表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女神に一度願った願いは例え噛んだとしても変えられない!!  作者: 細川波人
プロローグ 俺の願いは叶わない
3/369

プロローグ3 女神は非情


「がっぎゃあぐじてぐだじゃい!」


 グズグズと鼻を詰まらせ、涙ながらに叫んだ言葉は、自分でも何を言っているか分からないほど聞き取りづらかった。更には少し噛んでしまってより分かりにくい。 


 あー。カッコ悪い。でも、これで最後だ。今日から俺はカッコ良く生きてやる。ハーレム生活を満喫して、カインをしたり顔で煽ってやる。


 『格好よくなる』それだけがカインに勝てる願いだ。いや、流石に言いすぎたが、この願いにはそれなりに理由もある。


 勝つだけなら、なにか一つを極めることで自然と出来るだろう。しかし、単純にそうしてしまえば、後に凄まじい劣等感が付きまとうと思った。更に、ものによっては実用性がない。しかし、この願いは実用的で、顔が良ければ優越感にも浸ることができる。


 勿論カインの外観は整っている。イケメンだ。「では何故?」 と思うだろう。実は容姿端麗なカインだがファッションセンスは普通なのだ。以前勝負したときは、それこそ『顔』の差で敗北したが、これで土台は同じ。しかも! 条件を揃えるためと言う体裁があれば劣等感なんて残らない!


 どうだ、これが俺の完璧な作戦だ!!


 そんな風に表面的な思考で言い切っていた。強がりではない。そう自分に言い聞かせながら。


「はい。願い聞き届けました」


 パチンと、女神は枝のような白く細い指を鳴らした。軽やかな音がこの壮大な空間を駆け巡り、僅かな余韻を残して消えた。


 これで俺は……俺は!


 恐る恐る俺は自分の顔に触れてみた。触れたところで顔の形の変化が分かる訳でもないが、どうしても触れたかった。自分の望んだ顔に。


 ペタペタと、顔の凹凸を指先で確かめる。けれど、やはり、触った感触で分かる訳もなく女神に訊ねた。


「俺の顔、あまり変化してないように感じます」


 女神は微笑んで説明をする。


「ええ、自分では分からないでしょう。スキル欄を確認してみてください」


 そうだな。スキルを見ないと分からないか。俺は素早くステータスプレートを開き、パラメーターの下に表示されたスキルを見た。


『剛健』


「ーーええと、あんまりカッコ良くない名前ですね」


「はい、必ずしもスキル名が効力に似合うと言うわけではありませんので」


「そ、そうですよねぇ」


 俺は確認のため、『剛健』の詳細を改めて見た。そこで、俺の大きな目が更に大きく見開かれた。俺の産まれた時から変わらない、母から受け継いだ大きな目が……。


『剛健』 レベル1 体の外側から1ミリが硬くなる。

 次のレベルまで 被ダメージ500


「はぁ!?」


 どういうことだ!? 硬くなってどうする。薄皮一枚。それだけが硬くて何になる。擦り傷でも負わなくなるのか? そんな馬鹿な! これでどうやってカインに勝つんだよ!


「満足していただいて良かったです」


 俺の穏やかならざる心中を知らない女神は、そんな定型文を口にした。


 女神様が聞き間違えた? そうか、鼻声で泣きじゃくっていたから聞き取れなかったのか。早く変えてもらわないと。


 俺は落ち着きを取り戻しながら自分の不手際を受け入れ、誤解を解こうとした。


「えっと、俺の願いは別なんですけど。格好よくなりたいんです」


 今度はハッキリと、感情を含まずに伝えた。すると、女神から思いもよらぬ回答が返ってくる。


「誠に申し訳ないのですが、規定により一度渡したスキルを再回収したり、新たにスキルを授けることはできません。ですので、諦めてください。誠に残念な結果ですが、仕事ですので、代償を頂きたいと思います」


「ーーえっ。ちょっと!」


 変更が出来ないどころか、まさかの代償を必要とする願いだった。


 そんなことが許されてたまるか! 俺の夢がっ、希望がっ、奪われてたまるか!


 そんな切望する俺の左手の小指に、唐突に軽いものを落としたような痛みが走った。


「いった!」


「あれ?おかしいですね?」


 どうやら女神は問答無用で小指を切り落とそうとしたようだ。風の魔法による切断だろう。手加減をしたのか、まだ俺の小指は付いていた。血の一滴も流さずに……。


 それから女神は、何度か腕を振ったり、詠唱をしたりしながら風の魔法を乱発した。しかし、小指は切れることなく、ただ痛いだけだった。ダメージは入っているようで、視界に表れた体力表示が少しずつ削られていった。


「はぁっ。ーーはぁ。これはっ、切断出来ないようですね。仕方がないので、代償は無しと言うことで、今回の儀式は終了とします。繰り返しになりますが、残念な結果で申し訳ありません。強くこの世界を生きてください!」


「ちょっと!小指でも何でもあげますからお願いだから待って!!」


 この流れ。話を終わらせにきている! 駄目だ。どうにかしてスキルを変えてもらわないと!


 必死になって手を伸ばし女神の裾を掴もうとするが、女神は颯爽と天に昇り、辺りは次第に闇に包まれ、元の世界へと戻っていった。


 残されたのは、静かに揺れ動く手を伸ばした俺の影のみ。そして、声さえも残らない静寂。

 俺はそんな中、静かに立ち尽くし、今は無き女神の姿を目だけで探していた。そして、意識が完全に現実に戻ってくると拳を握り、体を折った。


「ちっくしょょぉぉ!!」


 幼さの残る一人の青年の悲痛な叫びが、静まり返った冷ややかな岩の空洞に響き渡った。


 

 男なら誰しもカッコ良くなりたいとは思う……かも。


*励みになりますので、良ければブックマーク、下にある☆で評価お願いします!!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