61 森のルール
「かんせーい! できたよアイト! どう? 美味しそう?」
アーニャが男女の距離にしては近すぎるほどの距離で訊いてきた。その手には半熟の卵と肉とキノコを用いた料理が皿に盛り付けられていると思う。あくまで『思う』だが。こんな近い距離でそんな風に顔を近付けられたら、料理がそもそも目に入らない。視界一面アーニャの顔しかない。
いくら幼馴染みでも、この距離は俺の男の子としての本能が……。
「あれ? アーニャ、化粧してる?」
「もう! 私も女なんだから、化粧ぐらいするよ!」
「ん? 怒られた?」
料理が手に渡った俺を、アーニャは躊躇なく突き飛ばす。溢しはしなかったが危機一髪で、中身が皿から浮いた。
特に悪いことを言ったつもりはなかったが、俺には見えていないなにかがあったのかもしれない。
「もう! 森は草とか虫とかで肌が荒れるから気を使ってるの! それだけ!」
「それだけなら怒られた意味が……ね? アリシア、レフィ。俺なんで怒られてるの?」
「……何ででしょうねー」
「ふふっ。アーニャちゃん。そういうことなんだね。ふふふっ」
変に平たい声音でシラを切っていそうなレフィと、何やら不気味な笑い声を出しながら、料理をロゼとカインに手渡していくアリシア。やはり、女にしかわからないなにかがあったのだろう。
俺はこれからは化粧の話題に触れないと、強く心に刻みながら、手元に注意を戻す。
「キノコか……」
全体的に黄色い料理の中にある赤いキノコを見る。
絶対に毒。間違いなく毒だろう。けれど、今回はレフィに加え、アーニャもいる。監視役が二人いて、何かをやらかすようなアリシアではないと信じたい。
「解毒は?」
「してるさ。みんなの分があるからね」
そうにこやかに語るアリシアの長い前髪の下の目を、じっと見る。すると、同じようにこちらを見つめ返されて、人見知りの俺はたじろぐ。
でも、この感じは大丈夫だな。
「わかった。じゃ、いただきます」
俺はその料理を躊躇なく舌の上に流し込む。そして……。
「ま……」
……ずい。マズイぞ。
辛うじて言葉と一緒に料理を飲み込んだ。
初めてアリシアの料理がマズかった。なんというか……、食材は悪くない。火加減もいいだろう。ただ、致命的に味が悪い。甘すぎる。砂糖に加熱した卵と鶏肉を絡めてる感じ。
「どう? 私が味付けしたんだよー!」
「おう……」
そう来たか。
今回の料理の製作者は三人。毒を忍ばせるアリシア。調理器具を壊すレフィ。そして、加わってしまったもう一人は、味覚音痴のアーニャだった。
目を爛々に輝かせ、それこそ良い感想を求めて、耳をそばだてているアーニャ。
ハッキリ言ってしまいたい! でも、アーニャだから言いづらい!
俺は助けを求めるように、食べる専門のロゼとカインを見る。
「ふむ。食える」
と、ロゼが言うのを悔しそうに俺は見届ける。
ロゼの住んでいた魔人の世界では一般的に食事がマズイそうだ。だからこそ、耐性があった。この程度、砂糖と塩を間違えたような食べ物では、音を上げない。
お嬢様っぽいんだから、味覚もわがままだったらよかったのに!!
こうなった以上頼れるのは一人しかいない。
俺は唯一の理解者足り得るカインを見る。あいつに頼るのは死ぬほど嫌だが、ここはカインの会話のスキルで、的確に傷付けないようにアーニャに伝えて欲しい。
カインは料理を口に入れ、一瞬硬直。そのあと、顔色一つ変えずに、長く咀嚼し、飲み込んだ。
「うん。アーニャ。腕を上げたみたいだね。食材のバランスがいいよ」
カインーッ!!
無理やり褒められるところ褒めてスマイル。なんだ、その優しさは! その優しさは人を不幸にするぞ! 主に俺を!
