第三章~Chapter 3~二人の成長
梓のいる部屋一面を神々(こうごう)しい光が包んだ。
一瞬眩しくて目を瞑ったがすぐに両目を開き事実を確認する。
「梓ちゃん、早く魔力を込めて!」
カトレアが叫ぶ。
梓は改めて目の前の魔法陣を認識する。
(落ち着いて魔力を込める……)
いつもの通り頭に光をイメージしながら力を込める。ふと、軽く全身の力が抜けるような感覚に襲われる。
次の瞬間、轟音と共に炎が放たれた。一直線に進むそれは、一瞬で壁に当たり部屋中に振動を伝える。それだけではない、炎を放った瞬間の風圧もが部屋中を駆け巡り、その威力を知らしめていた。
梓は驚いていた。自分が放つ魔術がこれをほどまでに影響を与えるのかと。
佐々神は隣の部屋から伝わって来た轟音やら振動やらで驚いていた。
(なんだ今のは? カトレアがなんかやったのか?)
佐々神はまさか梓がやったとは思っていなかった。それもそのはず、つい五日ほど前まで魔術という存在自体知らなかったのだ。突然そんなことが出来るなんて、本人も含め誰も思っていなかっただろう。
今は隣のことに気を取られていたがけしてトレーニングを怠っていたわけじゃない。ちゃんと、幻器の新しい型を成功させていた。
佐々神はもう一度集中して、さっき作った武器をもう一度出す。それをさらに別の形に変形させる。カトレアは、幻器は物理法則を無視していると言っていたが、佐々神にはさっぱり分からなかった。正直、武器を出せれば問題ないと思っていた。
今度は、二〇〇メートルほど離れたところにある的を目がけて銃を放つ。この的はさっきカトレアに頼んで出してもらったもので、事あるごとに武器の性能や特性、使い方などを知るために利用している。
今使っているのはこの間使った散弾銃で、光弾の拡散を抑えることで破壊力を上げることが出来ることに気づいたので試しているところだった。普通の散弾銃より、範囲は格段に落ちるが、格段に射程距離も破壊力も上がっているのも確かだ。的を貫き、対魔術用に加工された壁まで貫通している。ということは、かなり強力な部類に入るのではないだろうか。耐久テストの爆弾を、無傷で耐え抜いたこの部屋に傷を付けたのだ。当然と言っていい。
佐々神はこの散弾銃のほかにも様々な新しい武器を試していった。こっちはこっちでかなり順調だ。
「ビ、ビックリしたー」
カトレアは胸に手を当てて、息を整えていた。
先ほどの魔術で周囲の酸素が薄くなり、温度も一気に上昇して熱風を思いっきり吸い込み、肺に直接ダメージを与えていた。
カトレアはそれに苦しんでいた。
「な……なんなのよ。はぁはぁ……」
まだ苦しそうに胸を抑えている。が、梓はそれといった様子は見せていない。壁にはおそらく訓練所が出来て初めての大きな穴が出来ていた。魔術は成功していた。これは暴走なんかではなかった。
普通、魔術は術者がダメージを食らわないように、魔法陣に自動に自衛の術式が組み込まれている。そのおかげで梓は助かった。ということは、やはり魔術は成功しているということになる。だが、なぜ『約一〇〇メートルを二〇〇度で三秒かけて直線的に進む』という術のはずなのにこれほどまでの威力になったのか。原因は略語にあった。
略語『fialga』は、炎を表す『fil』の略の『fi』と、基本構成を自動に行うと言う意味の『alga』からなっている。一連の原因は『alga』にある。これは基本構成を自動に行うという意味だから、普通なら『約一〇〇メートルを二〇〇度で三秒かけて直線的に進む』という命令になるはずが、梓の場合、膨大な魔力を込めたため、普通なら『約一〇〇mを二〇〇度で三秒かけて直線的に進む』になるところを、梓を基準とした基本構成になってしまっていたため、尋常じゃないスピードで壁にぶつかり、尋常じゃない温度で発動されたということだ。
梓はカトレアに心底申し訳なさそうに頭を下げる。
「本当にごめんなさい。あたしが魔力の制御が出来ないせいで……」
泣きそうになった梓を見てカトレアは、
「いいのよ。あの魔力量に気づかなくて、防護結界を張れなかったアタシも悪かったのよ」
そう言ってなだめたが、梓は謝ることをやめなかった。
(はあ、巫の一族ってどうしてどうしてこんなにぶっ飛んだ人達ばかりなのかしら)
カトレアは一人自分の才能に疑問を抱いていた。