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第三章~Chapter 3~人工神(オーダーメイド)

 (あずさ)は立ち上がり、佐々神(ささがみ)に声をかける。

「じゃあ、もう少しじっとしててね。ちょっと行ってくるから」

 梓はその場を離れようとする。が、佐々神がそれを止める。

「ちょっと待て。どこに行くんだ?」

 佐々神が尋ねると、梓は答える。

「ん? お兄ちゃんのところだよ」

 梓はさらっと言った。

 だが、佐々神は、

「行くな!」

 と、怒鳴る。

「あ……ワリぃ、つい怒鳴っちまって……」

 佐々神は申し訳なさそうに謝る。

「でも……」

 そう言って付け加える。

(しょう)のところへは行かせない」

 梓の顔の色が変わる。

「な……んでよ。なんでよ! だって、もう倒したんじゃないの? だったら、会いに行ったって大丈夫でしょ?」

 梓は叫んでいた。ただ、兄に会いたいがために。もう、三年も大好きだった兄に会えていないのだ。居場所を知れば会いに行きたくなって当然だろう。

 だとしたら、なぜそれを止める必要があるか。梓をさらおうとしたフロントは佐々神が倒した。EARTH(アース)自体は、梓をさらおうなんて気はない。では、何がダメなのか。佐々神が答える。

「お前……この三年間。翔の気持ち考えたことあるか?」

「え?……」

 梓は黙り込む。考えたことがある訳なかった。突然姿を消した兄の気持ちなど分かるはずもない。いったい何があったのか? ただ、事件か何かに巻き込まれたものだとばかり思っていた。

 佐々神はワンテンポ置いて、

「……そろそろ話してもいいか」

 佐々神はそう言うと話を始める。

(アイツ)がEARTHにはいったのは、理由がある――最初はアイツ自体、EARTHに入る気は全くなかった。元々、(かんなぎ)という血筋は魔術の扱いに長けていた。アイツはそれを濃く受け継ぎ、魔術師となった」

 梓は質問する。

「お兄ちゃんは誰に魔術を教えてもらったの?」

 佐々神は忘れていたかのように、

「ああ、それか。アイツは親父に教えてもらったと言ってた。アイツの親父は相当な魔術師らしいな。おそらく今の翔と大差ないくらいに……な」

 梓は驚く。ついこの間まで魔術という存在を知らなかったのに、兄だけでなく父親まで魔術師だったのだ。驚くのも当然だ。

「もしかして、お母さんもなの?」

 梓は恐る恐る尋ねる。

 だが、佐々神は首を傾げる。

「んー、そんなこと言ってたっけなぁ。忘れた」

 思わずずっこけたくなる返答だ。

「ま、それはどうでもいいだろ」

 佐々神にはどうでもいいと判断された。

「とりあえずお前の家族はお前を魔術に関わらせないと決めた」

「どうして?」

「それは……」

 佐々神は少し迷い、

「お前の魔術の潜在能力が高すぎるからだ」

 梓は耳を疑った。どういう意味かわからない。

「そのままの意味だ。アイツは今、神級魔術師(the fool)だ。だが、お前が本気で魔術を習えばアイツを軽く超える。そうなれば、お前は世界中の魔術師から狙われる。その力を得るために」

 梓は思わず黙り込む。

「だから、アイツとアイツの親父はそれをしなかった。もし、アイツらほどの魔術師がお前に本気で魔術を教えれば……」

 佐々神は一呼吸を入れ、

「人智を超えた、人工神(オーダーメイド)が誕生してしまう」

 梓は未知の単語に戸惑う。人工神(オーダーメイド)とは、いったい何なのか?

「魔術師の階級なんかは忘れたが、これだけは覚えてる。人工神(オーダーメイド)だけは、作ってはいけない、って」

「……人工神(オーダーメイド)って、何なの?」

 佐々神は慎重になる。

「翔は神級魔術師(the fool)って呼ばれてるけど、あくまで神レベルの魔術師だ。決して神ではない。じゃあ、神と神レベルの人間の違いは何か?」

 梓は黙って話の続きを聞く。

「それは……世界を作れるか、作れないか」

 しばらく沈黙が続く。梓は必死で話の整理をするが、ついていくのが精いっぱいだ。

「だが、人工神(オーダーメイド)は人間にして世界を作れる。完全に人間の領域を無視した魔術師なんだ」

 世界を作れる魔術師? 人間の領域を無視? 言葉は分かるが頭がついていけない。いや、頭が理解を拒絶しているだけだ。

「だからEARTHはお前を狙った」

 梓は身に覚えがなかった。狙われた経験がない……はず。

「EARTHはずっと、人工神(オーダーメイド)の器を探していた。そこでお前の存在を知る。魔術を使えないお前は好都合だった」

 梓は尋ねる。

「なんで好都合なの? 魔術が使えなければ結局ただの人間じゃないの?」

 佐々神は質問に答える。

「魔術を使えないということは、魔術に抵抗できないということと同じだからだ」

 梓はどういう意味か分からなかったが話に耳を傾ける。

「魔術に抵抗できなってことは、こちらからはいくらでも魔術をかけられる。そして、解く術もない。ということは、魔術でお前を好きに操れるってことだ。その後お前に魔術を教え、好きなように利用する。もし、最初から魔術が使えたら誰も人工神(オーダーメイド)には逆らえない。だから、好都合だったんだ。魔術が使えないことが」

 梓はそこでようやく納得する。つまり、魔術が使えない内に操り人形を作り上げるということだ。

「EARTHの思惑を知った翔は、EARTHに掛け合った。どうか妹だけは手を出さないでくれ……と。もちろんEARTHはそれを受け入れるはずもなかった。しばらく、妹を連れ去ろうとする刺客から守るためEARTHと戦い続けた。その時俺も何度か手伝ったこともある。だから、アイツは決断した。これ以上は誰にも迷惑をかけない。そう思って、アイツはEARTHに協力することにした。EARTHの言いなりになり、妹の代わりに新たな人工神(オーダーメイド)を見つける、という条件付きで……」

 梓はあまりにも漠然といしていて、あまりにも現実とかけ離れた実話(オハナシ)に茫然としていた。

「アイツは誰のためにEARTHに入ったか分かるか? 誰のためにやりたくないことをやってるか分かるか? 誰のために多大な犠牲を払ってるか分かるか? 全部、お前のためなんだよ……あのシスコンは、(オマエ)のためにこんなテロ(くだらないこと)やってるんだよ!」

 佐々神は感情が高ぶり怒鳴る。梓が悪いわけではない。ただ、(アイツ)が悪いだけだ。妹を守るためだとは言えテロを起こしていることは間違いない。

 梓の目からは涙が零れている。佐々神に怒鳴られたからなのか兄の意図を知ってからなのか分からないが、ただ声も上げずに静かに泣いている。

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