こんなときでも頑なにその好青年の姿を失わないカイン。だいたい、カインが甘やかしたから、こんなに料理が下手になったんじゃないのだろうか。カインのことだ。どうせ普段は手を煩わせないようにと、自分で作っていたに違いない。
「で、アイトは?」
来たー。どうするか。選択肢を間違えたら死ぬ。多分死ぬ。
「美味しかったよ」
「どの辺が?」
どの辺が?
俺は刺激的な味付けで麻痺した頭を無理やり回転させる。
「そ、そうだなぁ。あ、味付け」
「ふふん。よかったー。アイトが好きなように甘くしたんだよ」
俺のせいか!!
言わなかった。けれど、笑顔に「甘すぎる」と言葉を張り付ける。
俺は変わることのない状況をもう一度確認するようにそっと視線を下ろして、見た目だけは美味しそうな料理を見る。心なしか、他の人よりも多くよそわれている料理を。
……これ食べきらないといけないのか。
「アイトのは大盛りにしたよ」
追い討ちだよ! 俺、体力低いんだよ! 過剰なダメージだよ!
絶望に絶望の嵐。これから、俺はセザレインに着くまで、こんな料理を食べ続けないといけないのだろうか。
それとなくスプーンで料理を持ち上げて、中の具を皿の中に落としながら、ほぼ空のスプーンを口に入れる。やはり甘い。
そんなときだった。不意に女神が舞い降りる。いや、女神なんて適当な奴なんかで例えたくない。神が降臨した。
「うん? これ甘すぎるよ? 砂糖入れすぎたのかい?」
「本当ですね。少し味を調えましょう」
一緒に作っていた二人だ。その二人が味の異常さを指摘してくれた。
すると、作る側から意見だったせいか、アーニャは真っ直ぐすぎる自分の意思を曲げた。
「うーん。そうだったかな。どうしよう」
「私が味付けに少し手を加えるよ」
「うん。ごめんね」
「いいってことさ」
そう言って、アリシアが調味料片手に味を調えていく。何だかんだで、毒さえなければ、アリシアの料理が一番だ。
俺は深く頷く。アリシアがパーティーで良かった。
「えーと。アイトは……味付けが好みだったんだよね? じゃあ、いっか」
「うぉっ! ちょっ」
「えっ? どうしたの? アイト?」
アリシアの救済の手が遠退いた。俺がアリシアに差し出した皿も、アーニャの一言で止まる。
嘘だろ。いや、待てよ。
「まさか、本当は美味しくなかったとかじゃないよね?」
「ないです」
アーニャの冷たすぎる声音で、俺の喉が自動的に動いた。そして、同時に胃が拒絶するように痛む。
数秒後、味の調えられたみんなの料理と、ありのままの大盛り料理を持った俺がいた。
それを一口食べる。そして、それとなくカインを見る。
「なあ。カイン。俺たち料理勝負したよな?」
「そうだね。懐かしいね。五年前ぐらいだったかな?」
「そう。それだ。で、一つ提案がある」
そう。提案だ。俺がプライドを捨てて、多分二度と言わないであろう言葉を口にする。
「今日の夜から俺とおまえで協力して料理を作ろう」
そう弱々しく提案する俺を見て、カインが味の調った料理を少し分けてくれた。
*
昼食を取り、さらに足を進める。胃袋を掴むなんて、言い回しがあるが、食事を共にして、二つのパーティーの間にあった目に見えないな距離感が埋まり、今は一つのパーティーとして動けていた。
基本はロゼが案内をする。索敵をカインとレフィがして、真ん中にアリシアとアーニャ。そして、いつ不意打ちをくらっても大丈夫なように俺が最後尾だ。
足を進めて、おおよそ一時間。それだけではあるが、景色というか、雰囲気が変わり始めていた。
何て言うか……。
「表現しにくいな」
ガイラスの森。そこにあったのは、俺の思い描いていた姿とは少し違った。草木の多さは当然だが、その中に、少なからず人間がもたらしたであろう痕跡があるのだ。
荷馬車の朽ちて半分になった車輪。錆びて苔で覆われた剣。一見それとはわからない衣類の断片。
廃棄された過去の市街地のような雰囲気に、物寂しさを感じた。
