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第三章~Chapter 3~梓と猫と平和

 (あずさ)地下世界(アンダーグラウンド)にいた。人工の太陽が照りつける中、死体がゴロゴロと転がる西部の町を抜け、東部の繁華街で小休止をしていた。もちろん同行者の黒いマントを着たフロントと名乗る男にも許可を取っていた。おそらく、フロントというのは偽名だろう。

 この世界――地下世界(アンダーグラウンド)EARTH(アース)の技術力によって作られている。カトレアの言っていた通り、EARTHの技術力は相当凄い。本物と見間違えるほど現実的(リアル)だ。暑さも眩しさも本物(オリジナル)と見分けがつかない。フロントという男が言うには、地上(おもて)の光を反射板で集めて光ファイバーを応用した原理で全反射させて地下世界(アンダーグラウンド)を照らしているらしい。でもそれだけだと、地上の天候に左右されてしまうので光を溜めておくところがあるらしい。同じく水を溜めるタンクもあるらしく、それで晴れや曇りや雨や雪など様々な天候を作り出すことが出来る。気温も地下世界(アンダーグラウンド)を丸々管理できる、気温制御装置――つまり、巨大なエアコンが存在し、それによって地上と変わらない環境を作り出すことを可能にしている。

 それらすべてを統括するのが気象管理装置(ウェザーマネージメント)と呼ばれる装置で、この世界にとって最も重要な物である。これによって自己完結した生産・消費活動を完成させている。一種の完全環境都市(アーコロジー)と言っても過言ではない。

 梓は改めてこの世界の凄さを知る。

 でも、なぜ西部のような人間が生まれるのか不思議だった。ここまで高度な技術を持っているならあのような人々をすべて救えるはずだ。警察のような組織を作り、一方的な暴力行為を止めればいいだけの話だ。なぜそれをやらないかフロントに尋ねたが、「EARTH(うえ)が勝手にやっていることだ。下っ端の俺が知る訳ネェだろ」と、乱暴に答えた。

 このフロントという男はEARTHの下っ端らしい。(しょう)に命令されて梓を呼びに来た、と言っていた。

 信用はあまり出来ないが兄に会えるかもしれない、という思いでやって来た。ここに来るまで一度も乱暴な扱いを受けることはなかったので、一応は信頼していた。

「あの……フロントさん。これからどこに行くんですか?」

 梓は尋ねた。ここに来るまでお前の兄貴に合わせてやる、と言われて付いて来たので具体的な行先は聞いていない。

「あ? EARTHの本拠地(おうち)に決まってンだろ?」

 相変わらず口調は乱暴だが、ちゃんと質問には答えてもらえた。

「こっから遠いからちゃんと休ンどけよ」と、続けて言う。一応梓の体調には気を使っているらしい。

 梓は僅かに笑みを見せ、「はい」と答える。

 ここでは人が多すぎて満足に休めないので、人気のないところへ移動する。すると、ニャーという猫の鳴き声が聞こえた。すぐに声の方へ向かい、猫の姿を探す。少し裏の路地へ入ると白い猫の姿を発見した。怖がらせないように慎重に近づき、ゆっくりと猫の前へ腰を下ろす。人に慣れているのか、梓の姿を見ても逃げる気配はない。

 梓はその様子を見て触っても大丈夫だと判断し、猫の(あご)の下を撫でて遊ぶ。猫は気持ちよさそうにゴロゴロと鳴き、梓はそれに答えるようにニャーニャー言っていた。

「気持ちいの?」

 返答がないと知っていながら話しかける。これは梓の癖だ。可愛い動物にはどうしても話しかけてしまう。当然ながら無視をされるがそれを苦に思ったことはない。

 梓はあまりの可愛さに顔を緩ませっぱなしで猫を持ちあげ自分の膝の上に乗せる。猫はそれでも逃げない。飼い主が居るのだろうか。首元を確認するが首輪はない。いろんな人に可愛がられてるのだろう、と考え猫の頭を撫でる。

 しばらく撫でながら(なご)んでいると猫の方から膝から降りてどこかへ行ってしまった。建物と建物の隙間を通って行ってしまったので追うことが出来ない。仕方なく諦めて、フロントが居るところに戻る。

 フロントは梓の姿を確認すると、人混みをかき分け進んでいく。それを必死に追いかけていると人混みから抜けていた。

 ようやく、フロントに追いつくと背後から、

「おい、どこ行くんだ?」

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