表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ぴぃとかがみ

作者: Nadi

 ここはからすのまち。『からすの』ってつくくらいだから、ここに住んでいるのは、からすばっかり。

新しく引っ越してきたひよこのぴぃの家族以外はね。

 「おはよう、ぴぃ。ほら、はやく学校に行くしたくなさいな」

そう急かすのは、にわとりのお母さん。

「‥‥はぁい」

ひよこのぴぃは眠たい目をこすりながら、返事する。

 学校がお休みの日以外、毎回この会話から始まるぴぃの朝。

今日は、特に気持ちがおもーくなる日。

 「今日は、にがおえをかく授業があるんでしょう?クレヨンは持った?」

「うん、もったよ」

 「おはよう、ぴぃ。お父さんがホットケーキ焼いたよ。ふわふわなホットケーキを食べると元気が湧いてくるよ」

そう言って、おっきいホットケーキをおさらにのせて、にわとりのお父さんは、にこっとぴぃに笑いかけた。

「うん」

ぴぃは、お父さんの作ってくれるホットケーキは大好きだけど、その気持ちが今日は外にはでてこない。

朝は、お父さんもお母さんも忙しく動いているけれど、ぴぃの動きはゆっくりになる。

 学校に行くバスが来て、どうしても出ていかなくて行かなければいけなくなった。

ぴぃが下を向きながらバスに乗り込むとき、後ろから「いってらっしゃい」とお父さんとお母さんの声が聞こえると、ぴぃは少しだけ振り向いて「いってきます」と小さい声で言ってバスに乗り込んだ。