「もっと、自然! って感じかと思っていたのさ」
「だよな」
不自然なぐらいの人の痕跡。それが、ある意味一番ガイラスの森の異常さを表しているのだと思う。
「異常ですね。森にこれだけの人の痕跡があるのは。普通、人が通ったとしても、ここまで物は残らないと思います」
「意図的に捨てた。もしくは……」
「襲われて、物だけが残った」
これがガイラスの森。人の出入りさえも許されないような過酷な世界。
不意に思い出したのは、ハルの言葉だった。確か、奴隷商人に捕まった妹が、最後に目撃されたのがこの森の近く。そして、目の前には荷馬車の残骸が無数に。嫌な想像が働いて、俺は目を背けた。
「ロゼ。これも土魚の仕業なのか?」
「全部がではないであろうな。いくつかが。じゃな」
「てことは、他にも原因があると」
ロゼが頷いて歩き出す。人の痕跡に一瞥もくれないあたり、見慣れているのだろう。
「先に言っておく。ここから先は、守ってもらわねばならぬルールがいくつかある」
「うん。了解。聞かせて」
「まず、騒ぐな。声も足音も。極力周囲の静けさに馴染め」
まあ、当たり前といえば当たり前。さっきまで騒いでいたから、強めに念を押されているようだったけど、難しいことではないと思った。
「次に、はぐれるな」
俺は一人だけ軽く眉をひそめた。
はぐれる。ってことは、シルキーの預言を警戒してかな?
『預言者』シルキーの預言は二つあり、一つ目の『誘拐』は、すでに現実のものとなっていた。なので、二つ目の『分断』も、現実味を帯びているのが現状だ。
だからこそ、強く警戒しろってことかな。
「妾にしか見えぬものもある。アイト。そこの木に耳を当ててみよ」
ロゼが指差していたのは、年老いていそうな木だった。人間の年齢にすると八十歳ぐらいに見えるその木に向かうため、俺は腕の中にあった、まだ一桁程度の年齢であろうユグドラシルの苗木をアリシアに任せる。
サラマンダーの鱗のように、ひび割れた樹皮。そのざらついた表面に軽く触れて細かなゴミを払い、俺は耳を当てた。
――ゴゴ……ドクン……ドクン。
「うわっ!?」
流れる水の音の合間に、それさえもかき消すような脈動が聞こえた。植物から聞こえるはずのない音だ。人間のものに似ているが、よりゆっくりとしていて、音も大きい。肌から振動が伝わるほどだ。
その不自然すぎる事態に、俺の根っこは耐えられない。息が詰まり、足が絡ませながら尻餅をつくと、咄嗟に腰の剣を握る。脈がある。つまりは、『魔獣魔物弱点S』を持つ俺の命を脅かせる存在なのだ。
「待て」
剣を引き抜こうとしたが動くことはなかった。その原因は、剣の柄をそっと押さえるロゼ。力感はないのだが、面白いほど剣は動かなかった。
俺は確かめるようにロゼを見つめてから、異様な木の方を指差していた。
「あれ……! あれどうなってんの?」
普通心臓がある木なんていない。もしかしたら、別の音が心音に聞こえたのかもしれないけれど、どちらにしても、木からあんな音がするのは不気味だった。
すると、俺の反応を見ていたアリシアも同じように木に耳を当てる。その黒い目を何度かぱちくりさせながら「あー」と、なにやら心当たりのありそうな反応。
「聞こえたよな? その心音みたいなの」
「うん。聞こえたね。森で心音のある木。これはファンタジーあるあるのあれだね」
「変な前置きいらないから教えてほしいな。今このときも不安で心臓に悪いんだよ」
「トロントさ」
「トロント?」
トロントといえば、木に擬態しているモンスター。体の構造はそれこそほとんど木なのだが、歩き動き回るB級のモンスター。
「そうか……言われてみればだな」
心音を聞いたからというのもあるが、あらためて木に目を向けてみると、それっぽく見えてくる。
けっして太いとは言えない幹は、不思議と貫禄があり、どちらかと言えばずんぐりむっくりとした形をしている。それが今にも動くのではないかと警戒心が高まった。
