11 『毒生成師』
すみません!!投稿話ミスしてました!
『毒耐性レベル1』。自然に授かってしまったのなら、素直に俺は喜んでいただろう。しかし、現状は全く別。目の前の、悪意を感じさせない笑みで座るアリシアが、知らぬ間に俺に毒を盛っていたのだ。
「良かったね。アイト。悲願の獲得スキルだよ!」
「どこら辺が良いんだよ! よく考えろ。俺は毒を盛られた。結果的に『毒耐性レベル1』を獲得したが、明らかにお前の好奇心の犠牲になっただろ!」
「そ、そんなことないよ! 私はアイトの身を思って、思って、笑いそうになるのを堪えて毒を入れてたんだから!」
「ぐっ。俺の身を……。ん? 笑いを堪えて?」
流されそうになったが、しっかりと発言を思い返すと、怒りが込み上げてきた。こいつ、間違いなく俺で遊んでる。
「ふう。落ち着け俺。アリシアだろ。気にするな」
「酷い評価じゃないかな」
自分のしたことに絶対的自信を持っていて、間違いだと疑わない性格は、場所によっては美徳だが、俺にとっては邪魔しか思えない。
「まあ、許す許さないの話は、スミュレバレーに着いてからのアリシア飯を抜くことで大丈夫として。アリシア。ちなみにどんな毒を盛っていたんだ?」
「ご飯抜かれるのは困るよ!」
「いいから答えろ。答えないと、秒毎に抜かれる日数が増えていくぞ」
俺は、顔を青ざめさせるアリシアに満足しながら話を進める。
「睡魔のミンちゃん。痒みのむずお君。体調が物凄く良くなる代わりに、激しくなった血流に耐えられなくなって体の内部から炸裂するデンジャーさん」
「睡魔と痒みと……炸裂!?」
最初の和やかな毒の後に耳に入った強烈なワードに、俺は目を丸くした。
炸裂だと! ホントにそう言ったのか?
「ちなみにデンジャーさんは、あの時鎧の魔物に使った出血性の毒の応用だよ。血流を速めて体を活性化させる。でも、配分と相手次第では悲惨なことに……」
「おっ! お前! ホント、俺大丈夫なのか? 急にパンってならないよな!」
「大丈夫だよ」
「よし! レフィ。回復頼む」
「大丈夫だって! 心配なら『解毒』してあげるから」
そう言ってアリシアが俺に触れると、心なしか体の緊張感が取れた。取り敢えずは一安心だろう。
「言いたいことしかないが、だいたい何で俺に毒を盛ってるんだよ。お前はバカだが、理由もなしでやる奴じゃないと思ってるんだけど?」
それなりに一緒に過ごしたが、無駄なことはしていなかった筈だ。毒をかけられ活き餌にされたときも、食事に実は毒物が入っていたのも、それぞれに理由があった。だから、俺はアリシアを信じて訊いてみた。
「流石だね。アイト。もちろん理由はあるさ。その説明は言うより見せた方が早いかな」
すると、アリシアは、いつの日かのようにステータスプレートを差し出した。その表記を俺とレフィが目でなぞる。
ステータス
体力 180
筋力 300
魔法攻撃力 130
物理防御 200
魔法防御 210
敏捷 170
MP 402
スキル 『攻撃範囲縮小S』 『毒生成師』 『無詠唱』 『解毒』
「あれ?」
俺は一目見て違和感を覚えた。それは自分のステータスが頭に合ったから覚えた違和感だった。
「どうしたんですか? 珍しいスキルはありますが、いたって普通に見えますけど」
「……いや、これはおかしい。俺と比べての成長速度に差がありすぎる」
「正解! 流石だねえ」
でも、何でそんなことが。確かに魔物と直接拳を交えた俺と、サポートだけのアリシアとで差が出るのはおかしくない。けれどあまりにも差がありすぎる。
「私はサポートにしか回らないから、基本的に能力が上がりにくいんだ」
「でも、それなら治癒術師とかも上がりにくいってことになるんじゃないか? レフィ。どうだ?」
「確かに上がりにくくはありますけど、基本的には差は少ないと思いますよ」
んー。ならより謎は深まった。頭を悩ませる俺に、アリシアは当たり前のように言った。
「私の場合は経験値が入りにくいんだよ。前に私が言ったこと覚えてるかい? 戦闘で必要となったステータスが上がるってやつ」
「あー。確か言ってたな」
そのお陰で、俺の防御力と攻撃力がかなり上がったんだったか。
「前衛職なら攻撃力や防御力。魔法職なら魔法攻撃力。ヒーラーならMP。それなら私のステータスはなにが上がると思う?」
「何ってそりゃあ……」
ん? なんなんだ? 毒って物理じゃないし、魔法ともちょっと違うよな。確か魔法使いの使うパラライズとかとは違うって言ってたし。スキルは『毒生成師』。それなら……。
「もしかして、毒を作るだけだから、能力値上がんない?」
「そ。そう言うこと。私がやってるのは、あくまで作った毒をかけてるだけ。魔物を倒したときで言えば、毒をかけた武器でアイトが攻撃してるだけだったから、ステータスなんかはより成長しないんだ」
「えーと。つまりは成長の見込みがないと……。よく魔王倒すとか言ってみたな」