 「ぴぃくん、おはよう!」

いちばんにあいさつしてくれるのはからすのたいようちゃん。

 「ぴぃくん、おはよう」

たいようちゃんの隣に座るからすのまんまるくんもおかしをたべながら、あいさつしてくれた。

「たいようちゃん、まんまるくんおはよう‥‥」

ぴぃは恥ずかしそうにうつむきながら小さくあいさつしました。

 「おはよう、ぴぃくん。今日も元気ないの?」

心配そうに話しかけるのは、からすのはくしきくんだ。

「おはよう、はくしきくん。ううん、ぼく、元気だよ」

そう言って、バスの一番後ろの誰も座っていない席にぴぃはちょこんと座った。

 からすのバスの運転手さんが「シ~トベルトはしめたか~い?のってるあいだは景色やうたを楽しんで~。しゅっぱつしんこ~う」と、陽気に歌い、バスは出発した。

からすのみんなも、からすの運転手さんにつられて歌いだす。

楽しい登校時間のあいだ、ひよこのぴぃだけはさみしげに窓の景色を眺めていた。


 学校について、みんなが元気よく教室に向かうなか、授業が始まるぎりぎりに教室に着くように、ぴぃはなるべくゆっくり歩いて行く。

 チャイムがなり、からすの先生が教室に入ってきた。「おはようございます。みなさん」

「おはようございまーす!」

からすのクラスメイトのみんなは元気にあいさつした。

「みなさん。とてもよいあいさつですね。今日は、にがおえの授業です。クレヨンやえのぐは持ってきましたか?」

教室のあちこちから「もってきました!」「あっ!わすれちゃった」「かしてあげるよ」なんて声が聞こえてくる。

 「さぁさ二羽ひとくみになって、にがおえを描きましょうね」

「はーい!」

 「ねぇね、ぴぃくん、いっしょにかこうよ」

たいようちゃんが真っ先にぴぃに話しかけてきた。

「う、うん、たいようちゃん」

ぴぃはおずおずとしながら、頷いた。

「え~、ぼくがぴぃくんのにがおえかきたかったなぁ」

まんまるくんが残念そうに頭をこてんと下がった。

「ざんねんでした、まんまるくん。はやいものがち」

たいようちゃんは、じゃんけんで勝ったときのように、フフンとくちばしを上げた。

 たいようちゃんとぴぃが向かい合って座り、白い紙にぴぃの似顔絵を描きはじめた。

からすのクラスメイトを描くときは、ぴぃは、黒色しか使わない。

たいようちゃんは楽しそうに描いている。黄色のクレヨンをとり、次はオレンジ色、赤色に、水色。


 「みなさん、よくできました。すばらしい似顔絵ばかりですね」

「授業が終わった後に、教室の後ろにみなさんの似顔絵をはっておきますね」

「みんなにぼくのにがおえがみられるの、いやだなぁ‥‥」

誰にも聞こえないくらいの小さい声で、ぴぃはつぶやいた。


 授業の後、みんなの似顔絵がはりだされていて、みんながどんな似顔絵を描いたのか、興味津々にからすのみんなが覗いている。

 ぴぃもはりださせている似顔絵を顔を上げてみてみると、からすのみんなの似顔絵はみーんな真っ黒。そのなかにぽつりと、黄色のお顔。

ぴぃはみんなの似顔絵のなかに自分の顔をみつけると、黄色い顔を真っ赤にして下を向いた。

 「やっぱり、ぴぃくんのにがおえステキですね。いい色合いです」と、はくしきくん。

「あたしがかいたのよ!でも、ぴぃくんのにがおえをかくの、とってもたのしかったよ」と、たいようちゃん。

みんなが似顔絵の感想を言い合うなか、ひよこのぴぃはそっと教室をでた。


 学校に行くときはみんなバスに乗るけれど、帰るときはみんなそれぞれに帰っていく。

ぴぃは、いつも一羽で帰っているけれど、今日のぴぃはいつもよりもやもやしたきもちで胸がいっぱいだった。

そんなときには、学校うらの森に行く。

 「どうして、みんなはくろいろなのに、ぼくはきいろなの?」

ぽつりとつぶやく、ぴぃ。

 からすのみんなはみーんな黒色、にわとりのお父さんとお母さんはとさかは赤色、ほかは白色。

ぼくだけ、きいろ。

ひとりぼっちな気持ちがわいてきて、目のおくがじんわりと熱くなった。

その後すぐに、目からなみだがあふれてきてしまう。