「なぁ、ロゼ。この手。剣を抜くなってことだよね? つまりは、向こうに敵意はないんだよな」
「そうじゃ。トロントは外敵に対して厳粛に対応するだけで、わざわざ自ら襲ってきはしない。肉を食らうわけでもなく、地から水を吸うだけであるからな」
「てことは安全……と」
俺は呼吸を落ち着かせて剣から手を離した。けれど、不安なことには変わりなく、静かに足は後ろに退いていく。こういうところは、やはり『魔獣魔物弱点S』での経験が出ているだろう。
その合間に、朽ち果てた木の車輪の踏み、心臓が高く跳ねた。
「ひっ」
「『ひっ』て、アイトはやっぱりアイトだねぇ」
「うるせえ。万が一を考えたら刺激しないのが得策なの! 警戒してて何が悪い。恐怖も警戒のうちだぞ」
そう言って抵抗すると、アリシアがニッコリ。それが単に馬鹿にしているのか、俺らしいと笑みを溢しているのか曖昧で、鼻じろむように、俺はロゼへと話の主導権を戻す。
「だよな? ロゼ。警戒大事」
「そうじゃな。警戒しておくに越したことはない」
そう。これから先は全てのものに警戒すべきだ。なんの変哲のない木や小川でさえも、命を脅かす脅威が潜んでいるかもしれないのだから。
それとなく距離を取ってから、俺は話の本筋を思い返す。
「これがロゼにしか判断できないものか……。ちなみにカインはどう? トロントってわかった?」
「言われればマナの流れが少し違うのはわかるよ。でも、木と比べても、B級のトロントのマナの総量はほぼ変わらないから、正確に判別するのは難しいね」
探知系にも造詣のあるカインでも判別がつかなかった。これは本当にガイラスの森を抜けるにはエルフの力を借りるしかなかったようだ。
「判別法とかってないの?」
「勘じゃな。基本エルフは森と手を取りながら生きておる。その中で培われた言葉にできないような些細な感覚が、勘として刻まれる。ゆえに、明確な判別法はない」
「そうか」
「本当にかな?」
素直に俺が納得しようとしたところで、カインが割り込んだ。その割り込み方もそうなのだが、疑うような言葉の選びに、全員が緊張を纏った。
ロゼもカインを見ていた目の色が変わる。そして、剣呑な雰囲気で、低い声音を響かせた。
「何が言いたい?」
「簡単な話だよ」
カインは仲間である、ロゼに対してハッキリとした口調で言い放ってから、俺の方へと向く。
カインの目にあったのは疑念だ。エルンにいたときから気づいてはいた。俺たち三人に向ける目と、ロゼに向ける目の色が違うことに。
「ロゼに主導権を渡して、この森を進むのは危険だと思う。この場所は僕たちにも対応できない自然の罠がある。それをうまく使えば、ロゼは逃げることも可能だよ」
「そりゃあ、そうかもな。でも、俺はロゼを信じて任せてるんだよ」
ロゼとカインの両者を刺激しないように言葉を選んだ。俺らしくないやり方だが、こうする以外の方法がわからなかった。
ロゼについては、特級会議でも安全とは判断されなかった。その中で、カインはロゼの処刑に反対してくれたが、それはあくまで処刑だけ。信用はしていなかったのだ。
「アイトが信じていても、ロゼがそうとは限らない。ロゼは魔人だよ。人とはわかりあえない心根がある」
「カイン君。それは決めつけなのさ」
「……魔人は『魔人』だよ。変わることなく、僕たち勇者を殺し、人を殺し、街を奪ってきた『魔人』だ」
カインを止めようとアリシアも言葉を発したが、今回はアリシアでも止められない。そして、そのカインの警戒心の根幹を俺たちは知っていた。だから、感覚的なロゼへの評価を胸に沈めることしかできない。
カインはスズナリが魔人に傷つけられたのを目の前で見ている。魔人に聖剣も奪われた。そして、俺よりも付き合いがあり、師匠であり、先人だった『勇者』フェンデルも、魔人によって亡き者とされた。
誰がそんな憎しみを、警戒心を、否定できるだろうか? カインと同じ苦しみを味わっていない俺たちの誰が魔人はそうじゃないと言えるだろうか?