「違うよ、アイト! 成長するんだって! ほら話の流れ思い出して」
話の流れ……。
成長の話の衝撃が強くて忘れてはいたが、最初の話は何故俺に毒を盛ったのかだった。成長と毒。繋がりが見えるような気がしたが、俺は敢えて考えることなく訊いた。
「何の話だったかな」
「自分で訊いたことなんだけどなぁ。まっ、いいか。何でアイトに毒を盛るのか。それは実は私の成長に大きく関わっているんだ!」
「そんなに熱説されてもな。『毒を盛ってもいいよ!』なんては、言わないからな」
「そこは話を聞いてからだよ」
アリシアは自分の空間ポーチから、紙とペンを取り出した。そして、すらすらと何かを書き始めた。
「えっと、まず私が毒を作ります。そして、作った毒をアイトなどの実験対象に投与します」
「おい。誰が実験対象だ!」
髪型だけ似せた棒人間を指差して突っ込むが、何も聞こえていないかのように、アリシアは話を続けた。
「この時点では私の成長は良くてMPだけです。しかし、『毒生成師』の成長はここからなのです」
すると、アリシアが次の絵を書き始めた。ひっくり返った俺らしき人と、それを観察するアリシアらしき人。
「『毒生成師』の成長と言ったら、生成できる毒の種類の幅が増えることと、濃度の調整になります。その二つの上昇には、対象の観察が大事になります」
「成る程、それは身近にいる相手にしか出来ないしな。……って、なに納得してんだろ」
実験対象俺なのに。
「更に生成した毒を解毒することによって、得られる経験値も増えるわけです」
「まあ、敵をわざわざ解毒なんて普通しないしな」
はあ。と俺はため息をついた。
正直許したくはないが、強くなるために手段を選ばずに猛進する姿は、自分と重なる箇所がある。なので、共感できてしまうのだ。悲しいことに。
「わかった。アリシアの成長には協力してやる。ただ! 二つ条件を付けるぞ。知らぬ間に毒を盛らないこと。必ず解毒すること。この二つは絶対守れ」
「さっすが! アイトはわかってくれると思ったよ。ありがと!」
アリシアは黒髪を揺らし、にっと口元を開き白い歯を覗かせた。それだけで何故か満足してしまうのは何でだろうか。
得体の知れない満足感に満たされていると、レフィがアリシアから隠れるように耳打ちをした。
「あのぉ、本当にアイトさんは良かったんですか?」
「ん? 良いんだよ。苦しいのは嫌だけど、なんだかんだ、そんな目にはあってないし、これからもそこに関しては変わらないだろうしな。まっ、強いて言えば、心臓には悪そうかな」
どんな毒を使われるかわからない恐怖だけはある。アリシアなら大丈夫だと、わかっていても体は正直だ。
俺の発言に、レフィは顔を俯かせて空の食器を見下ろした。考え込むような、悩んだような表情が、俺の胸に小さな破片を残す。
「良いですね……パーティーって」
そんな小さな呟きを、俺は確かに聞き取った。たった一言だったが、その一言に含まれた意味と彼女の心情が伝わった。
確か前に言っていたか。治癒術師は正規のパーティーメンバーとして迎えられる事が少ないと。それは彼女が抱えている苦悩なのだ。パーティーとして一時的に行動を共にしても、ある線を越えた信頼を得ることの出来ない孤独感。常にパーティーとして、アリシアと行動してきた俺には、到底その心情を推し量ることは出来ない。
けれどそれなら、せめてこのパーティーにいる間は、正規のパーティーメンバーと同じ様な待遇をしてあげたい。
なので、俺は敢えて当たり前のように堂々と言った。
「何を言ってるんだ? レフィ。お前もしっかりと俺たちのパーティーだろ」
俺の発言にレフィは耳をピンと立てて目を見開いた。
「ほんとですか?」
「ああ、俺からしてみれば、ずっといて欲しいぐらいだ」
パーティーのバランスとかの実用的な話だけでなく、レフィの人柄は一緒にいても苦にならない。たまに謙虚すぎて心配にはなるが、それ意外にマイナスな箇所は一切ない。
なので、俺としては出来ることならこのままパーティーに居座ってもらいたい。……まあ、俺たちF級の弱小パーティーに居座るメリットはないだろうが。
「あの、それなら!」
「ん?」
「……いえ、やっぱりいいです。気にしないで下さい」
何か伝えたそうに口を開いたレフィだったが、結局言葉を濁した。
レフィが何を言いたかったのか気になりはした。でも、深くは訊かない。それは彼女の問題であって、俺たちから訊く話じゃないと思ったからだ。だから、俺たちに言いたくなるまで……言ってもいいと思えるまで、気長に待つ。
俺はしょげたように伏せたレフィの耳を乱雑に撫でた。
「さて、明日も早い。そろそろ寝るぞ」
「そうだね、アイト。私、寝る準備するね」
就寝の用意するアリシアを見送って、俺も手伝いに行こうと立ち上がる。
「明日からダンジョンだ。頼りにしてるからな。レフィ。俺たちが頼りない分」
俺が自信なさげに頭を掻くのを見て、レフィはようやく表情を緩ませた。