悲しい気持ちがおさまるまで、ぴぃは森の中を一羽でとぼとぼ歩いていく。


 しばらくして、いつもよりも森のおくに来てしまった、と気が付いたのは、みたことがない小さい家があるのを見つけた時だった。

 「こんなところに、小さい家がある」

小さい家は古くて、まわりはとても静かで他の鳥の気配はない。

不思議な雰囲気がただようその家にぴぃにほんのちょっぴりわくわくした気持ちがわいてきた。

ぴぃはそーっと、小さい家のまどからなかを覗き込んだ。

 「わぁ、ものがいっぱいおいてある」

その小さい家は、家というより物置小屋のようだった。

たくさんのものにあふれているこの不思議な家はぴぃの冒険心をくすぐるには十分だ。

不思議な家のドアノブをにぎってまわすと、すんなりとドアは開いた。

 「おじゃましまーす‥‥」

ぴぃは、不思議な家にそっと足を踏み入れた。

中はほこりっぽくて、いろんなものが乱雑に置いてある。

 「れいぞうこにおっきいかんばん?ながーいホースにマネキン、わっ、へんなどうぞうまでおいてある!」

ぴぃが興味津々に置いてあるものを見ていくと、おくのほうにとつぜん黄色い鳥のすがたが見えた。

 「うわああ!」

思わずぴぃがしりもちをつくと、その黄色い鳥もいっしょにしりもちをついた。

 「ふぇ‥‥これってかがみ?」

よーくみると、黄色い鳥はぴぃにうりふたつ。

違いといったら、右と左が反対になっているというくらいだ。

 ぴぃが驚いた相手は、古そうなかがみだった。

ぴぃのからだは全部映って、さらにひとまわり大きいくらい。

 「びっくりしたぁ‥‥」

ぴぃはよつんばいになりながら、かがみに近寄った。

 「あら、ごめんなさい。おどろかせるつもりはなかったのよ」

「え!だっだれ?」

突然、女の子のかわいらしい声がきこえたので、ぴぃはまわりをぐるりと見渡した。

しかし、誰の姿も見えない。

 「こっちよ、こっち」

声のしたほうをみると、さっきのかがみがある。

 「こんにちは。わたし、かがみ。あなたのおなまえは?」

「きみがはなしてるの?」

信じられなくて、ぴぃが質問を質問で返してしまった。

 「ええ、そうよ。あなたのおなまえは?」

「ぼくは‥‥ぴぃ」

「そう!ステキななまえね。あなた、どうしてここに?」

かがみはぴぃが混乱しているのもおかまいなしに、どんどん質問してくる。

 「ぼく‥‥ぼくは、きもちがもやもやして、かなしくて。そんなときは、もりにくるんだ。それで、ここをみつけて‥‥」

「そうなの。あなた、目があかいわ。泣いていたの?」

ぴぃは泣いていたことに気付かれて、少し気まずくて俯いた。

 「ごめんなさい。わたしにはあなたのようにステキなうでがないから、あなたを元気づけるために抱きしめることができないわ」

かがみは顔がないものだから、表情がわからないけれど、声が悲しそうで、悲しんでいるのがぴぃには伝わった。

 「ううん。ありがとう」

「でも、よかった。わたしはかがみだけど、お話しができるの!だから、あなたを元気づける言葉をおくれるわ」

今度は、かがみの嬉しそうな気持ちが伝わってきた。

 「そうね、どの言葉があなたを元気づけられるかしら?そう!あなたのステキなところを伝えればいいかしら?」

「ぼくの、すてき、なところ?」

ぴぃはかがみの提案に目を丸くした。

 「わたし、あなたと出会ったばかりだけど、あなたのステキなところたくさんみつけたの!」

かがみが興奮したように早口になった。

 「ぼくのいいところなんて、どこにもないよ」

ぴぃは、投げやりになったように吐き捨てた。

 「ふふっ、そんなことないわ。まず、あなたのきいろ。いつかみたおひさまをおもいだすわ。あたたかい色。私とっても好き」

ぴぃは、いまいちばんきらいな自分のからだの色をほめられて、気持ちが嬉しいのやら、嫌なのやら、ぐらぐらした。

 「それから、そう、わたしとまったくちがうところ!ステキな頭や手や足があっておなかがあるのもとってもステキ!そんなステキなからだがあったら、いっぱい走れるし、お友だちとも手をつなげるし、それにおなかだってへってしまうんでしょ?ああ、ステキ!」

