第三章~Chapter 3~空気断絶(エアラプター)
(……チクショウ)
佐々神の目の前が霞む。血こそほとんど流れてないが、ダメージはきちんと残っている。以前スピーカーで喋っていた男が言った通り、『hialga』は流血を止める程度の魔術だ。受けたダメージを消すなんて芸当はとても出来ない。一見大したことなさそうに見える傷も、中を割って見れば凄いことになっている。奇跡的に肺や心臓など主要な臓器は直撃を免れているが、他の部分はめちゃめちゃに傷ついている。この状況で佐々神が立っていられるのは、おそらく彼の気力だけだ。
(……クソ、ここで倒れたら梓が――いや、翔が救われない。どんなことがあっても梓をあいつに渡すわけにはいかない!)
佐々神は両手の両手剣を握りしめ、もう一度フロント目がけてうねる風を放とうとする。
だが、それよりも早く七メートル程離れた距離を〇メートルに縮めようとフロントが超加速して直進して来る。
「オラァ! 回復してみろォ! 間に合わないくらいブッタ切ってやる!」
フロントはそう言いながら燃え盛る剣を振り上げ突っ込んで来る。
佐々神は即座に反応し剣を少し斜めに振り下ろす。ブオン! という重い音がするとともに、少し後ろに飛びながらうねる風が前方へ放たれる。その風はさっき放った風とは大違いで細い弾丸というよりもうちわで扇っただけのただの風だ。
「舐めてンのかぁ! そンな風で俺が倒せっかよォ!」
フロントの言う通りちょっと強い風程度では倒すどころか足止めにすらならない。が、佐々神の目的はそれではない。風の勢いで少し宙に浮いている状態で、さらに続けてもう一度剣を振る。
すると、先ほどとは段違いの早さで後ろに飛ぶ。いや、吹っ飛ばされた、という表現が正しいだろう。空中でバランスを崩した佐々神は、直前でなんとかバランスを取り戻し着地に成功する。
フロントはその様子を見て言う、
「やっぱその剣――空気断絶か?」
「……エアラプター?」
佐々神は聞いたことのない単語に戸惑う。
「ハっ、ンなモンも知らネェで使ってやがンのか」
フロントは嫌味ったらしい笑みを浮かべる。
「空気断絶っつぅのは、剣に特殊な溝を入れることで空気を断絶して、風を操る剣のことだよ」
よく見ると佐々神の持つ両手剣には炎が燃え盛っているような曲線が描かれている。
フロントは剣を持ていない左手で頭を掻きながら、
「普通はそれ操ンのに二〇年三〇年っつぅアホみてェな年月かけンだけどな。やっぱテメェ何モンだ? テメェがゼロ歳ン時から使ってたとしても二〇年経ってネェだろォが」
フロントは続けて言う、
「それに……普通は空気断絶を使えても空気抵抗がデカ過ぎて、一振り二振りしただけで腕がメチャクチャになンだよ。だから使うやつなンざいネェ」
佐々神を睨みつけ、
「ったくよォ、気味悪りぃクソガキだなぁ。動きはパクられるし、馬鹿みてェなジャンプ力だし、斬っても死なネェ、おまけに空気断絶使いだと? 規格外も大概にしろよ!」
フロントは剣を振り上げる。
「四精霊のサラマンダーよ。偉大なる四大元素の一つ、空気と結合せよ!」
フロントが詠唱すると、彼の持つ燃え盛る剣、周囲の火の玉の色がすべて緋から蒼に変わる。そして、それらすべての炎が少し細くなる。
「知ってっか? 炎ってよォ、酸素と結び付くと真っ青になンだぜ。俺は紅蓮の魔剣士って呼ばれてンだけどよォ」
フロントはニヤッと笑い不気味な間を空ける。
「本当は空気を操る、空気使いなンだぜ? そこらじゅうにゴロゴロいる、火炎使い程度がcrossに入れると思うか?」
フロントは勝利を確信したように笑う。
「ま、いいや。とりあえず……死ね!」