セタリア 1
父が亡くなったという知らせが届き私はショックで気を失った。眠っていたのは一時間程だったらしい。眠っていた私は自分が経験したことでは無い記憶を夢のように見ていた。
窓辺で二人の少女が楽し気に会話をしている。二人とも白い半袖ブラウスを着て紺色のプリーツスカートを履いている。平民なのか行儀悪く姿勢を崩して座っている。スカートの丈が短くて膝頭が見えていた。
一つの小さな机を囲んでいる。同じ形の机が整然と並んでいる部屋だった。私は二人の少女を真横から窓に向かって見ている?いや、見える位置に座っていた。私は少女達と会話している三人目の少女だった。
「【証の鏡】ってゲームあたしも始めた」
「どう?どこまで進めた?」
「まだ最初だけ。学園と屋敷から出られない。だって定期テストの期間中だったんだよ」
「だよねぇ。あたしも期間中ゲームは封印してたんだけど気になって勉強に身が入らなかった。で三木もどう?やってみようよ。オンラインで一緒に遊べるから」
二人の少女が揃ってこちらを向いた。
場面が変わる。黄色い葉の茂る木々の下を歩いている。白のブラウスに紺色のスカート。同色の上着を着ている。カバンを背負い手提げ袋を下げるという荷物の多い状況だが少女たちは平気らしくおしゃべりに興じている。
「うわー。三木ったら一番最後にゲーム始めたのに一番進んでる!どうして?」
「へへ。ちょっとね。攻略サイト見ちゃった」
「わー!卑怯!でもね、あたしも行き詰ってたんよ。どうやって進んだの?ちょっと教えて」
「全員第二王子ルートで良かったよね?先ずはね、屋敷の執務室の前でステータス画面を開くの。そこで【魔力を流す】ってコマンドを選択してOKボタンを押す」
「そんなコマンドあったっけ?」
「必要な時だけ出てくるコマンドみたいよ。これで部屋に入れるから中でアイテムを探す」
「RPGゲームの勇者みたいに?」
「そうそう。ここでしか手に入らないアイテムがあるから必ず手に入れること。あとでリスト書いて渡すね。で最後に【証の鏡】っていう手鏡に触れると【魔石の欠片】ってアイテムが手に入るの。コレを取ると強制的に部屋から追い出されるから他のアイテムは先に取っておくのよ。部屋から出ると本家の跡取り娘とばったり出会うの。そこで会話すれば終了ね。これで第二王子ルートの最初の場面【王城謁見の間】に進めたよ」
「屋敷を探せばよかったのか~。学園でいくら王子に話しかけても無視されるばっかでへこんでたわ~」
「そうそう。あたしなんてレベルが足りないんだと思って学園の地下ダンジョンに籠って戦い続けてた」
「レベル上げも大事みたいなの。私いきなり攻略サイト見ちゃったからレベルが足りなくて。今夜一緒にダンジョンに行ってくれる?一人だと深いところに入れなくてレベルが上がんないの」
「おっけー。じゃあ今夜。課題終わらせると9時になっちゃうけどそれからでもいい?」
「ガッコーある日にゲーム出来るの一時間だけか~なんで18歳未満は10時以降ログインできないの?」
「10時以降はアダルトな会話OKになるらしいよ。真夜中はアダルトストーリーも解禁されるって攻略サイトに書いてあった」
「そうなの?ちょっと興味あるかも?」
三人の少女の会話は背景と服装を代えながら進んでいく。
「えっと公爵、侯爵、伯爵が王家の家臣で、子爵、男爵が公、侯、伯爵の家臣だっけ?」
「そうそう。他は知らないけどこのゲームではそう」
「で、王子と結婚するには伯爵家以上の家格が必要だと?」
「そうそう、そんなことNPCの誰かが言ってた」
「公爵家当主になるのきっついよ。他にルート無いのかな?養女に出るとか?」
「どうなんだろう?調べてみるけど…」
背景の季節が移り変わっていく
「やっと王子と結婚できたよ」
「長かったね。っていっても受験期間中はゲーム封印してたからね」
「入試終わってから一気に進めたよね」
「それにしても本家の跡取り娘だっけ?毎度毎度立ちはだかってマジむかついた」
「ライバルキャラ?悪役キャラ?っていうのかな?レベル必死で上げて挑戦するのに本家の娘はその上を行くという…ゲームだから何回でもやり直せるからいいんだけどさ」
「なんかね、魔王の弟子になっているっていう設定らしいよ?」
「なにそれ~完全に悪役じゃん」
「まあねぇ。ヒロインが王子と結婚する条件が本家の当主になることなんだもの。本家の娘は元々当主になろうとしているんだから公爵家を横からかっ攫われるの黙って見てないって」
「そうなんだけど。まあ第二王子ルートの攻略が一番難しいってサイトの掲示板に書いてあったし」
きゃっきゃと笑い合う少女達の姿がフェードアウトした。
目が覚めるとベッドの中にいた。母が心配そうな顔つきで私の顔を覗き込んでいる。同時に父の死を知らされたことを思い出し母にしがみ付く。
それからしばらくの間、母と娘は抱き合ったまま声を上げて泣き続けた。夢で見ていた知らない記憶を嚙み砕くのにはしばらく心が追い付かなかった。