ぴぃは考えていなかったところをほめられて、なんだかくすぐったくなった。

 「それに、これは一番ステキなところ」

「かがみのわたしとお話ししてくれるところ。ありがとう、ぴぃ」

ぴぃは急にお礼を言われて、はっとかがみを見た。

目がないかがみと目が合うはずもなく、かがみに映っているぴぃと目が合った。

 「わたし、ひとりじゃうごけないから、ずっとここにいるの。さみしいときは歌をうたってまぎらわせたけど、今日はあなたがきてくれて、わたし、とても嬉しかったの」

「今日は、わたしにとって最高の日だわ!」

かがみがとびはねるように幸せそうに話すから、ぴぃもなんだか嬉しくなって、恥ずかしくなって、顔が真っ赤になった。

 「ああ、ステキ!あなたのお顔は赤くもなるのね!いつの日か見た夕日みたい!」

「あら、ごめんなさい。わたし、あなたを元気づけたかったのにわたしばかり幸せなきもちになるなんて‥‥」

かがみが少し恥ずかしそうに話した。

 「ううん、ありがとうかがみさん」

ぴぃの胸のあたりが少し、あたたかくなった。

 その日から、ぴぃと不思議なかがみはお友達になった。


 ぴぃは、それから毎日かがみに会いに行った。

雨の日も、風の日も、雪の日も。

かがみは、会うたびにぴぃのステキなところを伝えてくれて、ぴぃは、かがみが見られない外の話や学校の話をたくさんした。

 そんなある日、いつものようにぴぃがかがみに会いに行くと、いつも明るいかがみがとても悲しそうにしていた。

 「どうしたのかがみさん?今日はなんだか元気ないね」

そう、心配そうにぴぃがきくと、かがみはとても沈んだ声で答えた。

 「じつはね、ぴぃ。わたし、あなたとお別れしなくてはいけないの」

ぴぃはおどろいて、思わず声が大きくなった。

 「え!どうして?」

「ふふっ、あなたって、そんなに大きな声もだせるのね」

かがみは少しだけ笑ったが、声は暗いままだった。

 「今日、あなたが来る前に、この家の持ち主が来たの。つまり、わたしの持ち主よ」

「それでね、こんなことを言ってたわ。『あぁ、ここのものは明日の朝にでも全部すっきり処分しないとな』って‥‥」

「しょぶん・・・?」

「ここに置いてあるものを全部捨ててしまうってこと。わたしも、ね」

突然つきつけられた大事なお友達との別れに、ぴぃは誰かから頭をガンっとなぐられたんじゃないかってくらい、頭がぐらぐらした。

 「処分されるのもこわいけど、それよりも、あなたとお話しできなくなる方が、ずっとつらいわ」

かがみには涙をながす目があったなら、おおつぶの涙がながれていたのではないだろうか。

 「あなたとお話しするのは、今日で最後になるけど、わたしは世界で一番幸せなかがみだったわ。本当にありがとう」

もう、かがみと会えなくなるのかと思うと、ぴぃは胸の奥がぐぐっと熱くなってくちばしのおくのほうがツンと痛い。

そして、おおつぶの涙がぴぃのちいさなくりくりの目からぽろぽろとあふれてきた。

 「ぼくはいやだよ。かがみさんとおわかれなんて、いやだ!!」

「ぴぃ‥‥」

「ぼくが、ぼくがかがみさんをたすけるよ!」

「ぴぃ?」

決心したぴぃは、走って家を勢いよく飛び出した。

大好きなお友達を助けるために。


 学校の校庭まで走って戻ってくると、知っている鳥が三羽見えた。

たいようちゃん、まんまるくん、それにはくしきくんだ。

 「たいようちゃーん!まんまるくーん!はくしきくーん!」

ぴぃは、三羽に聞かせたことがないくらい大きな声で呼んだ。

三羽は驚いたようにぴぃの方を見た。

 「どうしたんだい、ぴぃくん?そんなにいそいで」

はくしきくんが驚いて目をぱちくりさせる。

「はぁ、はぁ‥‥力をかしてほしいんだ」

「ぼくの友だちを助けるために!」

ぴぃが真剣な目で、たいようちゃんとまんまるくんとはくしきくんをまっすぐ見つめた。

 三羽はお互いに顔を見合うと笑い合った。

 「もちろんだよ~、なにをしたらいいの~?」

にっこりとまんまるくんが微笑んだ。

 「ぴぃくんにたよられるなんて、うれしい!なにをすればいいの?」

たいようちゃんにひまわりのように明るい笑顔が咲いた。

 「ついに、ぼくのちしきがやくだつときがきたのですね!」

なぜか、はくしきくんがとくいげにくちばしを上に向けた。

 お願いをしに来たとぴぃが、とまどった表情で固まっていた。

 「ぴぃくん?なんでかたまってるの?」

たいようちゃんが、困ったように笑った。

 「ごっ、ごめん。ことわられるかと思ってた。」

「ことわるわけないじゃん!というか、ことわるとおもってたのんできたの?ぴぃくんってやっぱりおもしろいね!」

あっはっは、とたいようちゃんが大きな声で笑った。

ぴぃは、照れてしまってぽりぽりと頭をかいた。

 本来の目的を思い出して、ぴぃは、はっとした。

 「そうだ!森の家にいるかがみさんを助けたいんだ」

「かがみさん?どういうことでしょう?」

三羽とも頭の上にはてなが飛んでいたので、ぴぃはかがみとの出会いを話した。

 「ふーむ、話すかがみとはなんともきょうみぶかいですね」

あごに手をあてて、はくしきくんがふむふむと頷いた。

 「というか、たいへんじゃん!はやくだしてあげないと!」

たいようちゃんが急かすようにぴぃの手をひっぱった。

 「みんな、ありがとう。ありがとう」

こんな、不思議な話をすぐに信じてくれて、真剣に考えてくれて、ぴぃのことを気にかけてくれるお友だちに、ぴぃは心のおくそこからありがとうが涙といっしょにあふれてきた。

