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女神に一度願った願いは例え噛んだとしても変えられない!!  作者: 細川波人
プロローグ 俺の願いは叶わない
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プロローグ5 スキルの可能性


 俺の背中は剥き出しになり夜風に晒されていた。


 剥き出しの背中。その指し示す意味は騎士に斬られたと言うことだ。痛みは無かった。今、触れた感じでも、血が出ている様子はない。ただ着ていた筈の白い衣類の背の部分だけが切られ、肩や腰から布切れが無惨にもぶら下がっているのだ。

 驚愕でうまく動かない喉から力任せに声を出した。


「いつの間に!」


「追われているときに、何度も騎士に斬りつけられていたんだよ。平気そうだったから防御魔法でも使ってるんじゃないかって勝手に思っていたんだけど。その様子だと違うみたいだね」


「気付いてたなら言ってくれよ! 今知って物凄く不安になったからな! ほんとうに大丈夫そうなのか? 穴とか空いたり、内臓が溢れたりしてないか?」


 俺は、焦りながらペタペタと自分の背中を触診する。やはり怪我は無さそうだったが、流石に不安だったので彼女に背を見せる。


「うん。傷一つない綺麗な背中だよ。こうして近くで見ると、結構筋肉質なんだね。力無さそうなのに」


「褒めるんなら褒めるで止めておいてほしいけど……。まあ、非力なのは否定出来ないな」


 必ずしも肉体の出来と力が比例するとは限らない。昔やっていた筋トレのせいで筋肉こそ付いたが、ステータスは殆ど変わらなかった。つまりは見せ筋というやつになったのだ。


「少しは落ち着いたようだね。本題に戻るけど、君はどうして無傷なんだい? やっぱり防御魔法だったのかな。非力って自分で言うぐらいだし」


「そっちの方がない。魔法と体の丈夫さなら、一頭身差位で体の丈夫さの方が可能性がある」


 水ウサギに骨折させられるほど脆い体だが、可能性はそっちの方が高いのだ。何故なら俺は魔法は初歩さえも使うことが出来ない。0と1の差だ。俺にとってのMPは表示以上の意味をなさない。


 それはともかく、現状を正しく把握する必要がある。何せあり得ないことが起きているのだから。


 服が切り裂かれていること。このことに関しては彼女の言った通り、騎士に斬られた事で完結する。しかし、問題は『服だけ』切られたことにある。

 騎士の攻撃をある意味で紙一重で回避しながら逃亡できた……。流石に現実的に考えて不可能だろう。人格はどうであれ、強スキルを持った王国直属の騎士なのだから手でも抜かない限りあり得ない。

 なら、手を抜いて服だけを切った説。騎士の名を守りつつ、嫌がらせのために服を切った。こっちの方があり得ない。騎士の名を気にするのであれば、まず裏路地にこんな子を連れ込まない。


 ならこれか。


俺は、右手を胸の高さまで上げて、中指と親指を捻る。すると、自分のステータスとスキルが表示された。そして、その一番下に表示されたスキルに触れる。


『剛健』 レベル1 体の外側から1ミリが硬くなる。

 次のレベルまで 被ダメージ500


「これのせい……なのか?」


「ふーん。そんなスキル初めて見たよ。『剛健』……。しかも、レベルがあるんだ。獲得条件は?」


 少女は前髪の下からわずかに覗かせた黒い瞳を輝かせ、俺のステータスプレートを注視する。顔がはっきりと見えたわけではないのだが、幼い顔立ちをしていて、同年代か年下に見えた。


「残念なことだが、これが俺の女神スキルだ。だからいくら修練しようと獲得はできない」


「えっ! でも、この世界だと獲得スキル以外は、レベルは無いんじゃなかったかな?」


「そう。そこなんだよなー」


 もう一度説明しよう。スキルは三種類。『生誕スキル』・『女神スキル』・『獲得スキル』がある。


 『生誕スキル』 完全ランダムで獲得スキルでは獲得できないスキルが選ばれる。そして、その中にランクがあるものが幾つかあり、ランクは一生変わることがない。


 『女神スキル』 最強。だがデメリットもある。『勇者』などの特別なスキル以外の中から好きなものを選べる。ちなみに獲得スキルを願うと、上位互換のスキルが授与されたりもする。


 『獲得スキル』 修練を積むことで基本的には誰でも獲得することができるスキル。多くはレベルを持つ。例えば、『火炎攻撃レベル1』とか『鍛冶レベル1』とかだ。


 しかし、今回俺が貰った女神スキルは、本来の女神スキルの分類から外れている。形だけ見れば獲得スキルにも見えてしまう。


「女神スキルなのに何故かレベルがある。そして、獲得スキルにしては、見覚えがないスキルの名称。単純に獲得スキルの上位なのか? いや、でも獲得スキルを願ったわけでもないし」


