終章~Closing chapter~決意
四月二一日。
巫梓は、学校へ登校していた。四月一三日に起きた事件から約一週間ぶりの登校だ。学校の修復は大体終わっていて、残るはペンキを塗るのみとなっている。そのため、教室の壁はベニヤ板丸出しかコンクリート丸出しの状態だ。これはこれで味がある。
こうしてみると、事件があったのは嘘みたいだ。幸いクラスの全員は先に逃げ出したため、佐々神の姿は誰にも見られていない。もし見られていたら、なんと説明すればいいのだろう。
梓は晴れて魔術師となったが、世間では魔術=空想というのが一般的だ。
以前カトレアになぜ魔術を広めないかと聞いたことだあったが、
「だって、今広めたら魔術を悪用する人がいっぱい出てくるでしょ? だから、それを律する魔術が出来るまで広めないことにしたの」
と言っていた。
確かにその通りだ。今広めれば必ず魔術犯罪が増えるに違いない。今のところ魔術を使えば証拠が残らない。そうなれば犯人の特定はかなり厳しい。だから、昔から魔術は裏で行われていたのかなぁ、と梓は勝手に想像する。
将来、魔術の学校を作ってみたいと梓は考えている。魔術犯罪に対抗する組織を作って、魔術をいいことに使っていきたいと本気で考えている。
(あ、もし魔力を科学的に応用できれば……永久機関が出来るかも?)
これをカトレアに言ったらバカにされるかもしれない。
「ねぇ、梓ちゃん。今日ヒマ?」
今話しかけてきたのは、倉敷舞華だ。梓とは同じ携帯小説を読んでいることがきっかけで仲良くなった。
「うん。大丈夫だよ」
「じゃあさ、今日から公開の『トモヨリ』見に行こうよ」
『トモヨリ』というのは、梓達が読んでいた『友達よりアナタ』という携帯小説だ。人気が高かったため映画化されたのだ。
梓は迷わず、
「え? 今日だったっけ? 行く行く!」と答えた。
だが、舞華はまだ何か悩んでいる様子だ。
「どうしたの?」
梓が尋ねると、
「いやぁー、あの亮平も連れて行こうかなぁ、って」
梓はそれを聞くと顔を真赤にして、
「だ、だめだよ。亮平君こういうの興味なさそうだし……それに……」
それ以上反論が思いつかなくなった。梓自身なぜここまで一緒に行きたくないか不思議だった。
(亮平君のことは嫌いじゃないし、むしろ好きな方なんだけどなぁ)
と考えているが、それが原因なのは梓は気が付いていない。
「ま、それもそっか。『つまんねぇー』とか言われたら腹立つし」
なぜ、舞華が誘おうとしたかは梓は触れない。なぜかというと……乙女心?
チャイムが鳴り、舞華は自分の席に戻って行く。
そんな中、梓は改めて今回の事件を振り返る。
今回の件はすべて梓の兄である翔が関係している。なぜ世界中でテロを起こしているのか。なぜEARTHのトップに立っているのか。そして、『地球返還計画』とは一体何なのか。
他にも幻器の正体、地下世界の存在などよくわからないことが多すぎた。
そう、この事件はまだ解決していない。解決どころかその糸口すら見つかっていない。何をすればいいのか。何がいいのか。何が悪いのか。分からないことだらけだ。
そんな中梓は決心する。
(いつか、魔術師だって胸張って言えるようになって、魔術で世界を幸せにする! そして、出来る限り亮平君の力になりたい。それと……お兄ちゃんを超えて見せる!)
そう心に決めた。