第三章~Chapter 3~空気を裂く刃
佐々神はさらに一歩踏み出す。
そして、両手に持った双剣を一つの剣になるように合わせる。双剣とは元々一つの鞘に入るように作られていて、一本の剣を真っ二つに割ったような形をしている。合わせるとちょうど一本の剣になる。
そして、それに魔力を込め変形させる。本来両手に持ったまま変形させることが出来るが、それだと元の形と変形後の形が遠すぎるため、その分魔力も時間も大量に使うことになる。
一つに合わさった双剣は光り始めた。思わず目を瞑ってしまうほど眩しかった。
ようやく光が収まり幻器が姿を現した。佐々神の両手に握られてるのは一本の太くて長い両手剣だ。その長さは一五〇センチを優に超えており、梓の身長かそれ以上あるように思える。
佐々神はその重そうな両手剣を両手に握りしめ前に構える。
「なンだよ。形変わってデカくなっただけか」
フロントは余裕そうに笑みを浮かべる。それに比べ佐々神はその剣を持っているのがやっとという状態だ。状況の悪さは目に見えてる。
「ったくよ。その嬢ちゃんを渡せば済む話なンだよ。さっさと渡せやぁぁ!」
フロントは周囲の火の玉を再び佐々神目がけて飛ばす。
佐々神はそれを避けようともせず、両手に持った剣を縦に一振りする。ブオン! という風を斬るがすると佐々神の目の前にあった火の玉の群れは消えていた。それどころか、佐々神の持つ剣で切り裂いた空気は真空になり、それを埋めようと他の空気が入りこむ。そしてそれが強力な風のうねりを作り、奇怪な、目が回るような音を出しながら一直線にフロントに向かう。その風のうねりは弾丸のように細く、速い。
避けるという動作をする間がなかった。それは一瞬だった。佐々神の放った風はフロントに直撃する。
だが、ほとんど狙いも定めずに放った一撃はフロントの心臓を捉えることは出来ず、頬をかすっただけだった。
「ワケわかンネェ攻撃すンじゃネェか。ぶっ殺すぞォ!」
フロントはそう叫ぶと背中部分に漂っていた火の玉を爆発させる。一瞬で加速して佐々神の前まで辿りつく、そして燃え盛る剣を振り下ろす。
だが、その前に佐々神は、
「hialga!」
佐々神は避けるという動作をせず回復魔術を唱えた。というよりも、避けるという選択肢がなかった。あまりにも剣が重すぎて身動きがほとんど取れない。剣を引きずりながら走る程度は出来るが、それはフロントの攻撃を避けるには到底無理だ。だから佐々神は、この選択肢を取った。
直前に唱えられた詠唱は佐々神の傷を癒していく。そして、その直後に受けたフロントの一撃も癒していく。佐々神はそれを狙ってタイミングよく詠唱した。『hialga』の効力がまだある内に攻撃を受ける絶妙なタイミング。魔術が使えるようになって一日も経っていない人間とはとても思えない。
そして、フロントが剣を振り切った瞬間を見計らい後ろに飛ぶ。佐々神とフロントの距離は七メートル程度に開く。
「ったく、厄介なクソガキだ。斬っても死なネェってのは気味悪りぃな」
フロントはそう言って握った剣を見つめる。
「まあ、回復が間にあわないくらいメッタ切りにすればいい話なンだろ?」
そしてフロントは、また気味の悪い笑顔を浮かべる。