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01

無造作に破られ床に落ちていく教科書だった物を私はただ見ていた。

人様の物を簡単に悪意を持って扱うことができるのはある意味才能だな、なんて考えていると不機嫌そうな声が上から降ってくる。


「あーあ、教科書もう使えないね」

「……」


そりゃあ今まさにあなたの手で破り捨てられましたからね。

私の私物に手を出し始めて数日は経つが飽きないのだろうか。


「無反応なの本当に気持ち悪いんですけど」

「やめなよ~、そんなの前からじゃん?蹴ったって無反応なんだし、精神おかしいんでしょ?」

「ていうか飽きてきたわー。もうちょっと工夫しようよ」


三人の少女達はクスクスと目配せしながら意地悪く笑みを浮かべる。

その表情がどれほど醜悪なのかは、きっと一生知ることはないんだろうな。


こういった低俗な『遊び』が始まったのは確か小学生の頃からだったっけ。

皆であの子を無視しよう、という提案に意義を唱えたのがキッカケだったはず。

たったそれだけでその遊びは数年続き、今や十代後半に差し掛かっても尚続いていた。

当初は悔しくて悲しくて辛かった。

慣れることはない。

でも、もう悲しむことに疲れて傷付くことすら面倒になってしまった。

そうなってからは楽で、どこか他人事のように眺めることができるようになった。

なんなら早く終わらないかなとすら思っている。


だから反感は積もり積もったのか、少女達は別の遊び方を考えだした。

それがどんな方向に進むのかなんて私は考えもせず、どこか楽観視している。

人の悪意を軽視していたし、こいつらは馬鹿だから大したことなどできないと高を括っている。


「良いこと思いついた!」

「なになにー?」

「あいつら呼ぼうよ」

「あいつら?」

「男子!」

「そこまでしちゃう~?」


口角を釣り上げ私を見やる三人の目に、私は人として映ってはいなかった。

玩具の尊厳をどう踏みにじって楽しもうかと考えている彼女達を後目に私はため息を小さく吐いた。

やっぱりその程度か、と。


─────────────────────────

──────────────────



自宅に帰れる頃にはとっくに日が沈んでいた。

無駄に疲れただけの行いに何の意味があるのか、それを撮影して何がそんなに楽しくて嬉しいのか私には分からない。

日々の殴る蹴るの暴力を受けるよりはマシとしか思わない。


不感症だとか言葉を吐かれたが好きでもない男に触られて喜ぶ人がいるのかと逆に問いたい。


そういえば途中まで楽しんでいたくせに、私が泣きもせず抵抗もせずされるがままなのが気に食わなかったのか少女達は不満そうにしていたな。

プライドも尊厳も自尊心すらも無いに等しい私にいったい何を求めているのか。


そんな人間にしたくせにそれらを求めるなんて、我儘な奴らだ。




「ただいま」


返答を期待していない、独り言のように呟いた言葉は暗い廊下に静かに響く。

リビングからは光が漏れテレビの音が聞こえるため誰かはいるのだろう。

別に顔を合わせたいわけでもないのでさっさと自室へ足を運ぶ。


唯一の自分の居場所である部屋へ入り、扉を閉めてゆっくりと座りこめば待ってましたとばかりに頬を伝う涙。

泣きたくて泣いてるわけでもないし、悲しくて泣いてるわけでもないのに勝手に流れてくるのはどうしてだろう。


何かを奪われたような拭いきれない喪失感に吐き気がする。

小さな嗚咽が情けなくて腹立たしい。


寝てもどうせ悪夢が待っているけれど何かを考えていたくもない。

のそのそとベッドへ潜り込み目を閉じ、祈る。

二度と目を覚ましませんようにと。




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