第二章~Chapter 2~魔術が出来ない原理
カトレアは黒い紙に魔法陣を描き始めた。
見る見るうちに魔法陣が完成し、それを佐々神と梓に配った。
「じゃあ、これに魔力を込めてみて。最初はよくわからないけどコツを掴めば簡単だから。佐々神君は幻器を使うのと同じようにやればできるはず」
カトレアは二人に的確に指示をしていく。
正直、佐々神には出来る気がしなかった。昔も散々翔に教えられたけど一度もできなかった。
佐々神と梓は早速言われた通りやる。
すると、佐々神の黒い紙が光り輝いた。
「おお、出来るじゃない。魔力の注入は出来るのね」
カトレアは冷静に分析を始めるた。どうやら一応成功らしい。
「これでいいのか? こんなのが魔術なのか?」
佐々神が問う。それもそのはず、魔術なんて一度も使ったことのない佐々神は魔術なのかどうか判断が付かない。
「いいえ、今のは失敗よ。本当なら魔力を注入してコントロールすることで魔法陣が出現して雷が出るはずだから」
さらっと言い放った。全く佐々神のことを気遣う様子もなく。
佐々神はそのことを複雑に思いながらまたトレーニングを続ける。
一方梓は、少し離れたところにいた。
全くできない。
(さっき亮平君出来てたけど、どうやったんだろ?)
梓はよくわからないが眼を瞑り、何か力を込めるようイメージして魔法陣の書かれた黒い紙を握りしめる。ふと、気が付くと黒い紙が光っていた。
(で、出来た)
梓は喜び気を抜くとすぐに光が消えてしまっていた。
(あれ? 失敗しちゃった。次はもっと集中)
梓は瞑想を始めた。『集中』それだけを頭にイメージする。突然頭の中で何かが光った。
(何これ? もしかしてこれが魔力? あ、そうだ魔力を込めないと)
梓は再び力を込める。おそらく魔力であろう光を。
佐々神は未だ苦戦していた。
(梓はさっき出来てたよな? ってことは、アイツも魔力を込めることが出来るってことか?)
佐々神はトレーニングとは全く別のことを考えていた。
「コラ! 集中」
カトレアはそう言って佐々神の頭をはたく。
「痛てっ!」
佐々神は頭をさする。佐々神は半ば諦めていた。
「はぁ」カトレアは小さくため息をつく。
「翔君が言ってた事ってこれね」
佐々神は訳が分からなかった。何のことを言ってるんだ? そう尋ねた。
「翔君は幻器が原因って言ってたのよね? それよ」
カトレアは軽く呆れているようだ。
佐々神はここまで言われたがよくわからなかった。
(なんで幻器が関係あるんだ?)
「どういう意味だ?」
佐々神はストレートに尋ねる。これ以上考えても分からない。聞いたほうが早い。
「言っても無駄だわ。自分で気づきなさい」
そう言って梓のほうへ歩いて行った。
梓は何とか黒い紙を輝かせることに成功した。
「おお、凄いじゃない」
カトレアがやって来て、嬉しそうに笑う。
「でも、これで完成じゃないわよ? この後魔法陣を出して雷を出すまで頑張ってネ♪」
カトレアはどこまでも軽かった。
突然の注文に戸惑いながらも梓は集中する。
「おお、スゴイ集中力。誰かさんも見習ってほしいわ」
カトレアは梓に聞こえない程度の小さい愚痴をこぼす。
(集中、集中……光……光を思い浮かべて紙に込める)
頭の中で何度も反復する。
(集中、集中)
また、梓の頭の中に光が浮かんだ。
(今だ!)
タイミングを取り、黒い紙に力を込める。
すると、握っていた紙が光り輝き、その四、五cm先に光の魔法陣が出現した。
「凄い! 梓ちゃんそのまま魔法陣に魔力を込めて!」
カトレアが言い放ったと同時に梓は魔力を最大限込める。
次の瞬間、轟音と共に目を開けられないほどの閃光が部屋中を包んだ。
「うわ、眩しッ!」
カトレアは目を腕で覆い隠したがそれもほとんど意味を果たしていなかった。
ようやく目のくらみが戻ったカトレアは梓の姿を探す。すぐに見つかった梓は、その場で座り込んでいた。
「な、何? 成功したの?」
よくわからない顔をしている。
始めて魔術を使った梓は戸惑っていた。自分でやっておいて全く状況が理解できていなかった。カトレアの言う通り魔力を込めたら、轟音と閃光に支配されていた。
「凄いじゃない、成功よ。しかも、予想より遥かに強力なヤツをね♪」
カトレアは素直に褒める。本当に予想以上だった。カトレアは巫の血筋を舐めていた。魔術においては、あり得ないくらいの才能を発揮する。あの家は三代に一人ぐらいで神級魔術師(the fool)出している。それほど、魔術の潜在能力がある血なのだ。梓も例外ではなかった。
「よかった。暴走しちゃったのかと思った」
梓はホッとしている。
が、それに釘を刺すように、
「いいえ、今のは途中から暴走していたわ。あまりに膨大な魔力に魔法陣自体が許容量を超えて暴走を起こしたの」
カトレアは冷たく言い放つ。
梓は黙り込んでいる。
「じゃあ、佐々神君より一足早く次のステップに入るわ。魔力のコントロールのトレーニングをやりましょう」
カトレアがそう言うと、梓は嬉しそうに笑った。