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女神に一度願った願いは例え噛んだとしても変えられない!!  作者: 細川波人
四章 エルフ王国・セザレイン
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59 追加メンバー

 

 体の調子を再度確認するように屈伸。晴れ渡る空を眺めて、心を落ち着かせる。


「よし」


 俺は新たな次の目的地エルフ王国セザレインを思い浮かべて、気持ちを逸らせる。


 そして、一人ずつ顔を確認して、状態を把握する。


「アリシア」


「問題なしです! 隊長!」


 ビシッと姿勢を正して報告するアリシア。ちょっとウザいが問題なし。


「レフィ」


「えーと。この雰囲気は、どんな風に返すのが自然かわかりません。ですが、準備は万全です」


 天然のレフィがアリシアの雰囲気に流されて少し混乱していた。けれど、相変わらずの調子で微妙な笑みを浮かべていた。


「ロゼ」


「うるさい」


 ……ごめん。


 気持ちが高ぶって、調子にのっていたところで冷たくロゼにあしらわれた。


 一致団結して森越えに挑もうとした矢先、出鼻を挫かれる。


 俺は気まずくなって、塞がった両手の上にある、ユグドラシルの苗木を見下ろした。ユグドラシルの苗木ことユグちゃんは、今日も元気に葉を揺らしていた。


「……行こっか」


 そうして、いまいち気合いが入らなかった俺は、普段通りの緩さで言った。すると、それぞれリラックスした調子で、ガイラスの森の方へと向かうのだった。



「食料はそれぞれの合わせて五日分。水はぼちぼち。他は……」


「ポーションなども、トーリスで必要な分は補充してきました。問題ないですよ」


「そっか」


 レフィの報告に俺は安心する。これから先は俺たちにとっては未開の地。万全以外では挑みたくはない。


 エルンの北にある森の入り口へと、俺たちは歩いて向かっていた。こちら側の花は少し大人しい色合いで、青や茶色などが多く、赤や黄色などはほとんどない。

 人の通りも少なく、意図してこちら側へ来ることを避けているようだった。


「森に近づくのも嫌なのか……」


 エルンからすぐ隣に広がるのがガイラスの森。街からも目に入るくらい身近にある森なのだが、潜在的な忌避感があった。


「気持ちはわからなくないのさ。だって、帰って来ない人が多いわけだからね」


「らしいな」


 森に入ると帰って来ない。大袈裟なように聞こえるが、多くの人が被害にあっている。一応、ガイラスの森で狩りをする冒険者や狩人はいるそうだが、知識のない者が入るには危険すぎる森なのだ。


 あまり使われてていないであろう道を歩きながら、青々とした森に目を向けた。


「まあ、ロゼがいれば大丈夫だと思うけど……」


「当然じゃ。妾にとっては庭と変わらぬ」


「心強いな」


 唯一ガイラスの森を知るロゼに頼りながら、俺たちは森へと向かっていく。その途中。


「おーい!」


 と、背後から声が聞こえて振り返った。すると、そこにはアーニャとカインの姿があった。

 新調したであろう茶色いマントと白い装備を纏うカイン。そして、同じく肌の露出の減った装備に変えているアーニャ。


 どうしたんだろ。どっかに行くのかな?


 装いの違う二人を見て、俺がそんな風に思っていると、目の前までやってきたカインが口を開く。


「僕たちも一緒に行くよ」


「……はっ!?」


 少しの間隔をおいて、頭へと染み込んできたカインの提案は、俺にとっては信じられないものだった。


 俺たちに付いてくる? なんで?


 今、カインたちにはやることがある筈だ。ヴァンパイアの件を騎士団に説明したり、被害者のケアをしたりなど、挙げてしまえばきりがない。それに、カインがミラシアス王国を離れるのも問題だ。魔王の動きがわからない今、勇者が人間の国から出てしまっていいのだろうか。


 俺の決して速くはない思考の合間に、ちょっとした時間が生まれた。その時間の中で、カインは、俺の思考を手に取るように把握しているのだろう。


「言いたいことはわかるよ。ただ、今回の件の恩返しをしておこうかなってね」


「恩返し? また、お前らしい考え方だな」


「時間を取らせたからね。その分、僕たちが速く進めるように手伝いたいんだよ」


 それが、お前らしい人間性のできすぎた判断なんだよな。


 俺はなんとも言えない気持ちで、頬を痙攣させていた。すると、俺とカインとを交互に見ながらアリシアが話に混ざってきた。


「いいんじゃないかな? 私はウェルカムさ。実力は見たからね」


「うーん。おまえはコイツが国から一時的にでも出る意味わかってる?」


「大丈夫なのさ。心配はわかるけどね」


 アリシアは俺の心配をわざわざ口にはしなかった。勇者が危険に晒される可能性。それを俺は一番気にしていた。それをアリシアは、カインの様子をから、気を遣って言葉にしなかったのだ。


 カインも人の心を読むのがうまいけど、アリシアも流石だな。


 俺とカインの心情を読み取って、アリシアは大丈夫と言っているのだろう。それであれば信用もできる。


 そう。なんと言っても、アリシアが大丈夫って言ったんだから。

 

「ん? 今、大丈夫って言った? それって、大丈夫の方の大丈夫?」


「あの、アイトさん。何を言っているのかわかりませんでした」


「あぁ。ごめん」


 アリシアの大丈夫じゃないタイプの大丈夫の可能性に、俺は一瞬不安になった。けれど、今回は心配の対象がカインだ。大丈夫なタイプの大丈夫だろう。


「それにな」


 俺は既に準備を整えているカインとアーニャを見た。カイン一人の考えではなく、アーニャの意見もあって、ここにいるのだろう。そう思うと、あまり悪い方向には転ばない気がしていた。


「……わかった。じゃあ、一緒に行動するか。長旅になるから、連絡が必要な所にはしとけよ」


「大丈夫。済ませてるから」


「そうか、じゃ……」


 『最弱』アイト・グレイ

 『毒生成師』アリシア・シャンデ

 『破壊者』レフィ・キュアル

 『双』ロゼ・アルメリア

 『勇者』カイン・ブレイン

 『風魔法使い』アーニャ・マテリア


「行くぞ」


 俺は一瞬にして豪華になったパーティーメンバーに声をかけ、エルンから森へと入っていくのだった。


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