表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/71

第三章~Chapter 3~魔術が出来ない本当の原理

 佐々神(ささがみ)は目をきょろきょろと動かす。待合室のような場所だったはずの部屋が一面真黒になっていた。ソファや机があっただろうところには灰の山があり、扉はすべてなくなっていた。

(どうなったんだ?)

 佐々神は半身を起し改めて周囲を確認する。床に手をついたとき何かの感触があった。ふとそこを見ると石と化した幻器(げんき)があった。

 そこで思い出す。自分は負けたんだ。引き分けでも逃げたのでもなく、紛れもない敗北だ。自分の身を案じて逃げ出すことも出来なかった。

 思い出すように悔しさがこみ上げる。

(くそ、アイツの言うとおり幻器(げんき)がなけりゃただのガキじゃねぇか)

 佐々神は幻器(げんき)を失った瞬間から抵抗する術がなくなった。なにもしなかったんではなく、本当に何もできなかった。

「ちくしょう!」

 佐々神は叫ぶ。敵にではなく今まで幻器(げんき)に頼ってばかりの自分に対し。

「なにが俺も行くだよ! (あずさ)も助けられない、自分は勝手に戦って勝手に負ける。これじゃただの荷物じゃねぇか!」

 佐々神は自分に向かって叱咤する。何度も何度も。

 それを聞きつけ一人の男がやって来る――先ほどスピーカーで喋っていた男だ。

「ど、どうしたんですか?」

 男は自分よりも一〇歳以上年下の相手に敬語で話す。口調はオドオドしていて、どこか自信なさげな顔をいつもしている。

 頬はげっそりと痩せていて、少し気味が悪い。

「俺ってやっぱり迷惑しかかけてないよな?」

 佐々神は尋ねる。無表情と言うには柔らかく、何を考えているか分からない顔をする。

「そんなことありません。佐々神さんや(かんなぎ)さんは凄いですよ。自分なんて怖くて足が震えて、カトレアさんを呼びに行くのもすぐには出来ませんでした。それをまだ守られる立場のはずの佐々神さん達は咄嗟(とっさ)に誰かを救おうと動いて……本当に凄いですよ」

 男はオドオドした口調がはっきりとした口調に変わり、声が少し大きくなる。

 佐々神は驚いて言葉が出なかった。佐々神の中ではそんなに深く考えていなかった。梓が行ったと聞いて体が勝手に動いていたそれだけだった。そんな大それたことは考えていない。

「佐々神さんなんて魔術が使えないんですよね? それなのにあんな魔術師と対等に戦えるなんて……私なんて足元にも及びませんよ」

 男の口調は段々と元に戻っていく。

 佐々神は頭にある単語が(よぎ)る。

「魔術?」

 佐々神は大きな声を上げる。

 男はオドオドしながら、

「え、ええ。それがどうかしましたか?」

 佐々神は年老いた老人のような渋い顔をして、

「もしかして、魔術が使えるかもしれない……」そう小さくつぶやく。

 男はなにを言ったか聞き取れず聞き返そうとしたが、それを断って佐々神が話し始める。

「なぁ、回復魔術って知ってるか?」

 男はきょとんとした表情を浮かべる。

「え、ええ。知ってますけど……」

「教えてくれ!」

 間を開けずに言う。

「詠唱だっけ? それを教えてくれ」

 詠唱すらも理解していないのに頼み込む。

 佐々神のおそらく立てないだろう体を見て、

「回復なら私が……」

「いや、自分でやる!」

 佐々神は断言する。

 元々気の弱い男は佐々神の押しに負け、詠唱を教える。

「え、えーと。一番簡単なのでいいでしょうか?」

 男は佐々神に一度確認を取り、話を進める。

「じ、じゃあ、『hialga(ヒアルガ)』と唱えてください。これは回復を意味する『hil(ヒル)』の略の『hi()』と、通常魔術すべてに通用する基本構成を自動で行う『alga(アルガ)』で出来ています。なので、全体的な回復は出来ても完全には治りません。それには手や足など部分的に治療魔術をかけないといけないので、成功してもあまり無理をしないでください」

「……」

 無言だったが男はそれを肯定ととった。

 佐々神は気づいた。魔術が使えないのではない。魔術を使おうとする気がなかっただけだ。今まで幻器(げんき)があって、ほとんど苦労することがなかった。それ故に魔術を必要としなかった。魔術を使おうという気はあったが、心のどこかでは幻器(げんき)があるから必要ないという気持ちがあったのだ。それほど幻器(げんき)に頼っていた。

 佐々神は幻器(げんき)が無い環境でようやく気が付いた。(しょう)やカトレアが言っていたことはこれだったのだ。もし教えられたとしても佐々神は魔術が使えなかっただろう。自分で気がつかなかれば意味がない。本当に魔術が必要の場面に出会わせてようやく知る。

 佐々神は息を深く吸う。頭の中に自分の体が動くようになった後をイメージする。

 突然頭の中で何かが弾ける。

 今だ! そう思った瞬間に詠唱する。

「『hialga(ヒアルガ)』!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