それを見て、三羽とも優しく微笑んでいた。


 「かがみさん!かがみさん!」

「ぴぃ、もどってきたの?きゅうにとびだしていったから、わたし、てっきり‥‥」

「これはこれは‥‥ほんとにかがみが話してます」

はくしきくんから思わず声がもれた。

 「あら、この子たちは?もしかして、とっても明るい子がたいようちゃんで、とってもかしこそうな子がはくしきくんで、とっても甘い匂いがしそうな子がまんまるくん?」

かがみは、興奮したように早口になった。

 「ぼくって甘いにおいするの?ぼくまでおいしそう」

「わたしったら、ぴぃくんが話してくれたお友だちに会えたものだから、興奮しちゃって。ごめんなさいね」

「はじめまして、わたしは、かがみ。みんな、よろしくね」

「よろしくね!あたしたち、かがみさんを助けにきたのよ。こっからちゃっちゃとでちゃおうよ!」

「え‥‥本当に?本当にここからだしてくれるの?」

「本当にありがとう‥‥でも、わたし重いし、もし割れてあなたたちにけがをさせてしまったら、とてもつらいわ。むりはしないでね」

「そこはご安心を!このはくしきが、安心安全にかがみさんをはこびだす案をかんがえだしましょう!」

得意げにはくしきくんが高らかに話す。

「はくしきくん。いいかんがえが~あるの~?」

はくしきくんは、小屋にある積み重なったものを見てみる。

「ここから、かがみさんをはこぶのに使えそうなものをまず見つけましょう!」

「たとえば?」

たいようちゃんが首を傾げた。

「見てから決めます!」

はくしきくんは、キリっとする。

「どんなものかわからないと、あつめられないでしょ‥‥」

あきれたようにたいようちゃんがため息をついた。

 ぴぃがふと思いついたように、つぶやいた。

 「じゃあ、ものにかぶさってる布をあつめて。あと、ホースも。それとかがみさんがのっかるくらいの大きい板みたいなやつ。たしか、大きいかんばんがあったや。あれを使おう!」

「ふむふむ、板と長いホースと布と‥‥わかりました!板をソリのようにして、ホースでひっぱるんですね!」

「うん、そうだよ。そうしたら、運びやすいかなって」

「なんと、そんなことをかんがえつくとは、何たる才能‥‥!」と、はくしきくんは、ぬぬぬとうなった。

「それじゃ~さっそくつくろうか~」

あつめた材料を外にもちだして、さぁ、はじめるぞ!