「なんで自分のスキルを把握出来ていないんだい? 願ったのは君なんだよね?」


「う、うるさい。それは今言うな。お願いします」


 未だに塞がりきっていない心の傷を抉られて動揺してしまう。


「情緒不安定なのかな? まあ、その話は追々として。真面目な話だと表示のバグか、はたまたシークレットスキルってところかな」


「ごめん、分かるように言ってくれ」


 俺の動揺をさして気にすること無く、少女は淡々と言った。しかし、少女の言った内容は俺の頭には全く入ってこなかった。


 さっきからだが、少女は時折聞きなれない言葉や変なことを言っている。「この世界では」とか「バグ」とか。単に比較的田舎で育った無知な俺に非があるだけかも知れないのだが、現代における王国の心臓カーステラで流行している言葉であれば、耳に入らない方が難しい。

 尚、自分の無知や記憶力の悪さについては考慮しないでおく。


 彼女は顎に黒い手袋を着けた小さな手を当てる。そして、何度かまた訳のわからない言葉をぶつぶつと口ずさみ、納得がいったのか軽く頷いて説明に入る。


「えっと、その表示に間違いがあるか、特殊なスキルが存在するかって話。どう? 分かる?」


「ああ、何となくは分かった。……なるほど、そう言うことか。確かによくよく思い返せば、あの女神、代償の小指を取れなかったんだよな。もしかしたら、間違って変なスキルをくれたのかも知れない」


 つまり、女神自身が授けた『剛健』なのだが、思いもよらぬ硬さだったと。そこから考えるに、女神を凌ぐ程、『剛健』の効力は異常で、彼女の言ったような特殊なスキルと推測も出来る。

 もう一つの表示の間違いは、確かに考えられなくもない。現に、体を斬られた筈なのに、スキルの説明欄にあった、次のレベルに必要なダメージの値が500と変化が無い。


「すごいじゃないか! あの女神を欺くなんて! 成る程、確かに硬くなれば代償は奪えない」


「そんな狡猾じゃないけどな。欺く気なんてなかった。事故だ。事故」


「だったとしてもだよ。女神の攻撃を耐えられるなんて、並の人間じゃ出来ないさ。つまり、今の君はこの世で唯一無二の最硬(さいこう)の男なんだよ」


「過大評価しすぎだっての」


 褒められて正直悪い気はしない。それでも、不本意な結果には違いなく、飛び跳ねて喜ぶような内容ではない。硬いだけ。それだけだ。


「例え君の言うように、最硬(さいこう)だったとしても、街の中だと硬さなんて役に立たない。外に出たとしても、俺には『魔獣魔物弱点S』が付いてるんだから、硬くたって意味ないかもしれないんだ」


「かもしれない。なんて曖昧な考えで視野を狭めるのは感心しないよ」


 彼女の言いたいことは分かる。俺も一時期は無理だと言われても、諦めずにやってきたさ。けれど、それでもどうしようもない現実が目の前にあったんだ。

 

俺は過去を思い出して唇を噛む。


「……なら、教えてくれよ。俺の道を」


 今日吐き出すことの出来なかった俺の弱音が、諦めと共に溢れた。そんな俺の顔を不思議そうな顔で少女は眺めていたが、急に思い付いたかのように顔を明るくさせ大きく頷いた。


「うん。そうだね。他にはいない。何よりも、私がそうしたいと今思った」


「何を?」


「そんなの簡単さ」


 少女は自身の羽織っていたローブを一息で引き抜き、白い肌の肩を剥き出しにして胸を張る。前髪が勢いで左右にずれて顔が露になった。黒髪と同じく真っ黒な瞳。丸みを帯びた顔に低い鼻。慎ましさのある小さな口。変わった顔だが、それでも何故か、造形が悪いとも、違和感があるとも感じない。珍しい顔立ちではあるが可愛いとも言える。


 そんな彼女は、激しく脱いだローブを俺の胸に押し付ける。そして、ぷっくりとした下唇が上唇から離れ、彼女の愛嬌のあるハッキリとした声音が鳴る。


「私の名前はアリシア。早速だけど私とパーティーを組もう。そして一緒にこの謎を解き明かしていこうじゃあないか。冒険者アイト・グレイくん!」


 月明かりに照らされる彼女は、夜にも関わらず影一つ無い満面の笑みで、力強く勧誘をした。


 ――勧誘した。


「えっ、無理だけど」


 しかし、俺は平然と断るのだった。


 次から一章が始まります。一章までは今のペースでやっていこうと思いますので宜しくお願いします!


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