第三章~Chapter 3~廃れた町
佐々神は学校の地下にいた。佐々神の立っている場所は一本の通路の上で、左右には六つの扉があり、階段を下りたつきあたりには扉が一つある。
だがしかし、その本来固く閉ざされている扉があるはずの空間には大きな穴が空いていた。さらにその奥には地下へと続く階段がある。
その扉があった穴を潜り抜け、さらに地下へと進む。明かりもない真っ暗で湿度の高い不気味な空間は佐々神の足音だけが響き、さらに不気味さを増す。
どのくらい下っただろうか。一五分、三〇分、はたまた一時間は優に経っているのか。時間感覚を狂わすほど真っ暗で不気味で長い道の途中、巨大な門があったらしき場所を発見した。左右には大きな柱のようなものがあり、鉄製の分厚い門の中心には先ほど見たような大きな穴が空いていた。それを潜り抜け再び暗い階段をひたすら下りる。
そこで佐々神の息が乱れ始める。長時間歩いたせいか体中の傷口が広がり始め、そこから血が溢れだしてきた。佐々神はその場に腰をおろし、一時休息を取ることにする。
そして、集中する。
(イメージ、光)
「hialga」
真っ暗だった辺りが明るくなる。しかしそれは一瞬で、すぐに辺りが黒に染まる。佐々神の体は見る見るうちに傷が塞がり出血が止まる。
傷口が塞がるのを確認した佐々神は立ち上がり、再び真っ暗な地下へと進める。
「ッッッ!」
途中激痛が走ったが構わず歩み続ける。なにが佐々神をここまで動かしているのか。ダメージは相当なはずだ。魔術の直撃を何度も受けて大丈夫なはずがない。それでも足を止めない。
おぼつかない足取りで階段を下る様子は、立ち上がったばかりの赤子のようで心配になる。
それからしばらく休んでは回復し、また下るの繰返しながらいくつかの破壊された扉を潜った。意識も朦朧としてきたところで光が漏れているのを発見した。
「……地下世界」
佐々神はそう呟き、最後の破壊された扉を潜り抜ける。
目の前にはレンガを積み上げただけの家が並ぶ町が広がる。異臭が漂い完全に廃れていて人は一人も存在しない。その代り、腐りかけた死体が三体と銃を持った新しい死体が五体、周りには死体に群がるハエと死体を貪る鼠の姿しか見受けられない。ここはそういう場所だ。出口に近いこの街は政府が配備した軍によって、ここから抜け出すものや侵入者を警戒し常に監視されている。度々みられる腐った死体は、政府軍の暇つぶしなどで虐殺された人間だ。だからここ一帯には人が存在しない。
佐々神はゴーストタウンと化した町を抜け、隣の街を目指す。
しばらく歩くと少し騒がしい洋風な町が見えてくる。こちらはきちんとした家があり、RPGに出てくる町並みによく似ている。なんて書いてあるか分からない程かすれたアーチ状の木の看板を潜り、町に入る。
町の大通りには怪しい露天商が立ち並んでいる。大通りと言っても町自体の規模小さいので車二台がすれ違えるのがやっとの広さしかない。
佐々神は露天商の立ち並ぶ通りからそれた横道に入る。そこには生きているのか死んでいるか分からない人達が、壁に寄りかかり俯きながら座っている。どれも、佐々神が来たのにもかかわらずピクリとも動かない。
佐々神はその中の一人老人に声をかけると顔を上げる。老人はボロボロの黒いローブを纏っていて歯はほとんど抜け二、三本しか残っていない。
「なんじゃ?」
喉が完全につぶれた声をだす。
「黒い髪の少女がここに来なかったか?」
佐々神はストレートに質問をぶつける。
だが、老人はニヤニヤと不気味な笑みを浮かべ、
「知らんのぉ」と一言答える。
佐々神は幻器を取り出し、それを二丁の拳銃へと変形させる。そしてそれを無言で老人の額に向ける――