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16 他者の意見


「アリシア!」


 目を逸らした先の物陰から、ひょっこりと唐突に現れたアリシアに俺は目を丸めた。


「どうして場所がわかったんだ?」


「あんなに派手にボコボコにされてたらわかるさ。一度は目の前を、それはプロ野球選手の豪速球のような勢いで通りすぎたんだからね」


「相変わらず例えがわかんないな」


 例えこそ分からないが、要は無様に俺が宙を飛んでいた所を見ていたと言うことらしい。屈辱的だ。


「あっ、もっと早く来いよとかはNGでね。主人公はそんなものだからさ」


「臭いで囮を作ってたんだろ。ローブが無くなってるしな」


「人の照れ隠しを冷静に暴かないでほしいな!」


 束ねた前髪を揺らし、珍しくしどろもどろするアリシアの姿に満足。一杯食わされてばかりじゃない。

 ともあれ、咄嗟の機転。アリシアの有能さと、それを行動に移せる気概に、どこかこそばゆい気持ちになった。

 

「助けに来てくれたんだな。素直にありがとう。そうか……来てくれたんだな」


 俺はアリシアのふざけたようで真面目な顔を見ながら、しみじみと彼女の良心を噛み締めた。


「なんと言うか、君も中々だね」

 

「どう言うことかは知らないけど、そろそろ行くか。囮がローブだけなら、今のうちに逃げないと」


 立ち上がろうとするが足が縺れた。するとアリシアは倒れた俺の手を引っ張ってくれた。相変わらずの見かけによらないちょっとした筋力によって、俺の体は難なく持ち上がる。


「いっ!」

 

 胸が痛い。薄々勘づいていたが、さっきの攻撃は無傷とはいかなかったようだ。『自然治癒』も発動してないから、折れているのは間違いないだろう。


「大丈夫かい?」


「折れてるっぽいな」


「大変じゃないか! それなら早くあいつを倒して帰ろう!」


「当たり前のように言うな……」


 俺の骨が折れているのにも関わらず、アリシアは強気だった。

 例えアリシアがいくら強気であったとしても、今居るのは最弱のパラメーターと希望のないスキル持つ二人だけだ。そんな二人が集まったところでどうにもならない。


 そんなすでに諦めかけていた俺に、アリシアは言った。


「計画通りにレベルは上がったかい?」


「計画って別に話してなかっただろ。でもまあ、当たりだ……。計画的に上がって、期待を越える結果は現れなかった」


「それでも上がったんだね。取り敢えず歩きながらでいいから教えて欲しい」


「そんなのなんの意味があるだよ……」


 俺は口調を強めて自己否定のような皮肉を吐いた。

 

