの味噌汁を温めて、食べることにした。
しばらくリビングには、ガスの匂いとガスに引火する音だけが続いた。
「テレビでもつけるか」
佐々神は普段それほどテレビを見ない方だが、さすがに少し寂しいと感じ、テレビをつける。
「速報です! つい二〇分ほど前現地時間午後一〇時一五分ごろ、フランスのシャンゼリゼ通りで何者かによって男性三名が襲われました。こちら現場につながっています」
アナウンサーがそう言うと画面が切り替わった。
なんでフランスで殺人事件が起きただけで日本で報道されるんだろう、と考えたがすぐに答えが分かった。
「はい、こちら現場です。現在フランスの警察により封鎖されていて詳しく見ることができません。しかし、道路を見てもらえば分かる通り大変なことになっています」
そう言ってカメラは道路の至る所を映していった。映された道路はめちゃくちゃだった。アスファルトは所々えぐれていて、あちこちに巨大な爪で切り裂かれたような跡が残っていた。
それはライオンやトラがつけられるレベルじゃなかった。爪跡は深く、おそらく七、八センチくらいだろう。他にも道の横にある木々も数本薙ぎ倒されていた。ゲームに出てくるモンスターが街を襲っている様子を連想させた。それほどめちゃくちゃな状態なのだ。
画面はスタジオに戻り説明を加えていく。
「三名の男性はいずれも即死で背中や腹部を切り裂かれて、」
アスファルトがえぐれるぐらいの爪が人間に向けばどうなるか想像は簡単だった。
「三名のうち二名は両腕、両足などが食いちぎられたようになくなっていたとのことです」
食いちぎられた? それじゃ本当にモンスターに襲われたみたいだ。
ニュースに夢中になっていると、味噌汁のことをすっかり忘れグツグツと沸騰していた。
「ヤバ」
慌てて火を止めて、米と味噌汁をよそった。
朝食の準備をしているといつの間にか別のニュースに変わっていた。
佐々神が朝食を食べ始めると母親が起きてきた。
「おはようございまぁす」
と眠そうに挨拶をしてきた。
おはよう。と答えると、ぼーっとしている母親に朝食を用意した。佐々神は基本的に母親と仲がいいので、この行為はこれと言って不思議なことではなかった。
「りょー君、ありがとー」
間延びした声でお礼を言う。
佐々神はボーっとしながら朝食を食べている母親を置いて、自分の部屋に戻り学校の支度をすることにした。
部屋に戻るといつものように制服を着て準備を始めた。今日は、さっそく実力テストがあるので荷物はさほど多くない。忘れ物よりテストの方がよっぽど心配だった。
「ヤバい。昨日帰って来てから何もやってない」
半泣きになりがら昨日のことを思い出す。
佐々神は昨日『crunch』を出て、真っ直ぐ家に帰った。
が、途中になぜか舞華がいて、
「ねぇねぇ、こんな時間まで何してたの?」
知ってるくせに笑顔で尋ねてきた。あれほど怖いものはない。何も悪いことしてないのになんだか悪いことをした気分になり、舞華に平謝りを繰り返してた。
それでようやく解放してもらえた条件が「晩飯を一緒に食べる」こと。佐々神は全く意味が分からなかったがその条件を呑んだ。
近所(中学が一緒の為、お互いの自宅も近い)のファミリーレストランに入って条件通り晩ご飯を一緒に食べていると、なぜだか知らないが気づいたら全額おごりということになっていた。それでもなんだかんだ許してしまう甘さは、母親に似ているのかもしれない。
結局そのあと送らされて(本人曰く、「女の子を夜道を一人で歩かすのは男としてどーよ?」ということらしいが……。夜道を歩く時間まで付き合わせたのは誰だ? と言いたい)、帰って気のが一一時を過ぎたころ。
と、言うわけで昨日は疲れてすぐ寝てしまい、勉強どころか昨日のまま鞄すら開けていなかったりする。
「はあ、どうすっかなぁ」
佐々神はとりあえず学校に行くことにした。このまま家にいて打開策が浮かばないと判断した。