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証の鏡  作者: 詠垣 菘
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ペグテイリス 2

ペグテイリス・ウェヌス :ウェヌス公爵家長女・当主候補

セタリア・メルクリウス :メリクリウス子爵家長女 ペグテイリスの従妹

母 :ウェヌス家当主

ジム(略称) :ウェヌス家当主の夫

トーマス・ウェヌス・メルクリウス :ウェヌス家当主の弟 セタリアの父 領騎士団長

 両親と叔父が亡くなったという知らせは王家の使いがもたらした。王家の管理する橋が崩落し巻き込まれたのだという。両親は領地から王都に向かう途中だった。王領へ入る関所の役割を果たしている橋が崩落したそうだ。両親に会ったら学園での出来事を色々話そうと楽しみにしていた。ショックで王家の使いへの返答が出来なかった。足が震え息が止まりそうだったから。執事のセバスがすぐさま対応してくれたから事なきを得たけれど公爵家の跡取りが自ら使者に返答できないなどあり得ないと反省した。


 同じ日の夕刻、公爵家の王都屋敷に領主とその夫、領騎士団長の三名の遺体が運び込まれた。


「橋を中ほどまで渡ったところでつり橋のロープが切れたのでしょうか?足元が傾斜して馬車も馬も走れなくなりました。ご領主さまが直ぐに魔力でもって橋を支え団長の命令で通行人などの避難を行いました。ご領主さまは橋を支えるための負担が大きくて自力で歩くことができませんでした。避難するため動かない馬車から旦那様が抱え降ろされ橋を渡っていました。途中魔力枯渇に陥ってしまったご領主様へ旦那様が魔力を分け与えていたらしく…ご領主さまを抱えたまま旦那様も倒れてしまい…」


領騎士団の一人が状況を報告している。私は泣きたいのを必死でこらえていた。


「避難誘導の指揮を執っていた団長がお二人の元に駆け戻り両脇にそれぞれ抱えて救助しました。団長が渡り切る前に橋は落ちました。団長はお二人を抱えたまま跳ぶようにして岸まで渡り切りました。魔力の無茶な使い方をしたらしく鼻や目から血を流している状態でした。それでも『姉上を死なせてはならぬ!』と叫び続け必死になってご自分の魔力を分け与えていました。我々が持っていた薬は全て使いましたが三人共に魔力枯渇症状に起因する出血が多量で回復が間に合わず、到着した王都の騎士団や医師団と協力し懸命に手当てをいたしましたがお三方とも息を引き取られました」


 騎士は泣きはらした顔を隠しもせず叫ぶように報告していた。私は両親の遺体に縋って泣きたいのだけれどそうしてはならないと歯を食いしばって最後まで報告を聞いた。


「勤めご苦労であった!」


 報告を聞き終わり私は騎士に言葉をかけた。嗚咽が漏れそうだったから半ば叫ぶようにして声を出した。片膝をついて報告をしていた騎士は立ち上がり礼をしてから下がっていった。

 パタリと扉が閉まると同時に堪えきれなくなって両親の遺体に縋って泣いた。遺体は拭き清められていたようだけど目や鼻の辺りに固まった血がこびりついていて本にある魔力枯渇が原因で亡くなった人とそっくりになっていた

「ばか!ばか!魔力枯渇を起こすような真似をしちゃいけないってお母様が教えたくせに!」

って泣きながら叫んだ。


「お嬢様、心中お察し申し上げます。しかしながら、まずは葬儀の手配をしなければなりません。それから次期当主となるための申請を王家に上げる必要もあります。何にしても学園はしばらく休まなければなりません。その手続きもしなければ…」

 セバスに言われるまま私はいくつもの書類を書き上げた。親族や関係各所に連絡を取ってくれたのは使用人たちだ。様々な業務や葬儀の段取りを行わなければならないことを知識としては持っていた。だけど気を抜けば泣きそうになっていたし一人で出来ることなど何もなかった。使用人頼みで葬儀は行われ、セバスに教わりながら流されるように仕事をした。


 だから【執務室】はもう一人の当主候補を選んだのだろうか?私があまりにも不甲斐ないから…。

 葬儀が終わり久しぶりに【執務室】へ行った時に出会ったのだ。執務室から出てくるセタリアに。私は不安を執事のセバスにこぼした。


「お嬢様はまだ12歳でいらっしゃいます。学園に通う身でおられます。大人と同じ対応が出来るのであれば学園に通う必要がありません。お嬢様を支えるために使用人も家臣も居るのですから気にせず私共を使えばよろしいのですよ。セタリア様が【執務室】に選ばれたのは血筋からでしょう。なぜ【執務室】のことをセタリア様が知っていたかは不明ですが父君はトーマス・ウェヌス・メルクリウス様。ご当主様の弟君であらせられますからそちらから聞いたことがあったかもしれません。


『私が当主に選ばれたのは弟よりもちょっぴり魔力が多かっただけだから』というのがご当主様の口癖でございました。一方トーマス様は『領主の仕事など面倒臭くてかなわん。俺は領地の騎士どもを鍛える方が性に合っている』とおっしゃって領騎士団を率いるメルクリウス子爵家に養子に入られました。メルクリウス家のご令嬢と恋仲でしたから良縁だと祝ったものです。姉弟仲も良く力を合わせて領地を治めておられました。ですからトーマス様はご自身の娘を当主に据えようと考える方でないと思っております。ですが万が一の事態に備えて知識を伝えておくという事は公爵家に連なる者として正しい在り方でもありますから」


「そうね。叔父様はお母様と争うつもりがなかったから養子に出てまで公爵家を支えてくれていたけど姉弟だもの。それでセタリアは子爵家の子として産まれただけで血の濃さは私と大差ないはず。あの子でも私でも当主はどっちでもいいのよ」


「そんなことを申し上げたかったのではありません。お嬢様。ご当主様はこれまでずっとお嬢様こそが後継者と信じ、それにふさわしい教育を施しておいででした。それらが無かったように受け取られてしまわれたのは私の不徳でございます。このセバスめは叱責されねばなりません」


「セバスは悪くないの。お母様のように凛としていられない自分が恥ずかしかっただけ。それに怖くて逃げてしまいの。本当に。震えてしまうし涙もとまらないし。ごめんなさい。でも…でも頑張るからセバスお願い私を支えて」


 セバスと話したあとでも私は泣いてしまった。セバスは小さい子にするように、よしよしと頭を撫でてくれた。お母様もお父様もいなくなってしまったのだから私がしっかりしなければならないのに。まるで幼子のようだ。私はほんとうに不甲斐ないと思う。

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