ああ、またやってしまった。自分が無力だからって人に当たって、自分に向き合わない。臆病者。卑怯者。


 理不尽な怒りでアリシアを傷付けてしまった気がして、俺はつい顔を伏せた。


 そこへ……


 小さく暖かな手が頬を包んだ。ぎゅっと頬を潰すような力は感じたが相変わらず俺の体は硬い。


「無駄じゃないよ」


 アリシアは俺を逃がさないように顔を押さえ、至近距離で瞳をひたと見つめる。


「無駄じゃないんだよ。アイトの努力は。君の努力は。だから話して欲しい。どんなに弱いと思っても、決めるのは君じゃないんだ」


「だったら誰が決めるって言うんだよ」


「君以外の誰かさ」


「っは?」


 当たり前で、ある意味投げやりな回答に拍子を抜かれた。それでも不思議と真っ直ぐ視線を送ってくるアリシアが俺は分からなかった。


「決めるのはいつも他者なんだよ。学校、職場、友達、先輩、店員、隣人、家族。そんな多数の人間が、社会が、君の価値を決めるんだ」


「そっ、そんな他者に決められたものが、なんの役に立つんだよ! 俺の努力なんて」


「知ってるかい? 君の頬にさっきのベーコンの食べかすが付いているんだよ」


「えっ!?」


 食べかす!? 何で今そんなことを。ついつい、左手で頬を触ろうとして、アリシアの手と触れた。


「ねっ。他者の意見って役に立つだろう?」


「騙したな! こんなシリアスな場面で」


 アリシアが真剣な表情を崩した。そこで俺は恥ずかしさで、アリシアの手の温もりさえもかき消すほどに顔が熱くなった。


「まっ、そう言うことさ。自分の事なんてほとんど見えないんだよ。最も身近な他人ってね。だから自分の評価を自分の中で深く考えても無駄さ。ならさ」


 アリシアは俺の手と重なっていない、左手を自分に突き付けた。


「一番君を見てそうな人に任せちゃおう! なんてね。てへっ」


 アリシアはここ一番の笑みを浮かべたのだった。


 特に深い意味も無いそれだけの発言で、俺の劣等感はどこかに消えていた。代わりに……。


「――。一番見てるって何かちょっと気持ち悪いな」


 自分に向けていたアリシアの拳が俺の空いた頬をぶん殴った。



 痛むようで痛まない頬を擦りながら逃げ回っている。


と言っても、現在足を動かしているわけではなく、鳴りを潜めて、付かず離れずの距離で俺たちの姿を見失った魔物の様子を見ていた。


「見つかってないのなら、逃げてしまえば良いって言いたいんだけどな……」


「浅部の方に居るから、避けて通れないんだよね。そこら辺わかってるの、質が悪いよ」


「どっちにしても迎撃必須。手持ちの札は二枚だけ。最悪だな」


「そこをどうにかするのがボス戦って奴さ。さて、そろそろ手札を開示しようか」


 俺はくるりとステータスプレートを取り出した。そして、一番下の欄の『剛健』をタップした。

 

『剛健』 レベル2 体の外側から5ミリが固くなる。

 派生スキル エンチャント

 次のレベルまで被ダメージ934


「うーん。ちなみに残りのポーションは?」


 俺は空間ポーチの口を開き、手を入れる。雑多とした中からポーションの数だけを手探りで数えた。


「……六本」


「つまり、次のレベルアップに期待は出来ない。ホントに手元にある持ち札で、どうにかしないといけないんだね」


 そうなのだ。そして現状切れる札は俺とアリシアのみ。手札としてはあまりに心もとない。


「あっ! あれは無理なのか? ロッドベアーの時の」


 俺は圧倒的な力の差をものともせずに勝ち取った勝利を思い出した。あれならもしかしたら……。


「自分からエサになろうなんて、アイトも結構変わってるね」


「そんな奇行を無断でやらせたのはお前だけどな。まあでも、やりたくは無いけど、勝つためなら何でもしてやるって覚悟だけはあるんだ。で? 答えは?」


「あの感じだと無理そうだよ。経口で毒を入れるのは難しそうだし、皮膚から入れるにしても相手は剣を持ってるからね。直には触ってこないさ」


 勿論、俺が傷付けて傷口から毒を入れるなんて事は不可能だろう。鎧が硬すぎる。鎧か……。


「アリシアってあの鎧溶かせたりする?」


 次に思い出したのはハリネズミとの戦いだ。確かあの時は、ハリネズミの固まった唾液と俺の服を溶かしていた。それと同じ要領で鎧を溶かすことが出来れば倒せるかもしれない。


「出来るよ。鎧を溶かすだけならね。あれがオリハルコンやミスリルじゃない限りは溶かせる。でもあの魔物が着てるってなると、話が変わるかな。溶かす前に私の体がぷちゅんだよ」


「ぷちゅんは怖いな」


「怖いよね~」


 ……。


「まあ、具体的な作戦の内容の前にもっと詰めよう。アイトはさっき見せてくれた『エンチャント』ってスキルを試したの?」


「いいや、まだ」


「なら、やってみようよ」


「ああ、ならこの剣で」


 サリスの剣だが、この際文句は言わせない。安い代償だ。いや、犠牲になると決まったわけではないけど。


 俺は剣を持って意識を集中させた。


「エンチャント!!」


 体から剣へと流れる微弱なマナを体感するのと同時に、スキルが発動した。そして、ほのかに剣が光り始める。


「こ、これは……」

「これって……」


 ここで現れた俺たちの三枚目のカードが現状を大きく動かした。



 さて、準備は整ったぞ!蒼の森ラストスパート!駆け抜けろ!


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