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短編集・コメディ

「おったまげた、婚約破棄するので?」

掲載日:2023/07/07


「おったまげた、婚約破棄するので?」

「あたぼうよ。悪は討伐せにゃ!」


王子は意気揚々と拳を振り上げる。


「スフィア・ソモラマ」


婚約者の名前を口にした彼は、唇を舌でなめた。


「目ん玉飛び出る悪女かもだ」

「おっしゃるからには、相応の理由がおありで?」


スフィアは冷静に、自分の罪状を尋ねる。


当然だ!と王子は答える。


「聖女のワルタナ。志願兵たる彼女の炊き出しを妨害しーー」

「志願兵?」


会場がざわめく。王子の後方に佇む渦中の少女に当惑の視線が向けられた。


「いつから戦場に行ったので?」

「違います! 私は奉仕活動を......!」

「そう!ワルタナはケナゲにその、防止活動、をやってくれていたのだ!」

「赤狩りもやってそう」


スフィアの茶々に、どっと会場が沸いた。

王子が眦を吊り上げる。


「黙れ!ワルタナは他にも、事業を計画し、そのために走ってくれた」

「走った?」

「......クールなお前にはわからないだろう、彼女の偉大さがな!」

「あー......えっと、素晴らしさ、ですかね」

「彼女はまさに、我々にふさわしい、恋愛相手なのだ!」

「タレント、って言いたかったんですか?」


「けったいな。やり取りはコントなので?」

「おひねりを用意せにゃ!」


振り上げていた拳が、力なく落ちる。王子は額をとんとんと叩き、乏しい語彙を探る。


「ともかく......ともかく!ソフィア!お前は悪だ!」

「私、スフィアです」



「殿下ってなんであんな有り様なので?」

「大陸間の王家で婚姻を繰り返して、この国の言葉に疎いんだよ」


お隣の言語はペラペラなのにな。

知られた話が、あたかも大袈裟な国家秘密であるかのように語られる。


「でも、一応母語だろ?これじゃあな」

「そのへんは、今応酬しているスフィア様や、王家の顧問が補佐するって......」

「ハードルが高すぎる」




「正直引っ込みがつかなくなってる」


胸の内を正直に、ワルタナに囁く王子。


「なんとかならないかな」

「いやせめて、もうちょっと内々にまとめてくれるものだと思ってました」


ちらちらと、スフィアに視線を向けつつ少女が呟く。


「ドン引きですわ」

「君までそれをいうか!?」

「あのですね、女は婚約者、または前の恋人を公衆の面前で侮辱する男に惚れると思いますか、常識的に考えて」


ワルタナは言う。


「小説の読み過ぎですよ」


密かな趣味を暴露された王子は、一歩を踏み出そうとして、たたらを踏む。やり場を失った拳、奇妙なステップ。自分の作り出した状況に踊らされる彼は、王子というより道化師であった。




「わた、私は、一国の皇子として注文する!可能な限り速やかに、ソフィアを没収せよ!」

「もうツッコむのやめていいですか?」

「漫才やってんじゃねえんだよ!」


王子は鼻息荒く、叫んだ。


「私は、いつになく、マジだ!」

「なら、可能な限り、マシに!」


王子の口調を真似ながら、スフィアはピシャリと言い放った。


「……容疑も言葉も。そうしてもらわないと、悪役としての花道さえ歩けませんわね。そのしかめ面は何です?」

「やかましい!」

「とても貧相な言葉選びをなさっていますわ」



「いいか、私は、言葉の男だ。一度言ったことは、必ず決断する」

「実現してくだらないのですか?」

「ゆえに、お前をこの場で鑑定したとき――」

「せめて裁いてくださいな」

「お前は、絶大的な……エビルだ!」


少女は肩を竦めた。


一人息の荒い王子が、至極冷静な少女と対峙していた。それはまるで、劇の一幕のような構図であった。


王子にとっては悲劇であったが、大多数にとってはただの喜劇であった。


はぁ、とスフィアは自分の髪をなでる。


「殿下は随分と、ポケット・ビリヤードが得意でいらっしゃる」

「ポケット……なんだって?」

「銀のスプーンを咥えて生まれてきたというのに、高貴な者としての義務を怠っているのではなくて?」

「な!私が未だにおしゃぶりを外せないとでも言いたいのか!?不敬だぞ!」

「不敬罪なら先代が既に廃止しておられます」




「王子様。帰っていいですか?」

「ワルタナ、今君のために頑張ってるんだからせめて乾杯してくれ」

「乾杯?」


聖女に仕立て上げられた少女は腕を組み、指で自分の腕を叩いていた。


「もう限界でしょうから、星の王子様お帰りください」

「そうですよ殿下、引き際は重要です。今ならまだ、致命傷で済みます」

「致命傷!?」

「すみません口が滑りました」





「皆のもの聞いてくれ。私は声を朗らかにして言いたいのだ。婚約者の罪を――」

「パーティは終わりだ。さぁ、みんな家に帰ろう」

「私は常に、宣告しなければならない。すなわち整理された国の王子が――」

「いいか、出し物は終わりだ。これは殿下のサプライズだ。ほら、散れ散れ!」

「――平等で、公平で、司法であるために。すなわち人民のためにつつがなく存在する王政の、その支持を政党なものにせんがために――」

「いつまで見てるんだ、帰れと言ったろう!ここは動物園じゃない。殿下は見世物じゃないんだぞ!」

「――すなわち、その、すなわち、あー、すなわち――臀部の膿を、己で鳥覗いてこそ、汚点と様に剥ける唯一接待の定刻を尊属させる、術なのだと!」



会場はもぬけの殻であった。

一人一張羅の背広を着こなした王子が、滂沱に伏した。


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