まず、看板をねそべらせて、看板にぐるっとホースを巻き付けて、ひっぱれるようにおおきいわっかを作った。

こんなに大変な作業でも、四羽もいたらあっというまに終わった。

 「よし、できた!夏休みの工作よりも大変だけど、四羽でやるのあっというまなのね」

たいようちゃんが満足げに汗を拭った。

 「あとは、かがみさんを布にくるんで、ソリにのせよう。すこし苦しいかもしれないけど、ごめんね」

ぴぃがもうしわけなさそうにいうと「ふふっ、そんなことないわ。わたし、息してないもの」と楽しそうに返した。

 かがみを布でくるんで、家の外まで運び出した。

そして、かがみが割れないように、ソリにそーっとのせた。

かがみは、思ったよりも重かったので、友だちが助けてくれて本当によかった、とぴぃはあらためて心の中でありがとうと言った。

 四羽はソリのホースのわっかにはいって「せーのっ」のかけごえで出発した。

四羽の力で進むソリはぐんぐんと森の外に向かって進んでいく。

途中でソリが道の小石にひっかかったり、かがみがソリからずりおちそうになったりしたが、四羽は協力してなんとかのりこえた。

しかし、小さなひなたちが大きなかがみを運ぶのは実に大仕事だった。

いつのまにか日が暮れて、空を見上げれば、ぴぃのお父さんのとさかのように赤くなっていた。

 まんまるくんが不安そうにつぶやいた。

 「もう、日が暮れてきちゃったね~」

たいようちゃんは、暗くなる空を見て慌てた。

 「どうしよう?お母さんにおこられちゃうかなぁ?」

「どうしましょう?真っ暗な森はあぶないですよ」

はくしきくんもおろおろしている。

 その時ぴぃは、とさかいろの空を見上げて、お父さんから言われていた。ことを思い出した。

 「いいかい、ぴぃ。わたしたちわとりやひよこは真っ暗になると、目が全然見えなくなるんだよ。『とりめ』というんだ。だから、暗くなる前に必ずおうちに帰ってくるんだよ」

 からすの子たちはまだ暗くても目が見えるけど、ぴぃは違う。

暗くなると、とんと周りが見えなくなる。

真っ暗な森を想像すると、ぴぃの背中がぞわっとした。

でも、それでも、ぴぃの決心は変わらなかった。

怖さよりも、大事な友だちのほうがずっと大切だった。

 ぴぃは、怯えている三羽に向かって言った。

 「みんな、ここまでありがとう。さきにおうちにかえってて。お父さんやお母さんが心配するだろうから」

「あとすこしで学校にでるから、ぼくはもう少しがんばってみるよ」

ぴぃの小さな二つの瞳のおくには、静かに決意の炎がゆれていた。

三羽は、ぴぃの勇気を無視することはできなかった。

 「ぴぃくん。あたしももうすこしがんばってみる!ぴぃくんとかがみさんのことおいてけないし!」

たいようちゃんにいつもの元気が戻ってきた。

 「ぼくも~みんなでがんばったあとのばんごはんのほうが、おいしいもんね~」

まんまるくんが、のんびりとマイペースなことを言う。

 「ぼっ、ぼくだって、ぴぃくんやかがみさんのことしんぱいですから、のこります!けっして、一羽でかえるのが怖いとかではないですよ!」

はくしきくんの足はふるえていたが、残ってくれる勇気があった。

ぴぃはこの一日のあいだに、何度もこの優しいお友だちたちにありがとうの気持ちがあふれてきた。

 「ぼく、ぼくが思ってたより泣き虫かも‥‥ぐす‥‥ありがとう、みんな」


 ずずり‥‥‥ずり‥‥ごんっ‥‥‥ずりずり‥‥。

真っ暗な森の中で、ものを引きずる音がする。

はたから見れば、不思議な光景だ。

四羽のひなたちが、布にくるんだ大きな鏡を手作りのソリに乗せて運んでいく。

「ふーっ、ふー‥‥」

長い時間運んでいるので、四羽のひなたちはすっかり疲れて、会話どころではなかった。

だが、歩くことはやめなかった。

 いちばん話すことが大好きなかがみが家を出発してから、口数がめっきり減った。

ぴぃは、かがみを運ぶのに夢中になっていたので、かがみがあまり話していなかったことに気が付いていなかった。

引きずる音と暗闇しか見えないぴぃには、今このときがとても静かなことが気になった。

 「かがみさん、大丈夫?痛くない?」

「大丈夫よ、ぴぃ。心配してくれてありがとう。ただ、とても、不思議な気分なの」

「不思議‥‥?」

「わたし、遠い国で作られて、船に乗って運ばれて、それから、いろんな鳥に使ってもらって、そして、今の持ち主に拾われた。あの家で何年も過ごして‥‥」