重々しい空気が、不気味な森の景観と合わさりより心を沈める。
「言いたいことはわかる。そして、貴様の判断は正しい。妾も信用されようとしてはおらぬからな。しかし、忘れるな。妾には奴隷紋もある。信用できぬ妾に人間がつけたものであろう?」
ロゼが自身の感情を捨てたような言葉を選ぶ。この場を納めるには正しいが、どうしても皮肉のように聞こえてしまった。
「情報を話す話さないは、奴隷紋には触れない」
「だからといって、裏切れぬのも事実じゃ? 違うのか?」
お互いが睨み合い、まさに一触即発。それぞれが剣を手に取りそうになったその瞬間。
「あー!! もう! ケンカしに来たんじゃないでしょ! ふ・た・り・と・もー!!」
ちょうどさっき大声を出すなと言われたのに、そんな注意さえも無視して声を上げたのはアーニャだった。
苛立ちがぶつかり合おうとしていた二人だったが、流石にここまで叫ぶアーニャを無視はできなかったようで、意識がアーニャに向いた。
「カイン! アイトを手伝いに来たんでしょ! 今困らせてどうするの!」
「それは……」
「ロゼさん! アイトと絡みすぎ!」
「今の話と関係は……」
「ともかく!!」
話を全く聞かずに回り続けるアーニャの舌に、流石の二人も面食らう。片や『勇者』と『賢者』を持ち、普段から落ち着いていて動じないカイン。片やロア以外の弱点が本当に存在しないロゼ。この二人が、こうして目を開いて言葉を発せずにいるのは珍しかった。
……ロゼの方はかなり無理やりに怒られてる気がするけど。
顔を赤くし、愛嬌のある顔を厳つく歪めるアーニャは、喧嘩をしていた二人を睨む。
「仲良くいこう! まだ旅は始まったばかりだよ!」
そう言うアーニャの正直すぎるお叱りを受けて、居心地が悪くなったのか。カインが頭を下げた。多分、カインの心中には、変わらず疑心は残っていると思う。けれど、その上にアーニャが無理やり罪悪感を被せて、謝らさせた。
「言い過ぎたよ。僕個人の信用と、仕事とを合わせて考えるのは間違いだった」
「うんうん。カイン偉いよ」
偉いのか?
カインの発言には信用できないといった意味合いが含まれていた。なので、万事解決とは思えなかったのだが。
「貴様の矮小な思考に妾を付き合わせ……」
「はい。やり直し」
「ぐぬ……」
普段通りにロゼが答えようとしたところでアーニャの待ったがかかる。ロゼはここで引き下がるような人柄ではないはずだが、アーニャの屈強な意思を前に、諦めたように舌打ちをする。
「よい。許す……」
それだけだったが、ロゼがかなり譲歩したと、みんなは受け取った。
張りつめていた空気が木々の隙間に流れていく。たった二人の口論だったが、当人らの実力も相まって、ひどく神経を削られた。
「まあ。よかったか。でも、いったん休憩挟もうか。もう少し詳しく話を聞きたいところだし」
そんな風に俺はみんなに同意を求めると、足を止めて安全確認が始まる。カインとロゼとレフィがうろうろし、残されたのは俺とアリシアとアーニャ。
でも、一つだけ気になってたんだよな。
俺はさっきの会話で気になっていたことを、腕を組んでいたアーニャに訊いてみた。
「ロゼへのお叱りだけ無理やりだったよな」
「だまらっしゃい!!」
「へぶっ!?」
と、そんな風に、あの二人に対して見せなかった暴力という名の怒りが、俺の頬を打ち抜いた。




