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第一話


「・・・一服するか。」


日の光があまり差し込まないほどの背が高い木々の陰に隠れる。煙草に指先で火をつけ、精霊との契約の証『霊紋』を見て、手に馴染んだ槍を確認する。手慣れたその動作はいつものルーティーンだ。


別の木の影を見れば、自分の部下の顔が強張っている。緊張しているのか戦闘の事前確認が疎かになっていた。


「やれやれ、初めてでもないだろうに。」


いつも机に張り付いている上官からは、やる気がないのか!?と言われるけだるそうな目を向け赤毛がメッシュで入る髪の毛を搔きながら部下を軽く注意する。


今回の目標は、ゴブリンといわれる小人型の魔物の討伐だ。ゴブリンは知能があり、人を襲い巣を作る。驚異的は繁殖能力もあり放っておけば数百の集団となってしまう。目の前のゴブリンの巣は、洞穴に作っており前に見張りも含めてかなりの数がいるようだ。主要部隊は、洞穴のゴブリンの殲滅で、別部隊がすぐ近くに作っている別の巣を挟み撃ちにならないように足止めする作戦だ。


狼煙が上がる。別動隊がゴブリンの巣を攻撃し始めたようだ。


「第二部隊、放て!!!」「「「「火球(ファイヤーボール)」」」」


自分の合図で、配置に付いた部下が一斉に精霊に力による『霊力』で作り出した火の玉がゴブリンを襲う。


「第一部隊、生き残った奴を確実に殺せ!第三部隊!入れろ!!」

「危ない!!!」「なめんな、よ!」


指示を出していた隙をついて、三匹のゴブリンが襲うが纏めて槍で切り払う。斥候部隊である第三部隊が洞穴に魔物が嫌がる煙玉を投げ入れる。煙が外に漏れるのを確認して残りのゴブリンを確実に殺していく。


「第一部隊は待ち構えろ!第二部隊は先制攻撃の準備!第三部隊は討ち漏れが出ないように気を付けろ!!ここからが本番だぞ!!!!」


洞穴の中から大量のゴブリンが湧き出てくる。その集団を先導している一際大きいゴブリンが手に持った棍棒を掲げ、血走った目でこちらを睨みつける。


「ホムゴブリンだ!第二部隊、二回目を放て!!」


間が開き、準備の整った第二部隊が再度、火球を放つ。ホムゴブリンは、火球を棍棒で振り払い霧散させる。しかし、大量の火球すべてを対処できるはずもなく自分の真後ろ以外のゴブリンは焼け焦げていく。


『ーーーーーーーーッ!!!』


ホムゴブリンは、周りの惨状を見て声にならない苦痛の表情をして血走った目が真っ赤に染まり、全身の血管が浮き出る。


「、、、俺がやる。第一、第三はゴブリンの掃討。第二は俺のサポートしてくれ。」


手に持った槍を構え直し、前に出る。ホムゴブリンも理解したのか棍棒を肩に担ぎながら前に出て相対する。体格的に見下ろされる。


ブンッと空気を押し潰すような音とともに棍棒が縦に振る。怒りのままに振るった棍棒は、勢いそのままに地面に激突した。その衝撃は、遠くでサポートに徹する第二部隊にまで風圧が届く。


霊力による身体能力上昇で棍棒を横に躱すと、槍を突きを放つように構える。それを見たホムゴブリンは、後退するように身を引こうとするが槍は心臓を逃さず突き刺さる。


「ーーーーッ!!」


槍が抜けない。ホムゴブリンがニヤリと笑う。ホムゴブリンの生命力は魔物の中でも随一である。心臓に突き刺しても一分くらいなら生きながらえることができるのだ。ゆっくりと棍棒を上げる。その狙いは確実に仕留めようとしていた。


「副長!!」


「喰らい尽くせ、炎狼(えんろう)


副長と言われた男が静かに言い終えると、槍の柄を持つ手から炎が溢れだし柄を伝い槍の穂先へと向かう。ホムゴブリンに炎が伝わると刺したところから炎が瞬く間に広がりホムゴブリンは消し炭になった。


「はぁ、これやると疲れるんだよ。」


槍に纏った残り火で煙草に火を点ける。辺りを見渡すと、頭を失い統率力を失ったゴブリン達は、バラバラに逃げるが第一、第三部隊が討伐していく。その死体を第二部隊が火球で燃やし処理をしていく。一服した。


こちらに遅れて戦闘が開始したであろう西のもう一つ部隊から狼煙が上がる。向こうの部隊の作戦は、ゴブリンをこちらに追い込み挟み撃ちにするというものだ。しかし、副隊長である自分に伝達兵から作戦開始前に連絡しあうようになっている為、違和感を感じる。


部隊長達に処理が終わり次第、迎撃態勢に備えるように指示して、身体能力を上げてもう一つの部隊に向かう。


「隊長をもってして失敗はありないと思うが、、、問題発生か?」


十分ほど離れた場所にある目的地の途中で伝達兵と会う。


「副長!!お疲れ様です。」


「おう。連絡が遅いようだが問題でも起きたか?」


「いや、、、それが隊長が、、、」


「、、、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


副隊長は盛大に溜息をつくと呆れたように歩き出す。伝達係は苦笑いして迎撃に備える部隊長達に伝えるべく逆方向に別れた。


もう一つの部隊は、少数でそのほとんどを第二部隊から出している。火球を得意とする隊員で構成しているため遠距離からの攻撃、魔物を追い込んだり、死体を処理するなど部隊全体の中で一番重要な仕事をしている。重労働の彼らは、いつも遠征のたびに死んだような顔をする。


「大丈夫か?お前ら、、、」


今回の彼らは、特にひどい青白い顔をしながら大量の死体処理をしていた。


「!!ふ、副隊長、、、この人数でこの量は無理ですよぅ」


こちらに気づくと泣きそうな顔で投げかけてくる。新人が多いように見える。ゴブリンの死体の量は、こちらの部隊の量と大差ないように見えたがホムゴブリンの死体が二体いた。


「頑張れ。俺も霊力使って余力ないから。」


彼らを見捨てて奥へと歩いていく。遠目から見えるその姿は、木の丸太に腰掛けながら武器の手入れをしている。


「一人で戦いたいからって作戦変えないでもらえるか?リューク隊長」


「、、、ケビンか。ゴブリンだと相手にならないよな。次は気を付けるよ。」


副隊長であるケビンは、また溜息を吐いて隣に腰を下ろした。


「それに新人達の火球の練習にもなるだろ?そっちの実戦的な連携だと和を乱す可能性もあるしな。何人か首を切り飛ばした死体を見て嘔吐してたぞ。」


ハハハと天を仰ぎながら笑うと立ち上がり、自身の武器である両刃の双剣を腰に差す。


「先に合流させた部下には、撤収命令を出してあるからこっちの処理が終わり次第、帰還しよう。」


「了解。、、、、、しかしまぁ霊力も無いのによくやるよ」


もう一度、無残な死体の山となったゴブリンを見ながら先に歩き出したリュークを追いかけるように、両手を後頭部で組みながらゆっくりと歩き出した。
































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