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第三章~Chapter 3~無音

 視界が白で奪われる。

 佐々神(ささがみ)は重力に身を任せ、地面へ引き寄せられていく。地面に着く直前、幻器(げんき)を二つの拳銃(ハンドガン)へ変更させ、地面に向け放つ。銃声がすると、佐々神の落下の速度は少し遅くなり落ちる衝撃を和らげる。

 ようやく視界が晴れた。その中から姿を現したのは――蒼い炎の塊だった。そして、炎の塊がなくなり、姿を現したのは――黒いマントを着た男だった。

「、ッ!!」

 佐々神はあまりにも驚いたため、声が出なかった。

 フロントは煙に包まれたまま、

「なンで生きてるかって? 簡単だよ。炎で防いだだけだ。最初に俺の炎の刃とぶつかったテメェの光はこっち来るまでに弱ってたンだよ」

 フロントはまたもや気味の悪い笑いを浮かべる。とても憎らしい笑みを――



 (あずさ)は茫然としていた。何も出来ない。というよりも、なにが起きているか分からない。誰と誰が戦っているのかを知ったのはついさっき爆音がした時だ。それまで体が震え、ただ寒かった。よくわからないがとても怖く、何かを思い出しそうになるが思い出せない。いや、思い出せないのではない。思い出したくないだけだ。なぜか分からないが思い出してはいけない、と思ってしまう。

(なんで戦ってるの? もう、止めてよ。怖いよ)

 梓は体をガタガタと震わせている。両手で自分を抱くようにして落ち着こうとする。だが、些細な音がする度、体の震えが止まらなくなる。

「も……もう……やだよ……あんな思いするのは……」

 梓の(ほお)に自然と涙が伝う。あんな思い、というのは、梓自身分かっていない。口から勝手に出ていた。おそらくこれが梓を怖がらせている原因だろう。なにがここまでさせるのか。なぜ記憶から消されてしまうほどの傷心(トラウマ)があるのか。

 誰も知らない。おそらく知っているのは――(かんなぎ)(しょう)ただ一人。



 佐々神は梓が震えていることなんて気が付く訳もなく、目の前の敵を倒そうと躍起になっている。二つの拳銃(ハンドガン)双剣(クロスソード)に変える。

 そこで佐々神は気が付く。双剣(クロスソード)にも炎が燃え盛っているような曲線が描かれていることに。つまり、双剣(クロスソード)空気断絶(エアラプター)ということだ。両手剣(グレートソード)の時は、振ったらたまたま風が出たので気が付いただけだ。まさか、双剣(クロスソード)も風を扱えるなんて思ってもみなかった。

 そのことに気が付いた佐々神は、両手剣(グレートソード)と同じような振り方で双剣(クロスソード)を振ってみる。

 すると、(わず)かだが風が起こる。両手剣(グレートソード)とは使い方が少し違うようだ。慣れるまで時間がかかるかも知れない。

 だが佐々神は両手の双剣(クロスソード)を握りしめ、二つを交互にぶつからないよう絶妙なタイミングで振る。これにより、僅かだった風が大きくなる。風同士がぶつかり真空状態を作り、さらにそこへ別の空気が入り込み新たな風を生む。

 そして、佐々神の手元には自分自身より巨大な風の塊が完成する。

 遠くから見ていたフロントは、ただ佐々神がでたらめに剣を振るっているようにしか見えないため、割って攻撃をするようなことはしなかった。知っていたらすぐに攻撃を仕掛けただろう。

 佐々神はフロントが余裕を見せている隙をつき、自分自身より巨大な風の塊を放つ。その巨大な風は突如轟音を発する。

 フロントはそこでようやく気が付く。何かが迫って来ていることに。だが、なにが来ているか分からない。しかも、速い。

「テメェ、何しやがった?」

 フロントが尋ねるが佐々神は答えない。

 フロントは舌打ちすると、剣を高く上げ、一気に振り下ろす。

「舐めンじゃネェ!」

 フロントの剣の先から再び蒼い炎の刃が放たれた。続けざまに背後の蒼い炎が爆発する。フロントは前に押し出されるように加速して、一瞬で自らが放った炎の刃に追いつく。

 そして、蒼い炎の刃と同時に蒼い炎を纏った剣で見えない何かを斬りつける。

 直後、見えない何かは奇妙な音と共に消滅する。

 フロントは(あざけ)笑う。

「ンだよ。何かと思えばただの空気の固まりじゃネェか。ンなモン、効くかよ。俺は空気使い(エアマスター)なんだゼ? 空気操って分解すりゃいい話だろ」

 フロントはまた笑いだす。そして、もう一度剣を振り上げる。

 佐々神もそれに備え双剣(クロスソード)両手剣(グレートソード)に変える。

 フロントはさっきまで騒がしかったが今は全く喋らない。それだけ集中してるのだ。

「行くゼ。そろそろ終わらせてやる」

 フロントは右腕を高く上げたまま、

「これが本気だ。消えろォォォォ!」

 そう言って剣を振り下ろす。

 フロントの持つ剣の先から放たれたのは、さっきまで出していた炎の刃とは大違いの最大限酸素を集めた大きな刃だ。轟音と共に縦に放たれた蒼い炎の刃は地面をも裂き、高さは一〇メートルを優に超えていて、高くそびえ立つ壁のようにも感じた。その、居るだけでも熱で倒れてしまうほどの暑さを持つ炎の刃が佐々神に牙を剥く。放ったと同時にフロントは倒れる。あまりの魔力の消費に立つこともままならなくなった。

 おそらく後ろも横も上も、どこへ飛んでもこの攻撃からは逃げられない。

 だが、佐々神は動じなかった。負けじと剣を振り上げ、蒼い炎の刃が目下五メートルまで迫って来た時、剣を振り下ろす。

 一瞬、辺りの時が止まったように錯覚するほどの静寂が訪れる。フロントが蒼い炎の刃を放った時に生じた轟音も消えていた。

 ただ――無音。

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