「でも、いままでお友だちはできなっかたの。あなたに出会うまで、わたし、お話しできることを知らなかったから。ふふっ、変よね、自分のことなのに」

「でも‥‥でもね。きっとわたしって、ぴぃ、あなたに出会うためにあの家にいきついて、あなたとお友だちになるために話せるようになったんだと思うの」

暗闇の中で、たしかに四羽とかがみ一枚だったはずなのに、まわりが見えないせいか、ぴぃとかがみだけで話してるようにぴぃは感じた。

 「ぴぃ。あなたってほんとうにステキな鳥よ」

「はじめてあなたと会ったとき、あなたは泣いていたわね」

「‥‥見た目が、みんなくろいろなのに、ぼくだけきいろなのが、いやだったんだ。ぼくだけがちがうのが、いやだったんだ」

「そう」

「どうして、ぼくだけちがうのか、わかんなくて、はずかしくて。ぼく、自分に自信がなかったんだ」

「そう」

「そう思ったら、学校がきらいになって、家がきらいになって、どんどん自分のこともきらいになったんだ」

「‥‥そう」

「‥‥‥でも、かがみさんに出会って、かがみさんは会うたびにぼくのステキなところを伝えてくれた」

「ふふっ、だって、本当のことだもの」

「実はね、最初は少しいやだったんだ。『どうして、ぼくのきらいなところをほめるんだろう』って思ってた」

「でも、きみが本当に、いっしょうけんめいに伝えようとしてくれるから、ぼくは少しずつ、自分に自信がつくようになったんだ」

「そうね。今のあなた、初めのころとちがって、みちがえるようだわ」

「今日なんて、いつも話しかけられなかった、たいようちゃんやまんまるくん、はくしきくんに話しかけて、おねがいごとまでするなんて。自分でびっくりだよ」

「これから、いままで話ができてなかったぶん、これからみんなともっと話したいなぁ」

「ええ、それがいいわ。きっとあなたたちは、これからお互いにいろんなことを知るでしょうね。おんなじところやちがうところ。それって、きっと楽しいことだわ」

「うん」

「どこかにおでかけしたり、あそんだり、ときどきけんかしたりするかもしれないわね」

「かもね」

「‥‥ねぇ、ぴぃ?」

「なに?」

「‥‥ありがとう。わたしとお友達になってくれて」

「ぼくも、ありがとう。ぼくとお友達になってくれて」


 「‥‥もう、あなたは大丈夫」

かがみは小さな声で、しかし、とても穏やかに呟いた。


 「‥‥おーい!」

 「‥‥ちゃーん!」

遠くの方からだれかを呼ぶ声がきこえて光が見えてきた。

ずりずり‥‥ずりずり‥‥‥。

疲れた体とソリをひきずって四羽はなんとか光の方へと歩くと開けた場所に出た。

開けた場所は見覚えのある、校庭だ。

「まんまるくん!」「たいようちゃん!」「はくしき!」「ぴぃ!」

校庭にはそれぞれのお父さんとお母さんが心配になって、ひなたちを探しに来ていた。

怒られる!と思ってみんな身構えていたが、泥だらけのひなたちを見たおやどりたちは、ぎゅっ、とみんなを抱きしめた。

ひなたちは安心が急におしよせてきて、うあーんと声をあげて泣いてしまった。

 ぴぃもお父さんとお母さんのうでのなかで、思いっきり泣いていた。

安心感と疲れで、ぴぃたちはすとんと深い眠りに落ちてしまった。


 次の日、ぴぃの目が覚めたのはぴぃの部屋だった。

お父さんとお母さんがぴぃをベッドまで運んでくれたようで、あれからぴぃはぐっすり眠ってしまっていた。

外はもうすっかり明るい。

 ぴぃは、ぼーっとする頭を何とか動かして、昨日のことを思い出した。

 「かがみさん!」

ぴぃは、ベッドから飛び起きて玄関へと向かおうとすると、お母さんにとめられた。

昨日、とても疲れたのなら今日の学校は休んでもいいよ、とお母さんは言ってくれたけれど、ぴぃはかがみのことが心配でならなかった。

そんなぴぃをみて、せめて朝の支度をなさい、と言ってお母さんは朝ご飯を用意してくれた。


 学校行きのバスには、たいようちゃんもはくしきくんもまんまるくんもいた。

三羽とも疲れた様子だったが、ぴぃと同じでかがみが気になったらしい。

 「おはよう、みんな。昨日は本当にありがとう」

ぴぃは少しだけにこっとして、三羽にあいさつした。

すると、たいようちゃんはぴぃの何倍もの笑顔で返してくれた。

 「おはよう!ぴぃくん。あたし、さっきまで疲れてたけど、ぴぃくんが『おはよう』してくれたから、疲れたのがどっかいっちゃった!」

