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第三章~Chapter 3~アホの梓さん

――温かい。こんなに安らいだのは何年振りだろう。俺は死んだのか――



亮平(りょうへい)君。起きて」

 (あずさ)佐々神(ささがみ)の肩をつかみグラグラと揺らす。いや、グラグラという表現は間違いかもしれない。グワングワンだ。

「ど、どうしよう。じ、人工呼吸とかしないとダメなのかな?」

 梓は(ほほ)を赤らめながら言う。実際のところ人工呼吸の必要性は皆無だ。佐々神は魔力の使い過ぎで意識を失っているだけだ。最後、佐々神が回復魔術を唱えた瞬間に魔力が切れたのだ。もし、回復魔術を唱えなければ生きていたかどうかは定かではない。佐々神の腕は蒼い炎の熱と自らの剣を振る摩擦熱で火傷を負っていた。血は垂れ流しで、皮膚はないのと同じ。そんな状況で倒れれば助かる見込みはないに等しかった。

「ファ、ファーストキスだよ? でも……よし。亮平君のためだもん。恥ずかしがってたらダメ」

 梓は両頬を叩き、自分に喝を入れる。というか、未だに無駄なことをしている。

 梓は目を(つむ)り、佐々神に顔を近づける。

…………

(あれ? なんで目を瞑っているんだろう。意味ないじゃん。これじゃただのキスになっちゃうよ)

 軽く涙目になりながら目を開ける。

 すると、梓の目には目を開けた佐々神が映った。

「お前……何してんの?」



 佐々神は目を開けると、すぐに目を瞑って迫りくる梓の姿が映った。

(……は?)

 理解が出来ない。この状況に陥った原因はなんだ?

 佐々神は辺りを見回すがそれらしきものは見つからない。というか、どんな原因であろうとも辺りを見回しただけで分かるはずがない。

(どうすっかぁ……)

 佐々神が悩んでいると目の前の少女は目を開けた。

……しばしの沈黙。

「お前……何してんの?」

 佐々神は尋ねる。なぜこんなことになったのか。

 だが梓は、佐々神の質問に答えることもなく一気に距離を取る。

 佐々神は梓の行動が理解できない。

 しばらく佐々神はボーっとする。

(そう言えば、俺は何をしてたんだ?……ッ!)

 佐々神はもう一度辺りを見回す。

(そうだ、俺はアイツと……アイツと戦ってたんだ!)

 だが佐々神が見つけたのは、倒れて動かない黒いマントを着た男の姿だった。

 そうだ。勝っていたんだ。そう確信すると、また全身から力が抜ける感覚に陥る。

「だ、駄目だよ。あんま動いちゃ」

 梓はきょろきょろと首を動かす佐々神を止める。

 佐々神はそれに従うことにする。

「なぁ……俺が意識を失ってどれくらいたった?」

 佐々神は梓に質問する。

 梓は(あご)に人差し指を当て、

「んー、三、四分かな? 五分は経ってないよ」

 佐々神は耳を疑う。五分も経っていない? そんなはずはない。佐々神はほぼすべての魔力を使い果たしていた。それが五分で回復するはずがない。

「本当か?」

 梓はうろたえながら、

「う、うん。一応あたしが回復魔術使っておいたから……」

「え? 本当にお前がやったのか?」

 梓は佐々神がなぜここまで驚くか不思議だった。

「あたしには意識を戻す程度しか出来なかったけど……でも、亮平君の内臓が傷ついてたからそれの修復と、魔力がすごい減ってたからあたしの魔力を少し分けるくらいはしておいたよ」

 佐々神はさらに驚く。佐々神自身、傷を塞ぐ程度の回復魔術しか扱えないがそれですら難しいのだ。きちんと治す箇所を見て、そこに光を注ぐようにしないと治し損ねる場合がよくある。それを梓はレントゲンも使わず佐々神の内部の臓器を的確に修復している。こうして、佐々神が思考できる程度に。目隠しでスイカを割る程度の(わざ)ではない。目隠しでゴルフのパターを決めるのと同じくらい難しいことだ。

 それに、魔力を分け与えることは決して容易(たやす)いことではない。輸血の際、同じ血液型でないと拒絶反応が起きてしまうことと同じように魔力も他人のものだと拒絶反応を起こす恐れがある。最悪、魔力をすべて放出してしまい意識が戻らない場合がある。それを全く違和感を感じないよう、その人にあった魔力の質に変換するのだ。とても魔術初心者とは思えない。

 そんなことを考えているなんて知らない梓は、未だに頬を赤らめたまま佐々神を見ている。

 その様子を見た佐々神は、

(やっぱこいつ……天然(アホ)だな)

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