第二章~Chapter 2~幻器
「ところで佐々神君。さっき使ってた銃見せてくれない?」
唐突にカトレアが言う。
佐々神はそれに従い、ポケットから黒い光沢のあるビー玉大の石が付いたペンダントを取り出した。
「これか?」
佐々神が尋ねるとニコニコ笑いながら、「そうそう」と言った。
「ちょっと触ってもいいかしら?」
「ああ」
確認を取るとそれを手に持ち、まるで質屋の鑑定のようにじろじろと見る。
しばらく経つと、カトレアは不思議な顔をした。
「やっぱりね。これ、どこで手に入れた?」
「うーん。気づいたら持ってた」
佐々神にはその答えしか出なかった。本当に覚えていない。気づいたら持っていたとしか言いようがなかった。
「それホントなの?」
再度確認してくる。
「ああ」
佐々神がそう答えるとカトレアは渋い顔を見せた。
「んー、これは幻器っていう幻の魔道具なの」
「幻器?」
佐々神はこれを一〇数年使っていたが一度も名前を聞いたことがなかった。
「ええ。魔術っていうのは基本的に物理法則に則っているの。空間移動の魔術でも何もないところからは出てこない。普通は魔法陣をあらかじめ用意して、その上に武器なんかを置いて、遠くからその魔法陣を発動することでようやく空間移動の魔術が使えるの。その原理は瞬間移動なんて曖昧なものじゃなく、魔法陣の上にある物質を分子レベルで分解し、今度は分解した物質の中の必要なものを手元にある受け取り用の魔法陣に送って再構築するっていうちゃんとした手順を踏むの。召喚でも犬の召喚獣を出したければ犬の肉体を構成する元素を寸分の狂いもなく用意して、それを魔力によって構築することで召喚が出来る。空間移動や召喚などは三つの魔術のうち召喚魔術に含まれていて、これらの基本は分解、再構築で出来ていて、元素などの元となる材料が揃っていないと発動できないの。でも、幻器と言うのは物理法則を無視することができる。本来あるはずのない物質を手元で再現してしまう。形や大きさにある程度の制限があるものの、一〇数種類の武器へ変形できると言われている。しかも、魔法陣を必要とせず魔力のみで変形が可能なの」
カトレアは佐々神が知らない情報をスラスラと述べていく。
「翔君には見せたの?」
最後にカトレアは尋ねた。
「見せた。多分それが魔術を使えない原因だろうって言われた」
「幻器が原因ねぇ……」
カトレアは深く考え始めた。
「まあいいわ。とりあえず、EARTHについて話すわ」
「いや、それはもう梓に話してある」
佐々神は先日『crunch』で話したことを説明する。
「じゃあ、翔君がEARTHに入った理由は話した?」
佐々神は焦った。梓にこの話はしてはいけない。
「ま、待て。それはダメだ。話せば無関係でいられなくなる」
「はあ」とカトレアはため息をつく。
「さっきも言ったけど、これからは無関係じゃいられないの。梓ちゃんが翔君の妹ということは変えられない。つまり、梓ちゃんがこのまま何も知らずに行動するほうがよっぽど危ないの」
カトレアは声を荒らげた。
「わかった」
佐々神は、認めざるを得なかった。
「じゃあ、場所を変えましょ」
そう言うと入ってすぐ左側にあった扉を開け中に入った。