ぴぃはきょとんとした。

そういえば、ぴぃからあいさつしたことは引っ越ししてから初めてだった。

 「そ、そっか‥‥」

ぴぃはなんだか恥ずかしくなって、顔を赤くして俯いた。

恥ずかしがりなのは変わらないようだ。

そんなぴぃを三羽はにこにこしながら見ていた。

 「ぴぃくん、ここあいてるよ~」

まんまるくんがとなりをすすめてくれて、ぴぃは初めてお友達のとなりに座った。

 今日はいつもとずっと違うけど、それがぴぃには心地よかった。

バスのようきな運転手さんの歌にのせてバスが出発して、ぴぃは少しその歌を口ずさんだ。


 ぴぃたちは学校につくと、真っ先にかがみを探した。

 「いない‥‥たしかにここまで運んできたのに‥‥」

確かにソリをひいて校庭まで運んできたはずなのに、そこにはソリもなければかがみもいなかった。

 「かがみさーーん!どこにいったのーー!!」

ぴぃは思いっきりさけんでかがみを呼んだ。

けれど、どこからも返事はなかった。

 「かがみさん‥‥」

キーンコンカーンコーン

ぴぃたちの気持ちを無視するかのように、学校がはじまるチャイムがなった。

 「みなさーん、教室に入ってくださーい!」

先生がぴぃたちを呼んでいる。

ぴぃたちは、かがみのことが心配だったが、しぶしぶ教室に入った。

 やっとかがみを探しに行けるようになったのは、授業が終わった後だった。

ぴぃは、いてもたってもいられずに、いちばんに教室をとびだした。

 「ぴぃくん、ぼくたちもいくよ!」

後ろから頼りになるお友だちの声がきこえて、ぴぃは振り返った。

そして、四羽でかがみを探しに学校の外にでた。

まずは、校庭をくまなくさがし、かがみをみていないか先生たちにきいてまわったが、みんな口をそろえてかがみのことは知らないと言っていた。

 かがみはもちろん一枚では動けないはずなのに、その姿はどこにも見つからない。

ぴぃたちは、またあの家があるところまで歩いて行った。

 「あ‥‥れ?たしかに、ここにありましたよね?小さい家が‥‥」

はくしきくんが、くちばしをあんぐりさせた。

 昨日まであった家が、そこにはなかった。

しかし、とりこわされたわけではなく、もともと、ここには家がなかったかのように家があったところには、草木が生えている。

 「あれれ?かがみさんもおうちもどこにいっちゃったの?」

まんまるくんも首を傾げる。

 「ゆめ‥‥じゃないよね?だってあたしたち絶対ここでかがみさんとお話ししたもん!」

たいようちゃんが首をぶんぶんと横に振る。

 「かがみさん‥‥」

ぴぃは、寂しそうに呟いた。

 「かがみさん‥‥ぼくの大切な友だち。ぼくをいつもはげましてくれて、ぼくに自信をくれた」

「それに、たいようちゃんやまんまるくんやはくしきくんと、本当の友だちになるきっかけをくれた」

「もしかして、かがみさん、きみって‥‥」

ぴぃは目を閉じて、そして、ゆっくりと目を開いた。

 「きっとかがみさんはたびにでたのかも」

三羽がぴぃを不思議そうに見た。

ぴぃはそのまま話し続ける。

 「かがみさん、言ってたんだ。ぼくに会うためにあの家にいきついて、ぼくとお友だちになるために話せるようになった、って」

「ぼくはかがみさんのおかげで自分のことがよく分かったんだ」

「かがみさんは、とっても優しいんだ。だから、あの日、ぼくに話しかけてくれて‥‥」

「きっとまた旅に出て、誰かを元気づけてるのかも‥‥」

ぴぃは、ぱっと顔を上げて空を見上げた。

空を見るとよくおひさまの話をしていたかがみのことを思い出す。


 「おはよう!」

ぴぃが元気よく大好きなお母さんとお父さんに朝のあいさつした。

 「おはよう、ぴぃ」

「今日もお友達と遊んでから帰ってくるのかい?」

「うん!今日はみんなといっしょに実験するんだ。はくしきくんが‥‥」

「ふふっ、さ、はやく朝ごはん食べちゃんわないとバスくるわよ」

「ほんとだ!」

ぴぃはいそいでお父さんの作ってくれたホットケーキをほおばった。

 「お父さん、ホットケーキ美味しかったよ!それじゃあ、いってきます!」

ぴぃは、今日も元気に大好きな友だちと一緒に学校に向かった。


 ぴぃの背中の羽がすこしだけ白色に変わったことを、まだぴぃが気付くのはもう少し先のお話し。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